魔法少女達 その②
「クルッポー!!! クルッポー!!!」
そんな声を上げながら宙を舞う一匹のハト。と言ってもサイズは尋常ではない。一mは軽く超えている。頭に小さな帽子を載せていて、ぎょろりとした丸っこい目が非常に可愛らしい。ただし、その尻から燃え盛るフンを垂れ流して、周囲を業火で飲み込んでいなければ、の話だが。
まさに害悪。
それに対するのは白く長い麗装を身にまとい、頭に僧侶が被っている大きな帽子のようなものを被る少女。ただし、普通の帽子と違うのはそれが顔の半分ほどを覆い隠している点である。
彼女は大きな弓に矢をつがえると、それを構える。
顔を覆い隠しているせいで、何か物が見えているようには見えないのだが。その少女に迷いはなかった。
円を描くように飛ぶハトに向かってその鋭い切っ先を向け、限界まで弦を引き、いつでも放てるようにする。
大丈夫、見える。
地面にいくつも浮かび上がっている淡い色をした魔法陣が怪しく光る。
「外さない」
パッと手を放すと、矢が放たれる。
それは高速で宙を飛ぶと、悠長に飛んでいるハトにあっという間に追いつく。
そして、一瞬のうちに貫いた。
「やった!!!」
「ポッ!!!」
ハトは儚い声を上げて、羽ばたきを止めると、ゆっくりと地面に落ちていく。
それを見送りながら、少女――佐倉由香――は別の敵に狙いをつけると、また別の矢をつがえる。
まだまだ敵はいる。
「オラァ!!! 死に腐りやがれぇ!!!」
城崎朱音はそう叫ぶと、両手に一本ずつ、周囲に三本、合計五本の槍を携えながら、目の前に立ちだかる敵に向かって叫ぶ。燃え上がるような紅蓮の麗装、そして目つきが鋭く、気が強そうなポニーテールの少女。
目の前にいるのは愛くるしい顔をした巨大なクマ。
その両腕では不自然に大きく、鉤爪が不気味に輝いていた。
一撃でも喰らえば、体が引き裂かれてしまうだろう。
だが、朱音に引くつもりはない。
負ける気がしないからだ。
「行くぜ!!」
まずは、右手に持っていた槍を全力で投げつける。
クマはそれを躱すことなく、左腕を振るうと叩き落とす。
だがそれは判断ミスだ。
槍がクマの鉤爪に命中した瞬間にドゴンッという爆音が起きると、クマは火球に飲み込まれた。
一撃で死ななかったもののクマはたまらずバランスを崩すと、一歩後ろに下がり、苦悶の叫び声をあげる。
「クマ――――ッ!!!」
「え? クマってそんな鳴き声だっけ?」
驚きつつも、朱音は積極的に攻める。
腕をバッと上げると周囲で待機させていた三本の槍を一斉に放つと、それら全てを命中させる。すると、大爆発が起き、クマの体がドンドン焼き切られていく。クマの特徴は近接戦での高い攻撃力。
だが、それは完全に爆発の勢いに押され、生かせないでいた。
「おいおい、強そうなのは見た目だけ?」
左手に持った残った一本の槍の先で地面に幾何学模様を描きながら、炎に包まれもだえ狂うクマの姿をさも楽しげに眺めている。もうこうなったら勝ったも同然、余裕の態度で臨むのも分からないわけではなかった。
大慌てで火を振り払ったクマは怒りに満ちた目をすると、ボロボロになった腕を上げる。
「クマ―!!」
「うん、遅い」
ザクッ、と槍が突き刺さる。
直後、朱音はその場から離れると爆発に巻き込まれないようにする。
ドンッと爆音が鳴り響き、爆炎に飲み込まれクマの体はしめやかに爆発四散する。
朱音はそれに向かって中指をたてると言い放った。
「ヘ!! その程度かよ!!」
そう言って再び槍を五本顕現しなおすと、それを握りこみ、次の標的へと向かって行った。
演奏団が道を行く。
それぞれ思い思いの楽器をかき鳴らし、騒音をまき散らして進んで行く。それ自体が害をなしているわけではないが、この不協和音を嫌う一人の少女がいた。
彼女はまるで女王のような派手な麗装に身を包み、やけに派手な巨大な椅子に座り込んでいた、足を組んでいた。独特な色をした宝石が日光を反射してギラギラと輝いていたが、それは決していやらしい物でなく、どことなく気品を感じさせるものだった。
地平線を埋め尽くすほどの量の敵を前に彼女はたった一人鎮座する。
少女、宝樹真理はその姿勢を崩すことなく、口を開くと高らかに言い放った。
「『止まりなさい』」
その言葉が虚空に消えた時
ピタリ、と合奏団の演奏が止まり、何も聞こえなくなる。彼らは不自然な姿勢で歩みを止めると、そのままプルプル震えている。まるで見えない何かに無理矢理抑えられているかのように。非常に不気味な光景だった。
それを満足げに眺めながら、宝樹は言い放った。
「『死になさい』」
その一言で十分だった。
ポンッと儚い音を何度も上げると合奏団が次から次へと消滅していく。
一歩も動いていないのに、五分も経たぬ間に殲滅した。
「ほほほほほほほほほほ!!!! 愉快ねぇ!!」
高笑いをしながら宝樹は勝ち誇っていた。