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「塩かけて食え」

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 ――後藤ニコさんの最新フルアルバム「塩かけて食え」について教えてください。
 後藤:構想は随分前にあったんですけど、表現の仕方に自信がなくて。ほら、私こう見えて絹糸のように繊細で周りの目を気にするタイプじゃないですか。評価、みたいなものが先行して怖かったんですよね。でもまぁ、だんだんと形になってきて、これならいけるぞと。
 ――表題曲でもある「塩かけて食え」はどのような着想がありましたか。
 後藤:疎水沿いの家賃二万クソボロアパートに住んでた時期に本当にお金がなくて。塩舐めて生活してた時期があったんです。その時、疎水の前栽に野生しているツツジに塩かけて食べてみたんです。もう涙が出ましたね。塩片手に持って。日が傾いて、楽しそうな家族連れやカップル達がこれから白川通り沿いの焼き肉店へでも向かうのに、野草に塩かけて食ってんですもん。その時できたのが「塩かけて食え」でしたね。これ実は失恋ソングなんですよ。
 ――花に塩かけて食ったエピソードと失恋、深いテーマ性がありそうですね。
 後藤:花は別離、塩は慈しみの意味があります。その姿を恋愛と捉えると見えてくる二人の関係、みたいなものが……あまりラブソングは得意じゃないので恥ずかしい(笑)
 ――ちょっと何言ってるかわかりませんが、レコーディングは海外でされたんですか。
 後藤:ロスで行いました。時間がなくて弾丸での敢行だったんですが、現地の方の手際もよくて比較的スムーズに進行しましたね。ミュータント・タートルズのグッズを現地に持ち込んだらそれがえらく好評で。忍者亀ってあっちでも有名なんですよ。亀がピザ好きで、日本武術を駆使した亀たちがニューヨークの街を救う話って日本とアメリカの夢のマッチングみたいで、日米の融和ムードてんこもりって感じですよね。特にクランゲが「さーわちゃーん、タートルスープにするぞー」とか言うところがツボで
 ――タートルズの話はいいので、曲について教えてください。
 後藤:センスだけでみたいなものはあまり前面に出したくないんですよね。と言えどもテクニックに頼ってばかりもダメ。難しいところのちょうど交点を意識しています。それは少し前にベルギーの都市ワントワープに住んでいた時の影響が大きいんですよ。私はセンスフルな空気に触れていないと生きていけないタイプじゃないですか。時々街の雰囲気や人の感性を吸収したくて逃避行しちゃう。それがきっかけで感じた事が曲になっていくんです、自然にね。曲ってまるで自分自身の生きている証明なんですよね。まるで息を吸うように曲たちが舞ってくる。そう、それはまるで妖精王オーベロンと女王ティターニアのようであり、私自身でもあり。
 ――よくわかりませんが、わかりました。ところで後藤さんは女子中高生向けのファッション雑誌にコラム連載をもたれていますよね。
 後藤:はい。学生時代の自分の経験を書いたりしています。淡い恋心だったり、絶対叶わない生徒と教師の恋だったり。私も学生時代はずっと教室の隅で寝たふりをしていましたし、授業中に消しゴムのカス投げられたり、牛乳ぶっかけられたり、お弁当箱窓から放り投げられたり、朝来たら私の机が外に出されていて
 ――すみませんでした。聞いた私が悪かったです。死にたくなる。では後藤さんの音楽の原点を教えてください。
 後藤:音楽に触れたのは幼少期でしたね。小さい頃に父親が蒸発して母親も再婚して家を出ていったんです。早くしてサーカス団に売られて、象の檻の横で暮らしていたんですが、象を落ち着かせるためにクラシック音楽を聞かせるんですよ。だからいつも傍に音楽はあった。音楽だけが私の楽しみであり安らぎだったんです。毎日つらい訓練に耐え、綱を渡らされ、鞭で尻を叩かれ、食事は一日に一度パンとスープ。夜は寒い中、藁をかぶって震えながら寝ていました。その時にも音楽がそっと私に寄り添ってくれて、ああ私は音楽に守られているんだ、音楽に支えられているんだと。
 ――思ったより壮絶なエピソードで引いています。デビュー作である「あの子に爆破予告」もえげつなかったですが、今作に収録されている「ラブ曼荼羅」もまた酷い世界観ですね。
 後藤:「あの子に爆破予告」は恋愛ソングなのですが、愛と憎しみは同意と思っていて。瑞々しい殺意と人を好きになる気持ちは表裏一体で好きが募って募って、限界までいくと殺したいくらい好きになっちゃう。他の誰かのものになるくらいなら、いつかあの子が死ねば永遠に自分の記憶の中に生き続けるのにって極めて純粋なラブソングです。「ラブ曼荼羅」も同じでテーマが輪廻になっていて。ほら、よく生まれ変わっても一緒になりたいとか言うしょうもない男いるじゃないですか。そんな生ぬるいものではなくて転生の段階で魂レベルの融合を果たしたいという願いを書いています。
 ――テーマが重すぎてゲロ吐きそうです。今回ジャケットにもこだわりがあるとか。
 後藤:ずっと大好きだったエロ漫画家の御手洗舐め太郎先生にジャケットを手掛けてもらいました。汚い絵柄でいつまでも上達しないし、売れないし、歯もないし、デブだし、くっさいおっさんで生活保護ですが、汚い中華料理屋が実は旨いみたいな(笑)そういうところが魅力的なんですよね。御手洗舐め太郎先生のイラストは心の栄養剤です。栄養はえーよーなんちって(爆笑)
 ――あ、そういうのはいいんで、今後の意気込みを教えてください。
 後藤:とにかくたくさんの人に聞いてもらえればと思います。前のアルバムに特典として握手券をつけたんですけど、握手券だけ捨てられるという逆AKB現象が起きたんで(笑)シャイな人が多いみたいなんですよね(笑)だから今回は大サービスでハグ券も特典としてつけちゃいます! みんな大好きなんで、特別にハグしちゃいますよー☆
 ――そうですか、よかったですね。私はいりませんが。本日はありがとうございました。
 後藤:礼を言う。さらばじゃ!


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