動画(静止画)はこちら
https://youtu.be/jRFAXBvBZdQ
ライブバージョン
https://youtu.be/uaTEmofkbew
読書感想文回。
津村記久子「ミュージック・ブレス・ユー!!」について。
石川宏千花「拝啓パンクス・ノット・デッドさま」を読んで以来、音楽と絡む小説をいくつか意識して読んだ。
「マチネの終わりに」平野啓一郎
「実験4号」伊坂幸太郎
「うたうひと」小路幸也
「ロック母」角田光代
「ラットマン」道尾秀介
「ロック・オブ・モーゼス」花村萬月
そして今回取り上げる「ミュージック・ブレス・ユー!!」津村記久子。
それらが自作に直接影響を与えてるかというとそうでもない。むしろ新都社の作品から影響を受けて書く事が多いかもしれない。最新更新でも突っ込まれていたが、この間の「パンテライン・レディオ」はショムニ沢たかを先生の「読むラジオ」https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=23141から。ストリート・チルドレンを書いた「異邦人」は、バーボンハイム先生の「サンバの国、ブラジルが修羅の国すぎた」https://neetsha.jp/inside/comic.php?id=23074
を読んで思いついたものだ。この場を借りてお二人には感謝申し上げます。
アヴリル・ラヴィーンのコピーバンドでベースを弾いていた主人公、アザミがボーカルの子に引っぱたかれてバンドが空中分解する所から話は始まる。西海岸パンクが大好きなアザミはバンド解散でちょっとほっとしていたりする。
「いやべつに、アヴリル・ラヴィーンが嫌いってわけやなくて、他のバンドの曲を聴く時間を削ってまで聴くようなもんやないわなって」と独白するアザミの気持ちはよく分かる。
高校生活やらアザミを気にする男の子との絡みやら受験やらまあいろいろあるのだけれど、終盤でアザミはBlink182の曲「Carousel」を頭の中で鳴らす。ポータブルCDプレーヤーの充電が切れていた為に、大切な友達と別れた後の電車を待つ間、愛する曲を聴けなかったのだ。
『チェシャー・キャット』のバージョンは一分二十三秒もあるそれをアザミは、何かを待たなければいけない時に頻繁に思い出すのだった。考えなければいけないことは山ほどあって、音楽に浴していない今こそそうしなければいけない時間のはずなのに、それでもアザミの頭の中では音楽が鳴っていた。ほとんど完璧に思い出せるのだ。その長短と再生の回数でカップラーメンの出来上がりを測れるぐらい。
この部分を読みながら、同時進行で私の耳に「Carousel」を浴びせる。イントロへの主人公への想いを実感しながら、何倍も読書が楽しくなる。ただでさえ私の高校三年生時との共通項があり過ぎた。私も仮進級だった。もっとも、アザミには受験先を探してくれる熱心な先生がついてくれたが、私を含め複数のバンドマン達は進学も就職も選ばず進路指導の教師から匙を投げられていた。
久しぶりに卒業間近の夢を見た。最後の期末テストで複数の教科でそこそこの点を取らなければ卒業出来ない。結果的には面倒を嫌う学校側の配慮とそれなりの勉強の成果もあったのだろう、帳尻合わせのように赤字は消えていた。
教師達が勝手に推測した進路と違い、私は音楽への道は早々にケリをつけて、高校卒業直後に買ってもらったパソコンで文章修行をしたりネット麻雀に明け暮れたりエロサイトを漁ってブラクラを踏んだりしていた。ネットで一気に広がった世界で様々なアーティストを知り、Blink182の曲もいくつかその頃触れていた。「Carousel」を当時知っていれば、アザミと同じくそのイントロを頭の中で繰り返し鳴らしていたかもしれない。
津村記久子の作品は私のフリーター時代に出会っている。睡眠時間を分け、会社に行く前に朝四時半から執筆をしていたという逸話を読んで真似しようとしたが、私が早起きした時間は大体ダラダラ過ごすだけだった。
いくらでも本を読め、執筆にあてられる膨大な時間があったはずのあの頃、私は思い出したようにしか筆を取らなかった。仕事が忙しくなり、二人の子供達の相手もしながらも、今では二、三日に一冊のペースで本を読み、週一ペースを保って短編小説を書き、時々スタジオにドラムを叩きにも行っている。
「やりたいことですか」
ずっと音楽を聴いていることだ。ずっと、その時聴いている曲を最後まで聴くためにわざと遠回りをするあの帰り道を繰り返すことだ。
会社に着く直前の横断歩道で信号待ちをしながら、朝に聴く最後の曲として「Carousel」を選び、上に引用した文章を思い出す。やりたい事全部やれてるな。いい人生かもしれないなんて思いながら。
帰り道の電車の中では、新しく好きになれる曲を探し、読み終えた本を閉じて新しい本に手を伸ばす。
(了)