デート その①
さて、約束の日。
達也はいつも通りの時間に起きてアリスの朝ごはんを作りに行った。
いつも通り開いたままの扉から部屋へとお邪魔する。
すると、そんな達也に冷たい声がかけられた。
「遅かったじゃない」
「あれ? アリス起きてるの?」
「……悪い?」
「いや、全然」
「ならいいじゃない」
「まぁいいや、朝ご飯何がいい?」
「いらない」
「じゃあいつもので」
「…………」
達也はそう答えると淡々と朝ご飯を作り出す。
アリスは椅子に座るとその様子をジッと眺めていた。
テキパキと朝ご飯を完成させると、達也はそれを並べてから、席に座って朝ご飯をいただく。その途中で達也は箸を止めるとちらりとアリスの方を見る。その視線を受けても気にすることなく、アリスは淡々と食べ続ける。
そんな彼女の姿を見てあることに気が付いた達也は、小さな声で話しかけた。
「その服、似合っているよ」
「……………ありがと」
達也の言う通り。
アリスは珍しく私服を着ていたのだ。
と言っても大したものではない。ジーパンに黒いTシャツを着ている。たったそれだけだ。それでも特筆するほど珍しいことだった。そもそもアリスは私服と呼べるものを一切持っておらず、着れるものと言えばジャージしかなかったはずだ。
外出をほとんどしないのでそれで問題なかったのだ。
たまの遠出の時は誰かから服を借りていた。今日もそうなのだろう。
たぶん宝樹だ。
似合っていると言われて嬉しかったのか、アリスは顔をうつむかせ表情を見えないようにしてから水の入ったコップを口元に運んだ。
数分後
食べ終わった二人はボーッとしながらしばらく物思いに耽ってたが、達也がその沈黙を破って話しかける。
「ところでアリス」
「何? 達也」
「行こうか」
そう言って達也は立ち上がるとアリスに向かって腕を伸ばす。
アリスは表情を一切変えず、それを受け取った。
「デートですって、羨ましいわね」
「まぁ、彼氏がいない身としては関係ないけどね」
「あんたは彼女がいるでしょ、フレイヤ。そういえばレイは?」
「父方の家の法事らしく来れないみたい」
「ところで遥香は?」
「「彼方と遊びに行く」ってさ」
「あのブラコンが」
「そんな事よりさー!! 聞いてよー!! お母さんに突然仕事が入ってさー」
「うるさいぞー、照」
「そんなこと言わんといてな朱音ちゃーん」
「今日もみんな元気そうでよかったよ」
そういうのは美幸だ。
魔法少女組は開店直後のファミリーレストランに集まってひたすら駄弁っていた。
ここで集まれるだけ集まって、カラオケにでも凱旋しようかと学校で話していたのだ。アリヤ達後輩魔法少女組にも声はかけたのだが、久美と瑠花、アリヤと詩音はそれぞれ用事があるようで、彩芽と宴も来ないそうだった。
朱鷺は一応携帯持ちだが優希や暗からの連絡しか受け付けない。それにメールも打てないし電話もかけることができない。機械音痴だから。
宝樹は上品に紅茶を口に運んだあと、ふと顔を上げるとフレイヤに話しかけた。
「そういえばフレイヤ」
「何かしら、宝樹」
「アリスと達也の馴れ初めってどんな物でしたの?」
「あら、知らないの」
「だって私たちは二年の時はアリスと違うクラスでしたもの」
「そーいえば知らねぇな、フレイヤだけだっけ? 同じクラスだったの」
「そうね。気が付いたら付き合っていたものね」
「あれ? フレイヤも知らないのか」
ほんの少し悩みながら、フレイヤはコーラを一口飲む。
何を考えているのか分からず、ジッと彼女のことを見つめるみんな。
その視線の圧に負けたのか、フレイヤはゆっくりと口を開くと答えた。
「二年の初めに達也が転校してきて、アリスの隣の席についたわ。その後のことは詳しく知らないの」
「そうか、じゃあ今度アリスに聞いてみるわ」
朱音はそう言い放つと、おつまみに頼んだフライドポテトをパクパクと食べ続ける。
ふくれっ面をしながらテルもそれを食べている。どうやら二人で食べきるつもりでいるようだ。
「で、あとは誰が来るの?」
「もう来ないかしら」
「そうか、じゃあこれ食ったら行こうぜ」
そう言って朱音は最後の一本を手にする。
テルがそれを見て「あ」という顔をするが気にしない。
「そうね、とりあえずここは私が払っておくわ」
そう言って宝樹が伝票を手にした。
「「ごちになりまーす」」
「それは許されないわよ」
「冗談だよ」
「え? おごってくれないの?」
「美幸、本気で言っているの?」
「ハハハハハハ。 冗談だよ」
和やかに会話を交わしながら、それぞれ席を立ち、店から出てカラオケへ向かって行くこととなった。