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魔法少女達 その④

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 ガンッ!! ガンッ!! ガンッ!! と銃声が響く。
 魔法少女安藤久美は、両手に持った長銃の引き金を引き、銃弾を次々と吐き出して、サーカス団を殲滅していく。百発百中、無駄のない正確な射撃。短いスカートの裾を翻しながら、踊るように彼女は攻撃を続ける。まだ周りにはザコ敵しかいないのでわざわざ能力を使うことはない。
 彼女は次々と敵を倒していくが、それでもたった二丁の銃では限界がある。
 周囲にいる親子連れの人形やアメ配りのボウシは攻撃力こそほとんどないものの、ほとんど無限湧きと言って過言ではない。簡単には殲滅できない。


 「面倒ね……」


 そう呟き、ちらりと隣を見る。
 直後そこにもう一人の魔法少女が現れる。


 「久美さん!! どうしました?」
 「瑠花、行きましょう」
 「わっかりましたー!!」


 警察官の如く敬礼する瑠花。
 久美は自分の周囲に銃弾を嵐のように渦巻かせると、二人並んで突っ込んでいった。道中、瑠花は自らの能力を発動すると、一気に加速し一足先に向かうとその手握る短剣を振るいボウシを切り裂きつつ、爆発を回避していく。
 一方の久美は独特な戦い方をしていた。
 躊躇なく前に進み、敵の群れに突っ込みつつ、周囲の銃弾で邪魔な敵を撃ち殺す。そして、それで撃ち漏らした奴は、両手の銃で殺していく。まるで衛星を伴う流星のように、彼女は無双していく。



 一方で、また別の魔法少女がほど近い場所で戦っていた。
 手にする太刀が不気味にうごめき、まるで蛇のようにのたまうと、次から次へと敵を切り裂いていく。それは不気味な光景だった。その中心に立ち、凄惨な笑みを浮かべる少女――枝垂彩芽――はさも楽し気に戦っている。
 そんな中、うっかり一体のピエロを撃ち漏らしてしまった。シルクハットをかぶったそいつは、機関銃のようにトランプを乱射しながら、彩芽の方へ向かって行く。
 それに気が付いた彼女は一度刀身を縮めつつ、地面を蹴って飛び上がるとそれを躱し、虚空へ向かって声をかける。


 「宴ぇ、頼むわぁ」
 「分かったよ、彩芽ちゃん!!」


 明るく、はつらつとした声が響く。
 だが、声を出した本人の姿が見えない。
 ところが突然何もない場所から一人の少女が姿を現す。マントを翻し、腕を振るうと一本の鞭を伸ばす。それは見事シルクハットのピエロに命中すると、首に巻き付く。宴と呼ばれたその少女は次に腕を引くと思いっきり首を絞めた。
 ピエロは手にしていたトランプを取り落とすと、動きを止め、首の鞭を何とかほどこうとする。
 その隙を見逃す彩芽ではない。
 素早く腕を振るうと、刀身を一気に伸ばすとそれでピエロを貫き殺した。


 「やったわねぇ」
 「そうだね!! 彩芽ちゃん!!」


 いつの間にか隣に来た宴と笑顔で言葉を交わす。
 しかしまだ敵はいる。
 二人は喜ぶのもそこそこに、すぐに飛ぶと即座に次の敵へと向かって行った。





 「行くよ!! 世界」
 「うん!! 言葉」


 そっくりな顔、そっくりな麗装、そしてそっくりな武装を手にした二人の魔法少女。
 彼女たちは自分たちの能力を生かし、抜群のチームワークでサーカス団を刃の錆へと変えていく。他の魔法少女とは全く違う動きに、サーカス団はついて行くことができない。圧倒的な戦い方だが、彼女達の目的は露払い。
 本命はその後ろ。
 二人組の魔法少女。
 世界と言葉はザコ敵の掃討を終え、一息つく。
 その向こう。
 巨大な影が一つ。



 ピエロ型のバルーン、その大きさは五mを遥かに超える。またバルーンと表現したが、果たしてそれが正しいのかは悩みどころだった。なぜならそいつはまるで生きているかのように、右腕を上げるとそこから紙吹雪のようなものをまき散らしていた。色とりどりのそれは、地面に落ちると同時にアメ配りのボウシやビックリ箱ピエロへと変貌していく。
 どうやらこいつが敵を生成しているらしい。
 そう見当をつけた黒髪の少女は、その手に一丁の拳銃を顕現すると、握りこむ。
 それを見て隣に立つ金髪をした少女は薙刀を手に話しかけた。


 「ヘイ、フレイヤ、行きますか?」
 「そうね、レイ。あいつを倒せばかなり楽になるんじゃないかしら」
 「そうですネー、やっちゃいショー!!」
 「じゃあサポートお願いね」
 「お任せくだサーイ!!」


 そう言っている間に、敵が動いた。
 ニヤニヤ笑いの目がギラリと光ると、そこから虹色のレーザーのようなものが放たれた。
 それに即座に反応すると、二人は同時に地面を蹴ってその場から離れる。さっきまで二人がいた地面にレーザーは命中し、ドゴンッと大爆発を起こす。
 その爆煙に紛れつつ、フレイヤは銃を構えると、バルーンに向かって無造作に銃弾を放つ。バンッ、バンッと軽快な銃声が響く。だがこの程度のサイズの拳銃では大したダメージは与えられない。命中するも弾かてしまう。


 「さて、ならもっと火力ださないとね」


 拳銃を投げ捨ててそう呟く。

 一方でレイはピエロの動きを見極めていた。今はフレイヤにしか興味がないようで、彼女に向かってばかり攻撃を繰り出している。この隙に攻撃を仕掛けることにすると、急いで走るとバルーンピエロの後ろに回り込もうとする。
 射程に入って能力をかけられれば、それで終わる。
 ところがそう簡単にはいかない。どうやらピエロはレイの動向に気が付いていたらしい。
 フレイヤに向かいレーザーを一撃、地面に線を描くように放つ。すると一文字に砂埃が発生し、その中に潜り込んでしまう。


 「あっ…………」


 視界が死んだ。
 その隙にバルーンピエロは動くと、体を百八十度回転させる。
 すると、ちょうどそこにレイが辿り着く。


 「オウ……ばれたましたカー」


 正面からぶつかるのはやめたい。
 そう思ったレイは足を止め、すぐにでもそこから離れようとする。
 ところがその前に敵が動いた。
 太い右腕をグイッと上げると、握りこんだ拳の先を向ける。
 何をするのか
 そう思った瞬間。
 ピエロの腕が発射された。
12, 11

  



 「ホワイッ!? ナックルボンバー!?」


 ロケットパンチでない辺りが余計にマニアック。だが、ここに「なぜに鋼鉄ジーグ」と突っ込む人間はいない。
 レイは命中する前に再び地面を蹴って飛ぶと、急いでその場から離れた。
 直後
 地面に命中したピエロの拳は、ドゴンッ!!! という爆音とともに周囲の地表を抉りはじけ飛んだ。さっきの物とは比にならない爆煙が上がり、巨大なクレーターが形成される。幸いなことに犠牲は敵だけだったが、まともに喰らっていては、さすがの魔法少女でもただでは済まなかっただろう。
 だが、この攻撃が当たらなかったこと、フレイヤを野放しにしたことがバルーンピエロの敗因だった。
 いつの間にかフレイヤはバルーンピエロの遥か上空に浮かんでいた。


 「残念、私の勝ちね」
 「フレイヤ!! きめちゃってくだサーイ!!」
 「行くわよ」


 ピエロが上にいるフレイヤに気が付いたとき
 もうすでに手遅れだった。
 フレイヤは自信の背後に大量の銃火器を顕現する。サルトライフルからバズーカ―、ありとあらゆる種類の武器がずべて合わせて百~二百。無限とも思われる冷たい銃口がピエロの頭部に狙いを定めている。


 「終わりね」


 次の瞬間
 引き金が引かれて大量の銃弾、ミサイル、その他もろもろが放たれる。
 耳をつんざくような轟音が響く。鼓膜が破れるんじゃないかと一瞬疑うが、あまりにも音が大きすぎて逆に聞こえていなかった。
 細かい爆発音が何十回と響き、ピエロの体がドンドン飲み込まれていく。大きく、動きが遅いゆえに逃れることができない。高度がどんどん下がっていくと、一分と立たないうちにピエロの体は地面に落ちた。
 その時だった。
 プシュ――ッという軽い音とがして、もうもうとしていた煙の一部が吹き飛ばされる。
 どうやらピエロの体から空気が抜けているらしい。ほんの少しだけ見えていたピエロの体がどんどん縮んでいくのが見えた。
 それを見てレイは喜ぶと、地面に下りたフレイヤの元に戻り、声を上げる。


 「ヘイ!! やりましター!!」
 「まだ油断できないわ」
 「そうですかネー?」
 「そうよ、ほら、見なさい」


 そう言ってフレイヤは指を伸ばす。
 するとその先に小さな小さなプロペラを頭に生やしたこれまた小さなピロの姿が目に飛び込んできた。どうやら、あれが本体らしい。バルーンはただの武器だったよう。
 レイは一足早く動くと、自らの出せる全力で移動すると、ピエロの前に回り込んで、薙刀を突き出す。
 すると、目の前に薄い結果が張られ、その中にピエロは閉じ込められて身動きが取れなくなる。


 「ハーイ!! 終わりデース!!」


 そう言うと同時に
 薙刀がまっすぐ突き出されるとピエロの顔面を貫いた。

 とどめを刺したからレイは待っていたフレイヤの元に戻っていった。


 「イエーイ!!」
 「いえーい」


 ハイタッチして喜ぶ二人。
 その光景は非常に微笑ましいものだった。



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