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学校 その①

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 「おはよー」
 「…………」
 「あら、早いですわね。アリス、達也さん」
 「いやー宝樹と安藤には負けるよ」
 「フフ、褒めても何も出ないよ」


 教室に入って真っ先に挨拶をする達也と対照的に何も言わないアリス。これもまたいつもの事、アリスは真っ先に自分の席につくと突っ伏して寝始める。別に眠いわけではないはずなのに、アリスはいつもこうだった。
 教室には宝樹と久美がいた。
 彼女たちはいつも早い。家から学校までが近いアリスたちより必ず前に来ている。噂では宝樹は車で送ってもらっているらしいが、久美についてはよく分からない。
 達也は彼女達と話をしつつ、持ってきた論文を取り出すと机の上にポンッと置く。今自分がやろうとしている研究がちょうどそれと似ているので、予習と言った意味を込めて読もうと思ったのだ。
 ちなみに全て英語である。
 達也はまだ十五であるが、基本的にはここから少し離れた場所にある小岩井研究所に所属している。ちなみに学生をやっている理由は社会経験を育むためである、マイペースな上にほとんど研究所に引きこもっている達也に小岩井所長が命じたのだ。
 話がひと段落したところで達也は論文を読み始める。
 そこでフレイヤがやってくる。


 「おはよう」
 「あら、おはようございます」
 「フレイヤじゃない」
 「おはよう、久美」
 「レイはどうしたの?」
 「玄関で別れて来たわ。今日は機嫌がいいみたい」
 「ならよかったわね」
 「そうね」


 久美とフレイヤ、それに宝樹はよく一緒にいる。どうして気があっているのか正直よく分からないのだが、どうしてか仲が良いらしい。ただしフレイヤはレイが来たらすぐそっちに行ってしまうが。
 そこそこ賑やかになった教室に朱音と美幸、蓮華の三人組がやってくる。ワイワイと大きな声で話ながら、教室に入ってくる。この三人も非常に仲がいい。主に美幸をいじって遊んでいるのだが。


 「お前―、また親と喧嘩したって?」
 「何やってるんだよー!!」
 「うぅー言わないでよー」
 「ハハハ、そんな小さくなるなよ」
 「そうだよ、しゃっきとしろよな」
 「うー」


 男勝りは二人に囲まれて少し可哀そうに見えるが割と美幸が二人をいじることもあるのでそれでトントンだ。それに朱音と蓮華も悪い奴ではない。全員に挨拶をして、それぞれの席へと向かって行く。




 また、廊下から別の声も聞こえてくる。


 「由香、大丈夫か?」
 「平気だよ。ちゃんとエスコートしてくれているから」
 「暗、忘れ物はないな?」
 「問題ない」
 「優希、この二人を頼んだぞ」
 『分かったから、早く朱鷺も自分のクラスに行ったら?』
 「まだ時間はある。教室まではついて行くさ」


 朱鷺達の声。
 優希たちはみんな障害者用クラスに所属している。由香は目が見えず、装置があるとはいえ優希は口がきけない。暗は少し頭に障害がある。
 同じクラスに所属しているこの三人は必然的に仲良くなっていき、優希との繋がりで仲良くなった。というか保護者ポジションである。三人を連れて安全に登校し、クラスにまで送るのが彼女の役割である。
 三年生の教室の奥にある渡り階段を通った先にその教室はある。
 二年生の朱鷺からすると遠回りでしかないのだが、文句を言ったことは決してない。それだけ優希のことが好きなのだ。
 彼女たちが通り過ぎてから、次々とほかのクラスメイトやらがやってくる。


 「おはよう、宝樹真理」
 「おっはー」
 「あら、照に遥香じゃない。今日は早いわね」
 「遥香はまだ彼方といたかった」
 「今日はお母さん出勤早くてさー、ついでに遥香も引っ張って来たんだ」
 「遥香しかたなくついて来た」
 「可哀そうに」


 そう言ってフレイヤが彼女の頭を撫でて上げる。
 すると遥香は目を細めて喜ぶ。どういう訳か、照と遥香は仲がいい。たぶん、ブラコンとマザコンだからだろ。だが、どことなくぼんやりとしている遥香は照に振り回されることが多く、ほんの少し迷惑そうにも見える。それでも一緒にいるあたり嫌ってはいないのだろう。こうして毎朝一緒に登校してくる。
 普段は遅刻ギリギリなのだが、珍しいこともあるものだった。
 フレイヤは遥香の機嫌が直ったことを確認すると、宝樹の元へと戻っていった。


 「それで、何かあったの?」
 「そうなのよ。実はね……」


 うるさい。
 アリスは机に突っ伏しながらそう思った。だが何も言わない。
 三年二組。
 これがいつもの光景だった。


27, 26

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