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魔法少女達 その⑤

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 そこからほど近い場所で、また二人の魔法少女が戦っていた。
 近来的な戦闘服のようなものを纏い、近くには一本の巨大なハンマーが地面に突き刺されていた。男勝りな顔をしていたが、長く伸ばした髪を適当に結ってポニーテールにしていた。彼女は地面に座り込み、両の掌を地につけて何やらしている。
 びっくり箱ピエロやマジシャンピエロの群れを前に、微動だにしない彼女。
 怯えて動けないのかと思えるその姿。しかし、それは違うと断定できる。
 なぜなら、彼女の顔にはあ余裕の笑みが浮かんでいるからだ。


 「さてと、これでも喰らいな」


 そう言うと同時に、地面に異変が起きる。
 パキパキパキと儚い音がすると、地面に氷が張っていく。それは驚異的なスピードで広がって行き、ピエロの集団を飲み込んでいく。それは足元からドンドンピエロの体を包み込んでいき、その動きを制限していく。
 やがて氷漬けのピエロの偶像がいくつも完成する。
 少女――東雲詩音――はそれを見て満足そうに頷くてから大きく伸びをすると言った。


 「さてと、後は頼むぜ、アリヤ」
 「…………分かった」


 小さな言葉と共に
 一人の少女が降り立つ。両手に刀を持った少女は、氷の偶像たちの中央に立つ。
 アリヤだ。
 彼女は自分の能力を発動すると、強力な衝撃波を発生させる。
 すると、強力な衝撃波が二つに分かれて発生し、氷の偶像を一気に破壊した。不気味な火の光を弾いて、美しく輝く氷の破片が撒き散らされる。ダイヤモンドダストのようなそれが降る中央で、アリヤは静かに立ち尽くしている。
 詩音はそれに見とれることなく、まっすぐ彼女に向かって行くと話しかけた。


 「やったな、アリヤ」
 「…………そうだね」
 「じゃ、次行こうぜ」
 「…………うん」


 詩音とアリヤ。
 にっこりと笑う詩音。
 それにつられるようにアリヤも唇の端を上げると小さな笑みを浮かべた。




 「ふむ、こんなものか」
 『そうね、そうかしら?』


 やけに和風な麗装を身にまとい、手には独特な形状をした棍――七節棍――を握っていた。周囲にはさっきの乱戦で犠牲になった式神の破片がフワフワと浮いている。その隣にいるのはヘッドフォンを被って、針を持つ少女。その手にはタブレットがはめられていて、そこから音声が流れていた。
 二人とも少しも息が上がっておらず、さっきまで戦っていたとは到底思えないよ余裕綽々の姿だった。
 二人は首を回して周囲の様子を探る。
 ふと見ると、三体いたバルーンピエロの一体が一瞬のうちにはじけ飛んだ。どうやら朱音や遥香と言ったあたりの魔法少女が一斉に仕掛けて落としたらしい。先輩魔法少女たちはあまり集団戦が得意でない代わりに、単体での火力が馬鹿みたいに高い。一度標的を決めると数秒で勝負が決まることもある。
 これでバルーンピエロの二体目も落ちた。


 「うん?」
 『どうしたの? 朱鷺』
 「三体目も落ちた」
 『あ、本当だ』


 朱鷺の言う通りだった。
 最後のバルーンピエロがまるで何かに引き寄せられるように地面に落ちると、次の瞬間には幾筋ものレーザーが伸びてきて、あっという間に貫いていく。一秒も経たぬ間にピエロはしぼんでいき、姿が見えなくなった。
 誰がやったのか、一目でわかった。


 『あの子たちも頑張っているみたいね』
 「未熟だがな」
 『フフ、そう言わないの』


 そう言って優しく諭す。
 優希はそのあと少し考えるとこう言った。


 『一度、集合しましょう』
 「そうだな、見るからに敵もだいぶ減った」
 『お願いできるかしら』
 「任せろ」


 胸を張って朱鷺はそう答えると、大量の式神をだまにして一斉に宙に放つ。すると、真っ白い紙の花火が宙に上がり、周囲に式神を舞い散らせる。これは集合の合図だ。これで魔法少女たちはここに来るだろう。


 『じゃあ、待ちましょうか』
 「そうだな」


 二人は他のみんなが来るまで大人しくしていることにした。



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 「だーかーらー!! 私が接近している時に勝手にサイコキネシスで引きずりおろさないでよ!!」
 「うるさいな!! お前が引きつけていたから隙ができたんだ、それを生かさなくてどうするんだよ!!」
 「私が潰されるでしょ!! 真下にいたのに!!」
 「ちゃんと考えていたっつーの!!」
 「考えてあれなの!? あんた馬鹿でしょ!!」
 「お前よりましだ!!」
 「うっざー!!!」
 「二人とモ、うるさイ」


 地面を蹴って高速で進む三人。
 そのうち、制服とセーターを足して二で割ったような独特な麗装を纏い、手には鋭い剣を握っている。マリアだ。その隣にいるのは、学校の制服姿のままの超能力少年、榎原ユウキ。そのまた隣が機械の少女デルタだ。
 この三人でさっきのバルーンピエロを落としたのだ。
 その後、朱鷺の合図を見て、まっ直ぐそちらに向かっている。
 その間にひたすら不毛ない言い争いを続けている。そして、いつも通りデルタがツッコみに専念している。


 「大体俺は一対一の方が得意なんだよ!! ちょっとワンマンプレイになってもしょうがないだろ!!」
 「だからって私犠牲になってもいいの!?」
 「なってないじゃん」
 「そういう問題なじゃない!!」
 「うるさいっテ」


 いつまでたっても言い争いを止めない。
 いい加減デルタが実力行使に出ようかと悩み始めた時、
 ボンッという軽い音がして目の前の地面が吹き飛ぶと、そこから一体のクマが飛び出した。どうやら、地面を潜って来たらしい。いきなりマリアの正面に出てきて両腕を上げ「クマ―!!!」と叫ぶ。
 だが、キレ気味のマリアにとってそれは大した障害ではない。
 マリアは剣を握っていない方の手をまっすぐ伸ばすと、クマの腹部にパンチを叩き込む。
 その瞬間、マリアの持つ唯一の能力が顕現する。
 強力な魔力が腕から放たれるとクマの体内から魔力をつかみ取り、引きずり出す。一瞬の間にクマは命を失う。マリアは引き抜いた魔力を一気に自分の体に吸収する。クマの体はゆっくりと崩れ落ちると消えていった。
 早業だった。
 ユウキはヒューと口笛を吹くと言った。


 「おう、やるじゃん」
 「え、そう?」
 「いや、言うほどじゃない」
 「ハァ!? 何それ!!」
 「マリアは褒めると調子に乗るから」
 「うっざー!!!」
 「うるさいなぁ!!」
 「ユウキこそ無茶苦茶な戦い方しかできないくせに!!」
 「あぁん!! 喧嘩売ってるのか!?」
 「………二人とモ、いい加減にしなさイ」


 デルタはそう言うと、腕を伸ばし二人の頭をガシッと掴み込む。
 そして全力で握ると、思いっきり潰そうとする。
 さすがに魔法少女と超能力者、簡単に割ることなどできないがそれでも痛みを与えることはできる。


 「痛い!! デルタ痛いよ!!」
 「リアルアイアンクローだけは勘弁してくれ」
 「じゃア、静かにしなさイ」
 「「はい」」


 いわれた通りに大人しくする二人。
 こういうときだけは素直だった。


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