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特別編「メタリカン・ワールド」

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第一話「One」


 銃撃戦の音とヘリの爆音でいつものように朝が始まる。目覚まし代わりの「One」のイントロに促され、黒冊(ブラック・アルバム)家の主、五郎は目を覚ます。同時に、車のガソリンとバッテリーが同時に切れていた事を思い出した。
「Sad but True……(悲しいけど、これ真実なのよね)」と、呟きながら、寝癖を直さずに愛車の元へ赴き、古いMP3プレイヤーをスピーカーに繋げた。「Battery」と「Fuel」をリピート再生させておく。これで一日分は走れる。といった事を何日も続けている。給料日までこれで騙し騙し行こう。給料日までまだ二十日あるけれど。

 娘のココを起こして朝の準備を始めさせる。テレビを付けるとヒーロー番組「Enter Sandman」の再放送をやっていた。テレビを見て着替える手が止まっているココを促して、五郎は歯を磨く。主人公のサンドマンが砂漠を走り続けている。スティール・ボール・ランというレースに参加する為らしい。真夜中の砂漠の夜空にオリオン座が輝き、インストゥルメンタル曲「Orion」が流れる。

 この世界で音楽はMetallicaの曲しか存在しない。人々はそれが当たり前の事だと思っていた。音楽室の壁に並ぶ偉人の肖像画はどれもMetallicaのメンバーの物で、まだ小学二年生のココも「Fade to Black」のイントロのアルペジオを弾きこなしている。けれどココの胸に別の音楽が響く事があった。聴いた事のない曲のリフを刻んでいる事があった。「ココのオリジナルかい?」と父の五郎が聞いてくるとココは首を振った。その音が、そのリフが、その響きが、別の世界で鳴り響く、Megadethというバンドの曲だと、ココはまだ知らない。

 これは、メタリカの曲に支配された世界で、メガデスの曲が胸の内に鳴り響く少女と、アンスラックスの曲を体内に巡らせる少年と、スレイヤーの曲を弾き語るスキンヘッドでヒゲ面の中年男が出会うまでの物語。

(続かない)

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