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「Island In The Sun」Weezer

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動画はこちら

通常
https://youtu.be/erG5rgNYSdk
動物達と戯れるバージョン
https://youtu.be/0C3zgYW_FAM
最近のライブ映像
https://youtu.be/Y9EXeiQIBGY


 下の子の1歳8ヶ月健診に行ってきた。虫歯無し。特に体に異常なし。よく歩いている。言葉の数は今のところ「パパ(家族全般)」「ばっこ(納豆)」「わんわん(動物全般を指して)」「ピッピー(車)」「とぁっく(トラック)」「カンカン(電車)」「あち(熱い)」「ごっ(go!)」「こぅえん(公園)」「ばぁい(バイバイ)」など。アンパンマンとか言える子もいれば全然話さない子もいるだとか。単語の種類が男の子だ。上の子は女の子で、車にさほど興味は示さなかった。

 上の子の時はどうだったか、記憶が曖昧になっているのは年月のせいだけではない。同じ年頃の上の子の写真と今の下の子の顔がそっくりなので、記憶が混同しているのだ。上の子は今年から小学校に通い始めた。引き算と格闘している。この間まで「何々君」だった、同じクラスの気になる男子の名前が、呼び捨てに変わっていた。

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 伊達政宗(1567-1636)は思った。どこか南国の島とかでのんびりしたいと。現地で仲良くなった女の子の尻でも触りたいと。別に恋愛とか肉体関係とかそういうのじゃなくて、何となく意気投合して一緒に遊んで、距離が近くなって時々胸とか尻とか当たっちゃって、でももう遅くなったし帰るね、そうだねまたね。みたいな。一夏の淡い思い出、みたいな。さあリフレッシュ出来たし明日からまた戦国大名やっていこうか、今度はどこの奴等を皆殺しにしようか、みたいな。
「っていう気持ち分かる?」政宗は思ったことそのままを家臣の片倉景綱(1557-1615)に尋ねた。
「わかりませんな。殿、無駄口叩いてないでゆっくり休んで下さい。行軍はまだ長く続くのですぞ」
 秀吉に誘われての小田原征伐に向かう途中である。この時代にはまだ東北新幹線など開通していないので、寝台列車に分乗しての行軍となった。慣れぬ布団と枕で眠れない政宗は、好きなバンドの動画などを見て暇を潰していたが、Weezerの「Island In The Sun」を久し振りに聴いた所で、幾つかのバージョン違いの同じ曲を聴き続けた。バンドのメンバーが動物達と戯れている動画では、「猿や子グマや、子ライオン? まではまあいいとしよう。このクロヒョウとかって本物なの? 危なくね?」と景綱に見せてみた。
「それ以上喋ると、見えてる方の目玉を抉り取りますよ」
「怖いよ! 独眼竜じゃなくなっちゃうよ! 暗い洞窟内に生息している目の退化した魚じゃないんだから」
 近くで寝ている兵士の舌打ちが聞こえた。政宗は少し涙ぐんだ。

 この時代の電車の速度はまだ遅いし、鹿にぶつかったとか山賊が襲ってきたとかですぐに止まる。旅は続いた。
「最近の俺の音楽との接し方ってさ、好きな曲をこれって決めたら、歌詞を熟読して、アーティストのWikipedia読んで、知らなかったエピソードを知って、そのバンドや曲の事を以前より好きになって…」
「その事を、全く興味を持っていない相手に向かって暑苦しく語り続けるんでしょ。息継ぎもなく、相手のうんざりした顔も見て見ぬ振りをして」
「聞いてよ」
「ブログかTwitterにでも書いて下さい」
「書いたら読んでくれる?」
「私も好きな曲の時なら」
「誰が好きなの、景綱は」
「妻です」
「アーティストの話だよ!」
「村下孝蔵やCOLDPLAYですね」
「その内書くからね」
「で、いつ寝るんですか」
「それより女とイチャイチャしたい」
「キャバクラでも行けばいいじゃないですか」
「全然分かってないよお前は」
 政宗はふて腐れても眠らず、「Island In The Sun」を聴き続けた。

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 上の子が赤ん坊の頃にはスマホなどなかった。だっこして寝かしつけながら、やたらと尾崎豊の「I LOVE YOU」や、ラピュタの主題歌「君をのせて」を歌っていた。下の子の時には、寝かしつけ用に選んだ曲のプレイリストを使うようになった。これを流せばたちまちコトン、と眠りに落ちる曲というのがあり、RADIOHEADの「Creep」がそのトップに長い間君臨した。他にはフジファブリック「若者のすべて」、ホフディラン「欲望」、奥田民生「エンジン」などでよく寝付いてくれた。「若者のすべて」がCMソングとして起用されていた時、上の子は「けんちゃん(下の子)の曲やん」と言った。

 音楽小説集で次に書く曲をWeezerの「Island In The Sun」に決め、伊達政宗の話にする事にした。そこまでは良かったが、歴史物を書く際はどうしてもある程度資料に目を通し、時代考証を正確にして、なおかつただ史実を書くだけにならないようにしなければならず、手間取っていた。そうこうしている内に、どこで話の終わりにするのかが分からなくなってしまった。なのでその工程をそのまま書くことにした、という次第である。

 同じ年頃が大勢いる場所で、お医者さん相手に大泣きしたりしたりと慣れないことに疲れたのか、運動量は大した事はなかったと思うが、いつもより少し早めの時間に下の子が眠そうにし始めた。最近は寝かしつけはほとんど妻に任せていたのだが、久し振りに私がすることになり、では、と今書いている最中の「Island In The Sun」をリピート再生してみた。ある時から音楽を使った寝かしつけにほとんど効果が無くなっていたので久し振りの試みだったが、意外とすんなり寝てくれた。布団に降ろしても起きず、犬のぬいぐるみに寄り添って寝息を立てていた。


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 政宗はまだ眠らないでいた。まどろみは見えない方の目玉に任せて、見えている目で小田原の地形や敵味方両方の武将達の情報収集を進めていた。バックグラウンドで常に「Island In The Sun」を流し続けた。
「この戦が終わったら…」政宗は一人呟く。続きはとても小さな声だったので、「どこかの島で女の子達とイチャイチャするんだ」だったのか、「キャバクラ行くんだ」だったのかは分からない。もっと別の、「ゆっくり眠るんだ」みたいな事かもしれなかった。
 寝台列車は何も語らず、黙々と戦場へと走り続ける。

(了)
 
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