学校 その③
「だーかーらー!! なんで俺がお前の宿題の手伝いしなくちゃいけないんだよ!! 自分の分も終わってないのに!!」
「うるさいな!! たまには手伝ってくれてもいいじゃん!!」
「たまにはって昨日も手伝ったろ」
「その前は私がユウキを手伝ったじゃん!!」
「お前の終わってない分をやりつつな」
「うっざー!!」
「お前もな」
「二人とモ、喧嘩しないノ」
「「はい」」
大人しく謝る二人。
これで今日二回目だ。
再び宿題に没頭した二人を見て、デルタは満足そうに頷くと手にしていた本に目を落とした。
三回を超える辺りから歯止めが利かなくなるので、リアルアイアンクローの出番となる。それまでは口だけの注意でとどめておいた方が、ちゃんと宿題ができるので効率が良い。わざわざこんな早くに来たのだから時間の有効活用をしなくてはいけないだろう。
一年の魔法少女はマリアだけ、あとの二人はヒトガタ狩りに参加しているだけのサイボーグと超能力者である。
三人だけでつるんでいる割には、マリアとユウキはいつも喧嘩ばかりである、
喧嘩するほど仲が良いという言葉が示す通りなのだが、時々これはヤバいんじゃないかというほど暴れることもあるので注意が必要なのだ。
こんなことになる最大の問題は何かというと、自分の気持ちに素直になれないマリアのせいなのだが
「お、マリア、終わったか?」
「んー、もうちょい」
「俺はまだまだだわ」
登校途中に自販機で買ってきたコーヒーを一口飲んでから渋い顔をするユウキ。
マリアはそれを見て鼻で笑うと優越感に浸る。
その時だった。
ユウキがコーヒーの缶を手に取ると、マリアの方に突き出しながらこう言った。
「おいマリア」
「何さユウキ」
「宿題写させろ」
「え?」
「そしたらこのコーヒーやるぞ」
「えぇ!?」
顔を真っ赤にして驚くマリア。
ユウキはそれを不思議そな顔をして眺めている。
それって関節キスじゃないか、とは言えないマリア。
顔を真っ赤にしてあたふたと慌てながら目の前の缶に目をやる。ユウキはいつまでたっても煮え切らないマリアにイライラしているのか、グイッと腕を前に突き出して催促してくる。ちなみにデルタは何も言わない。そっちの方が面白そうだからだ。
どうする。
どうればいい。
マリアは悩む。
「え、えぇと……」
「早くしろ、飲んじまうぞ」
「い、いただきます……」
「さっさとそうすればよかったんだよ」
ユウキは勝手にマリアの宿題を手に取ると手元に引き寄せる。その後で、コーヒーの缶をマリアの隣に置くとさっさと写しはじめた。
マリアはその缶を手に取るとフルフルフルフルと震えながらそれを見つめる。
いいの、
これ、貰っちゃって。
こっそり横目でデルタの方を見る。すると彼女は小さく頷いた。
どうやら飲めと言っているらしい。
「…………い、いただきます……」
意を決してゆっくりと缶を口元に運ぶと、
それを飲もうとする。
ところが、中身は残っていなかった。
「え?」
「ハハハハハ、バーカ」
「…………」
「あ、宿題ありがとうな」
「…………」
「返しとくわ」
「………」
「マリア、どうした?」
「うぅ………うー」
「は? お前どうした」
「ユウキ最低」
「へ!? 何でデルタまで!?」
「うぅぅぅぅー」
涙目で悔しがるマリアとただあたふたすることしかできないユウキ。そんな彼に冷たい目線を向けるデルタ。中々修羅場臭い光景だった。これではあらぬ疑いをかけられる可能性があるのでユウキはすぐにマリアをなだめ始めた。
一年三組
三人だけだが彼女たちは仲良くやっていた。
魔法少女達の日常は、こうして過ぎていった。
梅雨時で、気分の悪くなる六月が終わりを迎え、清々しい夏の季節が近づきつつあった。