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「ニムロッド」People In The Box(これまでの振り返り回)

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動画はこちら
https://youtu.be/LME2bCe3_J8


 この曲で書こうと決めてから動画を見たら、芥川賞受賞作「ニムロッド」がこの曲の影響で書かれた事を知り、同曲での執筆を諦める。その代わりにこの曲をバックに、これまで書いた物を振り返ることにする。前回の振り返りは20曲の時。今回はそれから数えて10曲目。上田岳弘「ニムロッド」も読み始めた。ニムロッドを聴きながらニムロッドを読み、ニムロッドを書くという、ニムロッド漬けの日々。書く、の部分は出来てないけれど。振り返り回にさせてもらったけれど。

 本来はもっと洋邦新旧メジャーマイナー満遍なく曲選びをしたいのだけれど、偏りが出てしまう。31曲目以降はそのあたりも考えて、何となく第3期にしようかと思う。


「The Passenger」Iggy Pop(1977)

 ここから第二期(なんとなく)の始まり。三人称縛りが完全に無かったことになっている。最初に書いている通り、会社の同僚からの依頼で元々書いていた分。現在社内では凄腕PCスキルの持ち主により、私の画像とハリウッド映画のポスターを合成したコラ画像が作られている。貴重な休日に同棲中の彼女にぶつくさ言われながら、その画像を私への誕生日プレゼントとして作ってくれた彼は何かに目覚め、次々と新作を手掛けている。
「一日一作を目標に」という彼に、
「毎日何々、というと、それだけが目的になってしまいがちで、修行にはなるんだけど、後から見ると決して高クオリティを保ててはいない、という事態に陥りがちになる。たとえば週一ペースにして、素材探し、構想練り、下地作り、みたいにスケジュールを立てた方がいいと思う。それから、完成してもすぐには発表せず、半日でもいいから少し時間を置いて見つめ直すのも大事」と私はアドバイスした。
 クオリティの高い私のコラが出回っている為、現場から事務所に上がると「あ、本物が来た」と言われる始末。そろそろ訴えても勝てると思う。

 作中に出てくる和之は、高校時代にパンテラ、KORN、マッドカプセルマーケッツ、レイジアゲインストザマシーンのコピーバンド及びオリジナル曲をやっていた本格派のバンド仲間。卒業後に「ニルヴァーナやりたくなったからベース弾いて」と頼まれ、一度だけ彼とも組んだ。ベースは彼に借りた。ライブハウスで一度だけライブをした。ベースアンプにシールド差す所間違えて、開始直後にスタッフにシールドを抜かれて差し直してもらった思い出。


「スロウ」GRAPEVINE(1999)


 これも同僚からのお題と曲を組み合わせたもの。こちらは同僚には見せなかった。ロケットえんぴつと「スロウ」でどうしてこういう話が出来上がるのだろう、と今読むと不思議だ。GRAPEVINEは昔友人に薦められた時はあまり聴いてなかったが、今では好きな曲がある。「音楽小説集」のプロトタイプともいえる、「人の歌声」シリーズ(「千文字前後掌編小説集」内)でも「風待ち」を取り上げている…今確認したら幾つか読めなくなっている。編集の時に間違えて中身を消した? まあいいか。


「リッケンバッカー」リーガルリリー(2018)

 微熱と喉の痛み、私がいつもかかる風邪の症状だ。久しぶりに風邪を引いてしまったな。ひどくなる前に病院に行こう。今日は幸い人員に余裕があるから、先に病院行ってから昼出勤にさせてもらおう。この機会に病院で執筆を進めよう。という流れで完成した一作。そう、この時は軽い風邪だと思っていた。それがインフルエンザで、一家全滅になるなんて未来をこの時は考えもしなかった。会社でパンデミックが起きなかっただけでも良しとしなければ。

 作中に弁護人として出てくるオジー・オズボーン。彼の曲で書くなら「Perry Mason」だな、と思って曲について調べると、「Perry Mason」はアメリカで人気の弁護士物のドラマの事で、その主人公を題材にした曲だった。自分でもどうしてこの話でオジーが出てくるのか最初は不思議だったのだが、合点がいった。偶然か、以前も調べた事があったのか、今では分からない。

 スマッシング・パンプキンズの「Disarm」でも書こうとしていたが、うまく出来なかった。話が浮かばなかったり、構想の途中で没にしたり、そういった事はよくある。それでおしまいにするのではなく、別の作中に出すというやり方をこの時覚えた。

「リッケンバッカー」は、書きたい曲探しの最中に見つけた。すぐに歌詞に心打たれた。見つけた瞬間からリピート再生して、この曲で書こうと決めた。


「Faith」Limp Bizkit(1998)

 インフルエンザで寝込んでしまい、いつものように次に書く曲をリピート再生して聴き続ける、という事が出来なかった回。今の薬はすぐに熱を下げてくれる。しかし体力はなかなか戻らなかった。最初ただの軽い風邪と思っていた時に、「休みの日にいつまで寝てんだ、わしと遊べやごるぁ」という感じで部屋に乱入してきた下の子にインフルが伝染ってしまった。次に、彼のむずかりをあやした上の子と妻が。家族の看病もあり、結局会社を一週間休んだ。いまだに同僚から恨み言を言われる。だからといって、どこの部署のミスも最終的に何故か全て私が悪いという流れはおかしいと思う。
 書いたのはインフルが治まりかけてた頃。イヤホンをつける訳にもいかなかったので、執筆エネルギーとしての音を取り込めなかった。だから、ほぼノンフィクションとなっているのは見ての通りである。上記和之達のバンドでもこの曲はカバーされていた。


「WALK!」The Mad Capusule Markets(1996)

 マッドは元々もっと早い段階で書こうと思っていた。しかし動画があまりない。けっこうその段階で躊躇したりやめてしまう事がある。コメント欄でも書かれていたが、昔のミュージッククリップが見られないのは大きな損失である。音源自体はSpotifyで聴けるのだけれど。
 娘にまで伝染してしまったインフルエンザだが、幸い運動会前に学校に復帰出来た。まだまだ一家の体力は半回復といった状態での運動会観戦記。こちらもノンフィクション。



「the sound of secret minds」Hi-STANDARD(1997)

 この回は息子の代筆。娘にも以前書いてもらった時がある。

「妻のお腹の中にいる娘がこれを書きました」
http://neetsha.jp/inside/comic.php?id=10865&story=33
「我が娘成長記」
http://neetsha.jp/inside/comic.php?id=10865&story=38
「私ココ」
http://neetsha.jp/inside/comic.php?id=10865&story=48

 ついこの間の事なのに、この頃よりも語彙は増えている。「ああと(ありがとう)」「しんかんかん(新幹線)」「ベーイベー(Muse「Starlight」の歌詞とメロディに合わせたベーイベー)」「ラーラーラーラー(Iggy Pop「The Passenger」のデヴィット・ボウイのコーラスに合わせたラーラーラーラー)」

 この間ミュージックステーションのスペシャルを妻が録画していたので観ていたら、エレカシの宮本浩次が横山健(HI-STANDARD)作曲の歌を歌っていた。他にもイエモンやCoccoが出ていて、高校時代にタイムスリップしたような気になった。


「JACK NICOLSON」bloodthirsty butchers(2004)

 追悼三部作第一段。別に最初からそのつもりではなかったけれど。
 次に書く曲を、「街の底」「Tattooあり」「JACK NICOLSON」の3曲で悩んでいた。次第に「JACK NICOLSON」一択に傾いたけれど、他の曲を捨てるのももったいなく、全部ぶちこんだ。
 bloodthirsty butchersについては、元々聴いていたわけではなく、「街の底」の動画を観ていたら関連動画でたまたま知った。ギターに田渕ひさ子(NUMBER GIRL)が加入後の曲というのも後で知る。ある意味ここからの3曲と同時に鳴り響いているのは、eastern youth「街の底」ともいえる。


「夜明けのBEAT」フジファブリック(2010)

 もう手持ちの曲で書けるものも無くなって来たかな、と思いつつ新たな発見を求めていたら、「何ぬかしとんねん、わしがおるやろが」という具合に主張してきたこの曲。思わず「せや、すんませんでした! 今すぐ書かせてもらいまっさ!」というノリで即決した。
 仕事中疲れがピークに達すると、この動画の始めの方の歩き方になり、この曲が頭の中で流れ始める。最近では以前より随分と仕事が楽になったので忘れていた感覚。



「New Born」Muse(2001)

 追悼三部作最終章。別にMuseのメンバーが亡くなった訳ではない。これまでの流れに乗っかって、「悪童イエス」の登場人物を出してみた。書いている途中に吾妻ひでおの訃報を聞いた。
 そういえば、「娘が学校の行事で踊る曲」のイメージは元々はMuseの「uprising」だった。今年はマッドカプセルマーケッツの「WALK!」に決まったけれど。「悪童イエス」中では、イエスにMuseの「Starlight」を歌わせている。下の子の寝かしつけにも以前「Starlight」をよく使っていたが、こっそり「New Born」も混ぜていた。案外寝てくれた。今ではもう通用しないが。

 
「ニムロッド」People In The Box(2012)


 そして現在に至る。

 同僚の一人が突然こんな事を言い出した。
「泥さん、何か楽しい事ないっすかね」
 最近彼女(巨乳)が出来たやつが何言ってる、と思う。
「趣味だとか生き甲斐だとかそういうもの?」
「わかんねっす」
「子供作ったら」
「まだ結婚する気はないっす」
「何か好きな事は?」
「歌うのは好きっすね」
 私はCoccoの「強く儚い者たち」を口ずさむ。
「泥さん、やめて下さい」
 それじゃあ、と「青春アミーゴ」に切り替える。
「俺の青春ソングを歌のはやめろ!」
 殴りますよ、と言うのでもう一度歌ったら、やっぱり殴られた。
「好きっつってもあれですよ。プロ目指すとかそんなんじゃないし」
 私はバンド少年から文学青年にシフトチェンジした話を彼にしたことがあった。私にとっての最大の楽しみといえば、小説を書く事だ。子供との触れ合いを除けば、その他の事は些事に過ぎないとさえ言える。彼と仕事の話やふざけた話以外の会話を交わしたのは初めての気がする。小説「ニムロッド」の中にも、主人公と作家志望の同僚との会話がある。物語に現実が引っ張られている、というよりも、現実が物語に引きずり込まれている気がする。
 私は今も週一ペースで短編小説を書き続けてる、というような話の途中で用事が出来て話は切り上げられた。

 翌日、別の同僚が私のコラ画像の新作を嬉々として見せてきた。「でも元画像が一番インパクトがあるんですよね」ひどい話だ。従業員の労務費管理を簡単に出来るようにした私のアイデアを元に、彼に仕上げてもらったExcelシートの確認中、「この間のお題の文章まだもらってないですよ」と催促されたので、音楽小説集内にある「スロウ」を少し添削してローカルに保存して渡す。勿論休憩時間を利用して。しかし評判は芳しくない。私も会社向けではないと思い、彼には渡してなかった分だ(その前にもらったお題を元に書いた「The Passenger」の方はすぐに渡していた)。元々社内で評判になったのは、お題「ブラックサンダーと私」を受けて書いた、私の幼少時代の話だった。今はもう存在しないアフリカの小国での奴隷時代を書いた。そこから日本に来て今に至るまでの事をもっと書けるだろう、と同僚達は言ってくる。しかし実は私は本当は日本から出たことなどないのだ。

「本当の事を言おうか」と、谷川俊太郎の詩の一節を借りて白状してしまいたくなる時がある。私小説風に書いている事の全てが事実ではない。

 別の同僚から次のお題を貰う。
「都会の中で孤独に生きていて、辛い日々を送っているけれど、一筋の希望が見えて、みたいな」
「自分の事?」
「違います」
 職場も彼女の住む所も大都会には程遠い。
「11月第2週までにお願いします」
 日付指定で思い出す。彼女の弟が自らの命を絶ったのは去年の話だったか。
「『光の射す方へ』?」
「そう、そんな感じ!」
 
 安請け合いして良かったのか、とも思う。

 少しずつ読んでいる『ニムロッド』が佳境に入っている。作家志望の同僚が書く断片的な小説の中で「人間の王」ニムロッドは、今建っている塔が手狭になってきたので、新しい塔の建設を考え始めている。私は娘を小学校に送り出す。下の子は鼻風邪を引いて鼻をぐずらせながら眠っている。私は「ニムロッド」を繰り返し聴きながらこの文章を書いている。歌詞を改めてじっくりと眺めていると鳥肌が立ち始めた。曲調まで以前よりも鬼気迫る響きを帯びて聞こえてくる。噛めば噛むほど味が濃くなっていくガムを噛んでいるようだ。息子が何度も寝返りを打っている。夜中に何度も起こされた妻がいつまでも起きられないままでいる。私ももう一度眠りたいが、今のうちに、と書き物を進めていく。

 外は晴れすぎた空だ。歌の中のように飛行船は飛んでおらず、無数の花粉にやられて目がかゆい。目を閉じれば眠りに落ちてしまいそうなので、更新まで意識を繋ぎ止める。半分夢の中で私は自分が書いている物がこれまでの振り返りなのか小説なのか何なのか分からなくなってしまっている。

(了)
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