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真嶋慶のやり方

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 慶はスプリットを考えていた。
 どの道、どこかでレートは上げるしかない。このルールでは勝負が長引くほどに情報が漏洩していく。
 だから、短期決戦に持ち込むしかない。
 では、どうすればいいのか。
 見せ札と捨て札でドローカウントが増えると聞いた時から、このルールではリスクを負えば無茶が通るというのは予想していた。実際に、カードチェンジ権を放棄すればドローカウントを増やしながら五枚で勝負できた。どうしても手役を揃えにくくなるが、そんなことは問題ではない。このポーカーでは、放っておいても手役はできる。
 スプリット。
 ブラック・ジャックなどでは、引いた札が10と10の絵札だったりした場合、そこから二つに分けて別の組み合わせとしてさらに札を引いていくことができる。
 慶はそれをこのボディポーカーで次戦、持ち出そうとしている。
 問題は、その条件。
 まず、頭部五枚のファイブカードが必要になる。そしてそれを分割する。2-3や1-4も考えたが、五枚全て分割する方がいい。なぜなら分割すればするほど、追加の賭け金が増えるからだ。
 たとえば次戦、2万点がレイズアップされたとする。
 そこで、慶は自分の五枚のカードを裏のまま分解し、一枚にそれまで賭けられていた2万点を、他の四枚にも一つずつ追加の賭け金を乗せていく。
 レートは、一枚につき5000点あたりで落ち着くだろう。すべてに2万点を乗せられるようではバランスが崩れすぎる。
 それまで賭けてきた2万点をメインの一枚に乗せ、ほかの四枚の分割には5000点。それなら分割札すべてを合計して、それも2万点。電貨20枚、妥当な数字だ。
 あとはそれをリザナが受けるかどうか。受けなければ、通常の五枚同士で2万点の勝負。
 だが、もし……次戦、リザナが、マックスベットまで来たが慶に手札で負けていると予測している場合、おそらく乗ってくる。その筋書きはもう切ってある。
 リザナはすでに4万点を先攻奪取しており、点数的な優位がある。
 はっきり言ってゴミ手でも2万点を乗せてくるだろう。
 慶はすでに電貨60枚まで追い込まれており、ここから20枚を賭ける重みがリザナとはまったく異なる。充分な戦力がハンドに揃っていたとしても、10枚以上を乗せるかどうかは厳しい判断を求められる。
 リザナは、どうしくじっても40枚は遊んでいられる。失ったところで、デフォルトに戻っただけだからだ。
 そこを突く。
 マックスリミットまで持ち込んでから、この提案を受けた時、必要なのはリザナの手に頭部、最低でも胸部があること。マックスまで乗せたらオリても2万点を失う。だが、このスピリットの提案を受ければ、その2万点を失わずに済む。
 なぜか。
 このポーカーで引き分けた場合、賭け金は没収されず次戦へ引き継ぐ。つまりどちらにも流れず、合計4万点が報酬の受け皿の上に乗ったままになる。どう考えても、敗北が決定的な勝負であれば、失うよりは保留にした方がいい。もし、リザナがこちらの手の強さを察していないようであれば、こちらから手札を公開して、強引に乗せてしまってもいい。
 これは、すべて照らされた闇取引だ。
 結局、このスプリットは賭け金を上げつつ、なおかつリザナをオリさせるための策。スプリット全てで勝負を受けるつもりなど慶にはない。
 メインをお互いの頭部で相殺して引き分け処理し、残りの四枚、5000点を乗せられたその影武者は、脅しの武器でしかない。そもそも手札で勝てていないリザナが残りの手札で勝負を仕掛けてくるわけがない。分割札では、リザナにオリてもらう。罰金はそれぞれ1000点、電貨1枚。それで終わらせる。
 相手から2万点を引き出しながら、4000点を確実に削ぎ取り、なおかつ連敗の流れをそこで堰き止める。だが、もっともベストなのは、お互いが頭部五枚のファイブカードだった場合だ。その場合、リザナはオリない。すべて受けてくる。そうすれば全陣引分。双方4万点、合計8万点が次戦へ引き継がれる。しかも、スプリットはまたやれる。そうすれば――
 手札さえ来れば、やれる。
 そして、このポーカーは通常のポーカーよりも思い通りのカードを引ける確率が高い。カードの種類は半分以下、なおかつ一種につき山札に十二枚。引きたくなくても引いてしまう場面の方が多いかもしれない。
 だから、


(……俺は、終わらせるためにここに来た)

(どんな手段を使ってでも、願いを叶える。絶対的な力の差を、見せつけてでも)

(だから、狙うべきなのは、         ……全部)

(総取りしか、ない)



 そう、

 すべては、一撃で終わらせるために――









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