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「タンゴ」じゃがたら

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動画(静止画)はこちら
https://youtu.be/7v_xaUi1GuY


 4月28日。休日。
 朝起きると腰に痛み。前日特別に腰を酷使などはしておらず。最近ゆっくり湯船に浸かってなかったからな、と思い、健三郎を幼稚園に送った後、指がふやふやになるまで湯船に浸かる。あまり痛み変わらず。湿布「フェイタス」買いに行く。
 幼稚園に健三郎を迎えに行った後容態は悪くなる一方で、夕方耐えきれずに整形外科に行く。ぎっくり腰の診断。帰途大雨が降る。

 4月29、30日出勤日。
 思えば同僚が立て続けにぎっくり腰を発症していた。癖になりやすいのもある。気候が急激に暖かくなった後、また一気に冷え込み、身体がついていけないのもあるだろう。私は数年前に「ぎっくり腰になりかけ」と診断された酷い腰痛に襲われた時があるが、本格的なぎっくり腰は初めて。
 コルセットを巻き、歩けないわけではないが非常に遅くなる。会社の許可を得て、掃除用具を改造した杖を用いると、通常の歩行速度の再現に成功。年配者や足腰に持病のある人には常備させてもいいのではないか、と提案。「正気ですか」との返答をいただく。
 終盤業務中、現場を広く使えるようになってからは、様々な用具を組み合わせ自家製車椅子を作成。ボートをこぐようにして移動。同僚にスマホで撮影されたのでユーチューバー風に現況を説明。拡散はされていない。

 5月1日 休日。
 のはずが、急遽呼び出される。従業員Tの近親者でコロナ陽性反応出た者あり。Tと出勤日が被っていた者はPCR検査を行うとの事。保健所の基準では私達は濃厚接触者判定には当たらないが念の為。
 判定結果はT含め全員陰性。しかしTは二週間の自宅待機。
「人が少なくてもTがいればどうにかなる」現場だった為に、地獄の日々が始まる。私は腰を庇いながらの為に全力では動けず。

 町田康の小説を立て続けに読む。昔と違い、町田康の文体が感染するといった事はない。町田康を読みながら久し振りにInuを聴く。飯を食べながら町田康を読みながら「メシ喰うな!」を聴く。町田康名義や町田町蔵名義のアルバムを聴く。「犬とチャーハンのすきま」を気に入る。関連アーティストに頭脳警察、STALIN、あぶらだこ、そしてじゃがたら等が出てくる。懐かしくなりその辺りを聴き漁る。

 仕事の忙しさとぎっくり腰を理由に執筆を休む。休んで楽になるかというとそんな事はなく、書いていない事の喪失感、世界と関わってない感、生きていない感が強くなり、むしろ心身に良くない。
 朝礼で繰り返す。
「生き残って下さい」

 ジャンププラスで大石浩二「いぬまるだしっ」が期間限定で全巻無料だった為に、日々少しずつ読む。下半身丸出しの幼稚園児が活躍するギャグ漫画で、2009〜2011年辺りに連載されていた。私の環境激変期と被る。好きな作品だったが、読んでいた回と読んでない回がまばらである。漫画雑誌の立ち読みすらせず、二、三週間家にこもりきりの事もあった頃だ。
 じゃがたら「裸の王様」を聴きながら「いぬまるだしっ」を読むという無意識下のコラボをしていた。

 本当に大変な日は、まとまった休憩を取りにくいので、トイレのついでに軽く何かを食べる。どこかで20分ほどはゆっくりする。その際にイヤホンで聴いていたのが、じゃがたらの「タンゴ」だった。「君と踊りあかそう日の出を見るまで」収録のライブバージョン。13分近くある。既にその頃精神に変調を来たし、数年後浴槽で溺死する江戸アケミの声と、繰り返されるリズムでトリップする。ここがどこだか分からなくなる。誰が誰だか分からなくなる。どうしてここに。いつまでこうしてこんなざまで。


ゴミの山に埋もれた
食いかけのハンバーグ
あんたの手から落ちて
まわり巡って
地面に吸い取られた


「クレヨンしんちゃん」を観て、しんのすけが下半身丸出しでない事に疑問を抱く。「いぬまるだしっ」と混同していたのだ。タンゴ、タンゴ、と仕事中に呟くように歌う。回復してきた腰はむしろ前より可動域が広くなった気がする。私より少し前に発症した同僚は、治ってすぐに再発した。じゃがたらは何度も復活したが江戸アケミは死んだままだ。この期間中会社の上の人といろいろあったが、コンプライアンス的に書けない。本格的に腰が回復したのを確認する為、子供達が寝静まった後で妻とコンプライアンスする。翌朝立てない事もなく、一日置いて痛みが出るという事もなかった。なのでまたコンプライアンスした。

 同僚の一人の定年退職が近付いている。皆に嫌われていた人なのに、最近優しく接している。いきなり働かなくなると、この人はゼンマイが切れたように永遠に止まってしまうのではないか、と思える。

 5月12日。
 ぎっくり腰発症からちょうど二週間。やや張りがある以外は問題なさそう。
 長い長いイントロと語りが終わり、江戸アケミが「ワン、ツー、スリー、フォー」とカウントを取り、「タンゴ」が始まる。繰り返しイヤホンから流れ続ける。何から書こうかと思いながら、思い付くままに書き綴る。何者でもなかった私が人に戻る。


(了)

Wikipediaより
じゃがたら
https://ja.wikipedia.org/wiki/JAGATARA
江戸アケミ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B1%9F%E6%88%B8%E3%82%A2%E3%82%B1%E3%83%9F
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