第5ドロー、そして
慶はすぐに計算した。そして言った。
「本気か?」
「あなたに言われる筋合いはありません」
「もし、流れを変えたら、もう元には戻らない。それでもやるのか?」
リザナの指は、手札の上に乗せられている。それをじっと見つめつつ、
「ひとつ、教えてください」
「ああ」
「もし、生まれ変われたら、もし、やり直せるなら、あなたは、悔い改めますか?」
「悔い、改める……」
「ええ。……誰も殺さず、誰からも奪わず、たとえどんなに退屈でもいい、平凡な誰でもない男として、生きてくれますか。もしも神様が赦してくれたら……あなたは、そうしてくれますか」
「自分のやってきたことを、全部、間違っていたと認めてか」
「何もかも間違っていたと……認めて、それから、私に、みんなに、謝ってくれますか?」
「深癒……俺は、」
慶は口を噤んだ。それから噛み締めるように、言葉を吐いた。
「俺は、変われなかった。おまえのためなら、戦えると思った。でも、結局、俺は自分のために戦っていただけだった。だから、ここに座るまで、ずいぶん遠回りをした。ずっとおまえに会うのを後回しにしてきた。おまえと向き合うのが怖かった」
「怖い……私が?」
「笑えよ。それでも俺は……俺は結局、こうすることしかできない。他になにもできない。
もしも神様がいて、やり直せるチャンスをくれたとしても。
俺は、真嶋慶でしかない。
他の誰にもなれない。どんな生き方も真似してやれない。
俺は何度でも、この道を選ぶ。選んで、おまえを傷つける。
それが答えだ。さまよい続けた俺の出した、答え。
俺はおまえを踏みにじる。
踏みにじってでも、このゲーム、
俺が勝つ」
リザナはその言葉に何を思ったのだろう。
静かに伏せられた瞳からは何も窺えない。
ただ、ゆっくりと開かれたカードから、6枚のカードを抜き出した。
「私も、変われません」
「…………」
「あなたを赦せない。この期に及んで、赦されようとしたあなたの卑劣さを……
だから……あなたが負ける、べきなんです。そうすれば、もう、あなたは戦わなくて済む……
それじゃダメなんですか? それのなにがいけないんですか?」
「深癒……」
「傷つけて、殺して、奪って……あなたは私からすべてを奪った。
奪って、奪って、奪って……自分すらも傷つけて、あなたはここに来た。
そんなの……悲しいですよ」
「そうだな」
「もういいんです。もう……あなたは、終わっていいんです。何も考えなくていいんです。
あなたは、もう死んでるんです、真嶋慶。
終わったのに……終わってるのに……どうして」
リザナは顔を上げて、慶を見た。
「どうして、そんな顔をするんですか」
「……まだ、負けてないからな。勝負は途中だ。
さあ、引けよ、リザイングルナ。
引いて引いて、俺を倒してみろ。俺に負けたと思わせてみろ。
こんな途中じゃ、終わらんぞ」
リザナはぐっと拳を握り、
――解き、
掴むように、カードを押さえた。
リザナ、(頭部7-左腕2-右腕1-右脚1) ※オープンカウント 頭部3消費済
「破棄」
吐き捨てるように呟く。
「左腕、右腕、右脚……全部、破棄です」
指定した4枚を破り捨て、塵にして、
リザナはさらに、頭部を2枚、横にする。
「オープンカウント2枚を消費して、追加ドロー……!」
引く。
当然のように――『頭部』、だが、
止まらない。
「これで私のオープンカウントは残り『3』……だったら、」
照明の下、オープンカウントを消費して横にされていた頭部から3枚をかき寄せ、
それもリザナは破り捨てる。
粉雪のように、柔らかなカードの白が舞う――
「これで、カウント6。もう一度、ドロー……!」
さらに伸ばされた手が掴んだ一枚が、皮を剥ぐように、一気に開かれる。
頭部。
津波のような、引きだった。
リザナ、(頭部8→頭部6) ※オープンカウント残1
「これで……これで、デッキに残った頭部は、3枚。ドローはあと2回……お互いに。
これでもあなたは勝てますか、これでもあなたは全部位奪還(レイズデッド)できますか。
無理だと震えて泣きなさい。子供みたいに。
でなければ、あなたはもう、
二度と涙も流せない――」
慶は、圧倒的なまでに引き寄せられたリザナの頭部の連なりを見つめながら、それでも答えた。
「それでいい」