誕生日 その①
「アリスの誕生日が、近い」
達也がそう呟く。
そこはアパートの一室。
集まっているのはマリアに宝樹、美幸にアリヤ、彼女にくっついて詩音もやって来た。他にも来る予定だったのだが、急にヒトガタが現れたので何人かそちらに向かって行ったのだ。もちろんアリスもそちら側だ。
こっそりと話をしたかった達也たちとしてはある意味ありがたいことだった。
達也の発言に驚いたのはマリアを除く全員だった。
「あら、そうでしたの」
「そうでした」
「私は知ってたよ」
「そりゃ妹だからな」
「えへへ。達也もよく知ってたね」
「まぁ恋人だし」
本当はアリスの部屋にあった何かの書類を覗き見て知ったのだがそんなことは口を裂けても言えない。
宝樹は「私は聞いてない」と不服そうな顔をしているが、それはしょうがない。アリスはマリア以外に自分の誕生日を教えていないのだ。去年聞いたときに「別に祝わなくてもいい」とそっけない答えを返された。
美幸は目をキラキラさせてポンッと手を打つとこういった。
「じゃあ何かお祝いしないとね」
「いや、いい」
「あら? どうしてかしら」
「うん、私もその方がいいと思うな」
「…………どうして?」
「お姉ちゃん、あまり喜ばないと思う」
「「「……あー」」」
満場一致だった。
確かにアリスの事だからあまり大がかりにみんなからお祝いされても「なにこれ」みたいな顔をするかもしれない。というか絶対そんな顔をして、「馬鹿なの?」と答えるだろう。それは嫌だ。
と言っても、ただ誕生日を祝わないのは悪いような気がする。
「どうするかな……」
「難しいな」
「そうですね」
「…………どうしよう」
「……あ、そうだ!!」
美幸がポンッと手を叩くとこういった。
「達也君だけでお祝いしたら」
「ん、美幸、どうして?」
「たぶんアリスちゃんもそっちの方が喜ぶんじゃないかな」
「そうね、それは名案かもね」
「私もそう思うわ。ケーキとかは用意するから、任せなさい」
「頼むぜ」
「任せなさいよ、最高級のを用意するから」
「お前が言うと現実味があるな」
こういう時だけは宝樹は役に立つ。
早速持ってきたバックの中からタブレットを取り出すと、何か色々と操作を始めた。どうやらどこぞと連絡を取っているようだがこちらとしては何をやっているのか分からないので、とりあえずは放置して話を進めることにする。
美幸は少し考えた後、こういった。
「じゃあ私たちは学校でお祝いの言葉とちょっとプレゼントあげるぐらいでいいかな?」
「そうだね、本当にちょっとだけでいいと思いますけど」
「マリアは何にするの?」
「えー、どうしよっかな……アリヤ先輩はどうするの?」
「…………本か……漫画」
「無難だな」
「……じゃあ……詩音は何がいいと……?」
「え? ……甘い物かな?」
「……それは詩音のほしいもの」
「ばれたか? やっぱアリヤには敵わないな」
「…………ほめても何も出ない」
「ハハハハハ、可愛いなアリヤは」
「…………しーおーんー」
「アーリーヤー」
肩をつつきあってイチャつき始める二人。
馬鹿だと思いつつも、それをにこやかに見守る美幸。
達也は無視してボーッと考え込む。
「じゃあ俺は……そうだな」
「うん? どうするの?」
「いや、当日のお楽しみということで」
「分かった」
コクンと頷く。
これならアリスも喜ぶだろう、達也には自信があった。
この後、さっきのついでに宝樹が全員に連絡をして決まったことを伝えたことを確認して解散となった。
七月四日
かの有名なインディペンデンスデイ
その日こそがアリスの誕生日なのだ。あの有名な映画だと宇宙人が人類に押し負ける日なのだが、そんなことは全く関係ない。そもそもアリスも達也もその映画を見たことが無い。一度見たいと思っているがまだ未成年なので借りることができない。
一応平日なので、普通に学校に行って少し急いで帰って来た。
その帰り際、アリスは魔法少女組に囲まれてお祝いの言葉を浴びせられたリ、色々とプレゼントを貰っていた。主に本やハンカチといったあって困らないモノばかりで、一応アリスもうれしいのか暗い顔で感謝の言葉を述べていた。
その一方で
どういう訳か学校でアリスに何も渡そうとしない達也の方をチラチラと見て、少し不思議そうな顔をしていた。可愛い。
休み時間にボーッとあらぬ方向を見ながら考えこんでいる達也のそばに、宝樹やフレイヤがやって来た。
「ところで達也君、準備は大丈夫なのかしら」
「おう、任せとけ」
「そうよ、あなたの働き次第で成功するのか決まるのだから」
「安心しろって宝樹、昨日の晩に料理とかは仕込んでおいてあるから」
「ならいいのよ」
「ところでフレイヤは何をプレゼントしたの?」
「ペンダントよ、手りゅう弾型の」
「……どこで買ったんですの?」
「そこらへん」
よく分からないチョイスだった。
ちなみに宝樹はハンカチだった。いくらかはあえて言わないが。
その後、給食も昼休みもつつがなく終わり、無事に放課後を迎えることができた。
いつも通りアリスと二人で帰る達也。その間も誕生日の話題は一切振らず普段とまったく同じ会話を繰り広げる。それはどんなものかというと、ひたすら達也が思ったことを話アリスが無言で頷くだけ、という物である。
その途中
達也が一瞬だけ黙った時に珍しくアリスが口を開いた。
「ねぇ」
「ん、なんだい?」
「……その……」
「何?」
「…………何でもない」
少し不服そうな顔をしてプイッと顔を背けるアリス。
どうやら相当気にしているらしい。なんだかその様子がおかしくってもう少しの間黙っていようと、意地悪をすることにする達也だった。
一方のアリスはやはり不安だった。
話していないのだが、どうせマリア経由で伝わっているはずだ。今日の彼女たちの様子を見てそう確信を抱いていた。それなのに達也に話が伝わってないわけがないだろう。仮に忘れていたとしても、達也のことだからどんな手段をとってでも自分の誕生日ぐらい知っているだろう。
となると知っていて知らないふりをしているのか、普通に知らないか。
「…………」
アリスはこっそり達也の横顔を見る。
すると達也はそれに気が付くと、いつも通り笑顔を返してきた。
何となくそれを直視できず、フイッと顔を逸らしてしまう。
アリスはそれで確信を抱いた。
絶対知っている。
達也の余裕の笑みがそれを物語っていた。