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「Like a Stone」Audioslave

動画はこちら
https://youtu.be/7QU1nvuxaMA

歌詞・和訳はこちら
https://lyriclist.mrshll129.com/audioslave-like-a-stone/


 のび太は石ころ帽子を被り、すれ違う人々に認識されないまま街を歩く。帽子の下に装着したイヤホンからは、Audioslave「Like a Stone」がリピート再生されている。誰かと肩がぶつかる。誰かに足を踏まれる。誰にも認識されない中で、のび太は痛みと向き合う。家業を手伝うジャイアンが自転車を走らせている。のび太にはぶつからない。普段のび太には見せた事のない真面目な顔でジャイアンは仕事に励んでいる。トム・モレロのギターソロが終わると自然と、MVで見たクリス・コーネルと同じ微笑がのび太の顔に浮かんだ。

 AudioslaveはRage Against The Machineの解散後、元RATMの三人に、元Soundgardenのボーカル、クリス・コーネルを加えて結成されたバンド。代表曲「Like a Stone」の演奏は、メンバー構成を知らなければ、RATMと同じ人達が弾いてるとは気付かないくらいに、手数が少なく、必要最低限の音、ギターバッキング回数まで抑えられているように聞こえる。そして静かに歌い上げられるのは、クリス・コーネルによる死生感と孤独感。

 のび太はかつて無人島で過ごした十年間を思い出す。自身の過失により起きてしまった、長すぎた家出。いっそ死のうかと毎日思い悩みながらも生き長らえてしまった日々。島についてすぐに捨ててしまっていた秘密道具の一つがSOS発信器だった為、それを拾い上げてスイッチを入れた遭難十年目に、のび太はドラえもんによって救い出された。タイムマシンに乗って十年前に戻り、家出そのものが無かった事にされた。十年分歳を取った肉体はタイム風呂敷によって若返った。しかし記憶はそのままだ。十年分の孤島生活を今も抱えてのび太は日々を過ごしている。
 もしもあの日々に音楽プレイヤーやスマホがあれば。きっとこの曲を聴き続けていただろう、と思いながらのび太は「Like a Stone」を摂取し続ける。しずかちゃんが出来杉と仲良く歩いている。嫉妬心も湧かない。石に恋愛感情などない。

 クリス・コーネルは再結成後のSoundgardenによるアメリカツアー中に自ら死を選んだ。少年期からの薬物中毒も影響していただろう。のび太は薬物に手を出しているわけではないが、未来から来た猫型ロボットである、ドラえもんの出す秘密道具に耽溺していると言えるかもしれない。薬物よりずっとたちの悪い、「未来」という言葉と概念。のび太の子孫をより良い方向に向ける為に送られてきた猫型ロボットは、「変えるべき未来」として、のび太がそのまま歩めば生きる未来像を見せた。いじめっこの妹との結婚、貧乏生活、立ち上げた会社の倒産、遠い子孫にまで残る借金…。
 まだ経験していない将来を、のび太は一方的に否定された。それは確かに悲惨な未来像ではあったが、そこに生まれた子供達はどうなる。結局未来は収束して、生まれるはずだった命は何処かで生を受けるとしても、だ。のび太が貧乏生活の中でも味わえたはずであろう、小さな幸せの記憶はどうなる。
 だが小学生であるのび太に、「未来」という圧力に抗う術は、ほとんど無い。結局は秘密道具の力に頼って、孤島生活を思い出すくらいしか。やがて石ころ帽子を脱いで半ズボンのポケットに押し込み、家路に着く。あちこちぶつけて青アザが出来ている。スネ夫に借りた漫画を返しに行くのを忘れていた。のび太が用事も済ませず石ころに成り果てていた間も、地球は回り、人々は前に進み続けている。スネ夫はきっと新しい漫画を買っている。ジャイアンは次の届け先へと向かっている。

 家に着くと、アイドル好きのドラえもんが、激しいメタルチューンに合わせてヘッドバンギングを繰り返していた。
「お帰り、のび太君。遅かったじゃないか」
 歌が始まって、BABYMETALの「ギミチョコ‼」だと気が付く。作曲者は元THE MAD CAPUSURE MARKETSのメンバーだ。音楽の趣味が少し近付いてきたのかな、とのび太は思う。
「空き地の土管の上で寝ていたら、落ちちゃって」
 下手な言い訳など、ドラえもんはとっくに見抜いているだろう。人を監視する道具など幾らでもあるのだ。のび太がこっそりくすねている秘密道具の種類も把握済みだろう。
「まったく君はドジだなあ」
 宿題しろだの、おやつを食べようだのと、余計な事は言わず、ドラえもんはヘッドバンギングに戻る。頭が大きすぎて、バランスを崩して転がってしまい、壁にぶち当たる。轟音が家中に響き渡る。しかしのび太の母親、玉子はJudas Priestを爆音で聴きながら晩御飯を作っている為に、二階の異変には気付かない。

「ドラえもんだって、ドジじゃないか」
 気絶しているドラえもんを放置してのび太は勉強机に向かう。宿題をする為ではない。クリス・コーネルのようには書けなくとも、孤島での十年間を題材にした歌の歌詞を、のび太は書こうとする。
 しかし石ころになっていた時の疲れが出たのか、一文字も書けないまま、のび太は眠ってしまう。いつの間にか起き上がっていたドラえもんが、部屋に流していた曲を「ギミチョコ‼」から「Like a Stone」に切り替えた。

(了)

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