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クリアファイル

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クリアファイル

 これ限定なんです。そう口にした吹奏楽サークルの後輩が手に持っていたのは、知らないアニメのクリアファイルだった。楽譜だけを取り出して渡される。クリアファイルごと渡すもんだと説教臭く言った僕に彼女は再度告げる。これ限定なんです。継ぐ二の句を持たなかった僕の負けだろう。じゃあ、仕方ないな。楽譜を自らのファイルに挟む。彼女に背中を押されるまま学食へ向かった。
 僕はカレー、彼女は五十食限定本日のランチをそれぞれトレイの上に乗せて席を探した。ここ数週間一緒に食べるのが当たり前になっていた。彼女は話し上手で色んな話を聞いた。
「そんなに限定が好きか」
「だって、今しか手に入らないんですよ」
まっすぐな欲望は少し羨ましくもあった。けれど、自分がそうなる姿は想像もつかない。
「先輩は彼女作らないんですか」
「今はいらないかな」
そうやって、欲しいものを先へ先へ伸ばしていた。本当に欲しいものから目を逸らして足るを知ったかのように生きていた。一枚皮を剥げば欲望ばかりなのに、理想の自分でいたかった。彼女が俯いていたのに気付かなかったのは、自分のことばかり考えていたからか。
 次の日、昼食のお誘いはなかった。
「だって、今しか手に入らないんですよ」
彼女の言葉を思い出す。こうやって僕はまた失くす。今を失っていく。でもいいんだ。ひとりも好きだから。強がりじゃないと自分に強く言い聞かせながら、
 ひとり学食に向かうと、彼女はひとりカレーを食べていた。
「だって、今しか手に入らないんですよ」
彼女の言葉を思い出す。僕も手に入れることができるだろうか。僕だけの限定。昨日彼女が触れた背中を押してくれる人は誰もいないから、代わりに押してもらう。トレイの上に初めて乗せた五十食限定本日のランチに。
 行け!
5

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