第3ドロー、そして
第3ドローは、
リザナ、頭部引き (頭部4-左腕2-右腕1-左脚1)
慶、右脚引き (胸部3-右脚5)
だった。
そして、
開かれたカードを見つめながら、リザイングルナは考える。
自分は、
もしも、
もしも、生き返れるとするならば。
生き返りたい。
なのになぜ。
自分はそうしないのだろう。
カウンターの斜向いに座る、慶を見る。
もしも。
もしも、命乞いをすれば。
慶は自分を生き返らせてくれるだろう。
無償で最後の部位を取り戻し、自分は消滅の運命に飲み込まれ。
それでも赦された安堵と共に、冥府の海に沈むだろう。
それのなにがいけない?
生き返らされても、自殺してやる?
そんな覚悟は、自分にはない……
真嶋慶は気づいていない。
だから、このテーブルに戻ってきたのだ。
本当に真嶋慶は、何もわかっていないとリザイングルナは思う。
人の気持ちが、わからない男。
きっと慶はずっと怖かったはずだ。
わたしのことが。
自分のせいで死なせた、後味の悪い女のことが。
ずっと心の底にべっとりと貼りついていて、剥がせなかった。
どれほど恨まれているか、どれほど憎まれているか。
……憎しみなんて、本当はない。
恨もうとしても、どうすればいいのか、わからない。
なぜなら真嶋慶が奪っていった、真嶋深癒という女の人生は、ずっと誰かに支配され、振り回されてきたモノだから。
ただ言われたままに身も心も差し出して、それでどうなるか、眺めていただけ。
値打ちをつけられて運ばれていく自分の背に貼りついた影のように、何も感じていなかった。
自由?
それがどんなものか、わからない。
うっすら思い出せる過去は、大きくて黒い闇がいつも自分を見下ろしている。
自分の一挙手一投足を審判し、品定めして、罵声を浴びせる。
どうしてもっとこうできないんだ、もっとこうできるはずだ、おまえは私の娘なのだから。
おまえは私のモノなのだから。
……自分は真嶋慶を愛せなかったけれど、
最初から、誰かを愛するなんてわかっていなかったのかもしれない。
だとすれば、慶が哀れに思えなくもない。
けれど。
けれど、
わたしは生きていた。
確かに、確かに、生きていた。
それを奪われたわたしを、いったい、誰が贖ってくれる?
やりたかったことがあるわけじゃない。いってみたかったところがあるわけじゃない。
ただ、それがどういうものなのか、わからないままに終わってしまったのが、
……寂しい。
もしも。
もしも願いがあるとするならば、
もう、誰にも、
モノ扱いはされたくない。
それだけ。
「ドロー」
リザナ、
頭部4-左腕2-右腕1-左脚1。
誰も返事をしないから、
人形も賭博師も沈黙しているから、
リザナは言った。
「ドロー、です」
開かれた手札から、頭部を三枚揃えて、横にする。
破棄はしない。
それが意味することは、ただひとつ。
「余っている3カウントに、このオープンされている頭部3枚のカウントを合わせて、6カウント。追加できるはずです、エンプティ」
「は……は、い」
動揺するディーラー、エンプティに、リザナは小首をかしげる。
「ダメなんですか?」
「ダメ、では、ない、です、けど……でも、それは」
「ならください」
リザナは、新たなに引いた『頭部』を、自分の手札の端に置く。
「真っ直ぐにいきましょう」
慶を見て、
微笑んだ。
「わたしの切札は、『頭部』です」
慶の瞳が、わずかに揺らいだ。