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「POWER」HALLOWEEN

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動画はこちら
https://youtu.be/pPs3oBk36Ng



 ジャーマン・メタルバンド、HALLOWEENを一年ぶりに聴く。どこの商店街でもHALLOWEENの曲ばかりがかかっている。街を歩く人達の数は少なく、ハロウィンの時期だからといって仮装している連中もいない。ただ、音楽だけが例年のごとくHALLOWEEN一色に染め上げられる。まだまだメタルは元気だよ、と。

 私は「POWER」ばかり繰り返し聴く。今週号のジャンプ「チェンソーマン」では、魔人パワーが復活して主人公を助け、その後すぐに裏切っている。

「力」について考えてみる。私が中学生の頃、「パワーシフト」という思想書がベストセラーになり、兄が購入したのを読んだ。おぼろげに覚えているのは、「人を動かす力は移ろってきた。原始的な暴力、金銭の授与、そして知恵」といった事だったと思う。納得しながら、当時の部活の先輩やらクラスメイトやらに当てはめていった。まだまだ暴力が日常的な時代だった。その後私はどんな力を手に入れたのか。何の力が今役立っているのか。そういった事を記して、ベストセラーを狙おうと思う。

「持久力」
 私は元々長距離走が得意で、小学校六年生の運動会で一等を取った事もある。人数が多いために、体育の授業で測ったタイムの内から「速いグループ」「普通グループ」「遅めのグループ」で分かれた「普通グループ」での一位だったが。その後も部活で延々ランニングをしても、長距離走自体を苦痛に思う事はなかった。
 社会に出れば持久力を要求される場面は多い。理不尽な仕事量、定時で終わるはずのない現場、日勤と夜勤を行ったり来たり。どれも今では懐かしい話ではあるが、スタミナで乗り切れた面も多かった。
 基本は「疲れ切る前に回復手段を用いる事」へとへとになってから栄養補給した所で、回復力も落ちている。レッドブルの乱用は肝臓に悪いので、健康診断で引っかかったら止める事。
 瞬間的な爆発力は、その場を切り抜ける役には立っても、怪我・事故の危険も伴うし、相対的に見れば一時的なスピードアップで稼いだ仕事量より、電池切れを起こさないペースで続けて行った場合の仕事量の方が多い時もある。無理をして壊れてしまえば、その後何も出来なくなってしまう。

「スルー力」
 するーりょく、と読んで欲しい。上司やらうるさ方の説教をスルー出来る力の事である。怒られている最中に、怒られている事自体をスルー出来るようになれば一人前である。叱責の最中に「そんな事より」といった態度で別の話をすると、何故かより一層怒られるので気を付けるように。会議中に「やる気がないなら出て行け」と言われたのでその通りに出て行くと、残された人達からの苦情がすごいが、あまり気にしないように。

「タイピング速度」
 力じゃなくなった。
 あらゆるパソコン業務やら連絡事項記入やらで、意外と文章を打つ機会がある。慣れない人が打てば五分かかる作業も、タイピング速度が速ければ十秒で済む時がある。その積み重ねで、出来る事の幅が増えていく。

「文章力」
 上と被る。研修レポートやら、重要な報告書やら、なんやかんやのメールやら。現場だろうがデスクワークだろうが、どこでも文章を書く機会がある。よその工場の研修レポートをその日の内に小説風に書いたら、二度と出張機会が回って来なくなった。どうしてだろう。報告書の第一稿は決まって「余計な事を書きすぎるな」と駄目出しされる。仕事に関係のない文章を同僚に依頼されて、休日にまで書く。同僚の私のコレクションフォルダが潤っていく(私のコラ画像集を含む)。
 よく言われるのが「ここどういう風に書いたらいいか分からない」とか「書く内容は決まってるんだけど泥さんのように文章に出来ない」など。
「どうしたら文章が書けるようになりますか」と聞かれた際には、素直に私のしてきた事を答えている。
「図書館で借りて読んだ本の、気に入った文章を、返すまでに全部書き写す。十年続ける」

「適応力」
 どんな職種であれ、永遠に同じ仕事内容という事はない。時代の変化、機械化、働き方改革などで、様変わりした業務も多いだろう。一つの部署に居続けるという事もないだろう。やる事が変わろうが人間関係がどうであろうが、新しい所に適応していかなければ、自分の首を絞める事になる。


 逆に重視しなくていい力達。

「演奏力」
 イングヴェイ・マルムスティーンの速弾きを完コピ出来ても、社会で役立つ機会はあまりない。有名曲のリフをいくつか弾けるか、簡単な名曲の弾き語りが出来るだけでオーケー。ちなみに披露する機会は、無い。

「歌唱力」
 仕事中に、状況に合わせた曲やら最近のお気に入りの曲を歌う時は、殴られないよう気を付けよう。ハイロウズ「即死」が頭の中でリピートし始めたら、全力でその場から逃げ出そう。

「メタル系の話」
 大抵の場合オールスルーされるか、話の分かる人間がいても、好みの食い違いによってはスルーされるより面倒な事になるから注意。



 HALLOWEENの曲が響き渡る地元の商店街を歩いていると、カレー屋の店先で持ち帰りのナンとカレーのセットを売っている、インド人の男性に声をかけられた。
「今日は何買う?」以前一度買っただけだが。
「キーマ」
「ちょっと待って。後五分で出来上がる」
「待つならそこに並んでる他のでいいよ」
 すると彼は声を潜めて「もう冷めてるから。出来たてのが一番美味しいよ」と言うのだ。
 そりゃそうだろうが、その冷めてるのはどう売りさばくつもりだ。
「下のカレー用の食器、千円だけどいる?」
「いらん」
 少し待つ間、二人で「POWER」の合唱部分を歌った。道行く人々に奇異の目で見られたが、スルーした。

 帰ってから食べた出来たてのキーマカレー、焼き立てのナンは、確かにとても美味かった。

(了)
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