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2019年5月

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5月3日/第二の性

眼が覚めると性別が変わっていた。つまりは、男性に。
鏡を見て、顔の形やつくりに少し違和感があって気付いたのだけれども、その程度で済む程度には中性的でなかなかの美青年だ。
ただ、性別なんかでは何も変わらないし変えられない。
仕事をして、本を読んで、眠るだけ。そんなものだ。
とりあえずは家電用品店へ行って、ジリジリと回す黒電話を買うことにする。
頭の中に誰かが、アナログ式の電話は22世紀の必需品だ、と話しかけてくるから。
店頭にはずらりと黒電話が並んでいて、値段は1000円から10万円とバラバラ。
なんでこんなに値段が違うのか、と店員に尋ねると、ダイヤルの回し心地が違う、ということだった。
5月17日/見張塔からずっと

あてもなくどこかの街をぶらぶらと巡る。
商店街や大通、人ひとりがやっと通れるような家と家の間を彷徨う。
いつか来たはずのその風景は、雑然とした異国情緒に溢れていて。
どうやら、日本ではないらしい。
ビルの屋上から屋上へと渡り歩けば、ひときわ高い塔が目に入る。
そこからあたりを見下ろすけれど、地平線の果てまで街は続いていて、全貌はつかめない。
では、と目線を上に向けると雲ひとつない快晴。
たくさんの人が、どんな風にかは分からないけれど、空を飛んでいる。
何か理由があるのだろう。
私は見ているだけ。
無力感にうちのめされていると、どうもお腹が空いたので、カレーを食べることにする。
カレーライスではなく、本格的な、ナンがついてくるやつを。
街にはカレーの専門店がいたるところにあり、10軒ほどを逡巡。
その中から雨と風と☓☓☓と、という名前の店を選ぶ。
ただ、結局のところ、どこにも持ち合わせがなく、そのまま素通り。
空っぽのお腹をかかえて、またぶらぶらと歩き回る。
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5月26日/オムニバス形式の贅沢な悪夢

吹雪の中を一人歩いている。
周囲は木々が生い茂った一本道。道幅は6メートルほど。
膝丈くらいに雪は積もり、足跡は自分のものだけ。
遠くまで目を凝らしても、建物などは見当たらない。
これはたくさん歩くことになるぞ、とひとりごつ。
数キロほど歩いていると、前から巨大な白熊が走ってくる。
急いで雪の中に隠れようとするけれど、うまく体が動かない。
あたふたしているうちに喉もとから食べられてしまう。

イマヌエル・カントが抑揚もなく話すことによれば
「世界は存在しない」ということだった。
そんな新実在論みたいなことを、と苦い顔をすれば
表情は一変して、そのうちに眼が眼窩からぼとりと落ちる。

中学生時代のブレザーを着て、校庭に立っている。
授業は始まっているらしいので校内に入ろうとするけれども、
鍵が閉まっていて入れない。
無意味な焦燥感に苛まれて、ガラス戸を靴で叩き割る。
大音量で警報が鳴り響いたので、驚き急いで走り去る。

何かのレポートを書いている。
その隅に挿絵で、妙に丸っこくて、変なキャラクターを描くことに。
名前はぴょこ太、とかそんなの。
しかしまったく満足いくものが描けない。
ちょっとした線を引き、すぐ消してはまた描いてを繰り返す。
気づくと提出まで時間も無い。
焦るばかりで筆はまったく進まない。
5月31日/古ぼけた部屋のなか

ひどく草臥れた、6畳の和室にいる。
畳はぼろぼろで、ところどころに黒いカビが生えている。
部屋の真ん中に鎮座する、ダイヤル式のブラウン管テレビからは
ニュースが流れていて、画面の上を蛆虫やミミズが這いずり回る。
その隣に汚れたスツールが置いてあるけれど
どうも腰掛けるのも気がひけるので、じっと立っていることにする。
しばらくそうしていると、テレビでは
キャスターのおじさんの顔のアップが延々と続く。
その上を楽しそうに数匹の虫が蠢く。
これでは虫もおじさんもかわいそうだ、と思い、
窓から外へと出してやることにする。
ただ、窓とテレビの間のたった数メートルが
永遠とも思えるぐらいに、歩くことがままならない。
そのうちに虫たちは足元から這い上がってくる。
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