帰宅
「…………」
無言のままドアを開けるアリス。
鍵なんて気の利いたものをかける習慣はない、いつも開けっぱなしだ。どうせ盗まれるものなど殆どないし、仮に家の中でばったり出くわしたとしても、勝てる自信がある。それにどうせ中には人がいるのだ。
玄関から入ったアリスを迎えたのは、優しい男の声だった。
「お帰り、アリス」
「…………」
「今日はあまりもんだけどいい?」
「勝手に作ったの?」
「別にいいだろ? そうでもしなきゃ食べないんだから」
「…………」
反論できない。
仕方がないのでアリスはもう何も言わずに真っ直ぐリビングに向かうと、自分の席に座り込み、あらかじめ用意されていたお茶を一口飲む。そして、台所に立って何かしら料理をしている彼の背中を眺める。
正直な話、エプロン姿が似合っているわけではないが、もうすっかり見慣れた光景になっていた。
アリスはほんの少しだけ唇の端を上げるとこういった。
「ありがとう。達也」
「うん? いまさらなんだよ、気にすんな」
そう言って達也は振返るとアリスに微笑みかける。
その時すでに彼女はいつもの無表情に戻っていたが、それでも達也は構わなかった。
一緒に入れるだけで幸せなのだ。