第1ドロー
リザナ、
頭部、頭部、左腕、左腕、左脚(2-2-1)
慶、
胸部、胸部、右脚、右脚、右脚(2-3)
ショーダウンされた手札は、慶のフルハウス(2-3)で勝ちだ。
だが、これは普通のポーカーではない。
ボディ・ポーカーの勝ち筋はおおまかに区分して二つある。
ホット・ハンド(大役)で勝つか。
レイズ・デッド(奪還)で勝つか。
現状、真嶋慶は不利である。
フルハウスとはいえ、脚部のスリーカードとハンドが弱く、また札が二種のためレイズデッドからもっとも遠い(いっそ一種であれば、ファイブカードなのでホット・ハンドに寄る)。
対して、リザイングルナは三種の2-2-1であり、六部位の中でもっとも強札である頭部を重ねている。真嶋慶が実演してみせたように、ホット・ハンドで勝つなら他種のハンドと同枚数でも勝てる頭部を集めるのがセオリーである。
つまりリザナの手札は、ホット・ハンドにもレイズ・デッドにも繋がる、いわば最終決戦としては理想的な手札。真嶋慶の手札とは伸びしろが違う。
それはテレビ観戦しているバラストグールと兵士リコーズにもわかっていた。だからバラストグールはこう尋ねた。
「いいんだぜ、ここで決めても。どっちが勝つか……ここで俺が決めさせてもらうだけでも、充分なハンデだ」
「つまり、リザナが勝つと?」
バラストグールは無言で画面を注視している。癖なのか、口元を片手で覆って目を細めている。生前は視力が悪かったのかもしれない、とリコーズは思った。死人は眼鏡をかけない。
「そう簡単じゃねぇがな……」
「そうだな、簡単じゃない。だからバクチは面白い」
リコーズは酒を注ぐ。そして飲む。バラストグールはそれを眺めていたが、おもむろにカウンターのボトルを手にとって、リコーズの空杯に注いでやった。リコーズが礼に杯を軽く持ち上げる。
「どうもありがとう。ところで一つ、聞いてもいいか」
「好きにしろ」
「どうしてそんなに、生き返りたい?」
「それがそんなに、不思議なことか」
「生き返ったって、また死ぬんだぜ。……誰かの受け売りだが」
「関係ない」バラストグールは、カウンター裏の小型冷蔵庫からミルクを取り出して、グラスに綺麗に注いだ。飲むと無精髭が白くなる。
「まだ、途中だからだ。途中なんかでやめてたまるか。俺ァ最後までやる」
「誰かと戦ってたのか? だとしても、死んだら終わりだろ」
「関係ない」
「なぜ戦う?」
「戦うことに、理由はいらない」
「必要だろ。無意味に戦って、どうする?」
「俺は、生まれてからずっと戦い続けてきた。生きることは、俺にとって戦いだった。だからやめない。それが理由だ。あるとすりゃあな」
「そんな人生、寂しいぜ」
「だとしたら、それが人生なんだろ。……連中、引くみたいだぜ」
リコーズは画面に目を戻した。
ときどきブレるテレビの中で、まずリザナがディーラーからカードを一枚引く。続いて慶が引く。それを伏せる意味はない。
二人とも、自分の開いた五枚の左隣に少し隙間を開けて、その札を見せた。
リザナ、
頭部(new!)、頭部、頭部、左腕、左腕、左脚(3-2-1)
慶、
胸部、胸部、右脚、右脚、右脚、右脚(new!)(2-4)
「戦うだけの人生か」リコーズは吐息をつき、
「そんなやつばかりだ」
「真嶋なら」とバラストグールは言う。
「ここからひっくり返すかもな」
「不思議なもんだ。ハンドは勝ってる。なのに負けには確実に一歩進んだ」
「右脚が4枚じゃきつい。同じ数だけ女の方に頭部を集められれば力負けする。かといってレイズ・デッドに寄せにもいけてない」
「残る札はあと六枚、か……」
「で、どうする?」
「なにが?」
「まだ決めなくていいのか、俺は」
リコーズは笑った。
「好きにしな」