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「Gypsy」Lady Gaga

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動画はこちら
https://youtu.be/C50cBdkaSB0



 昔昔ある所に、おじいさんと、おばあさんと、レディー・ガガが住んでいました。
 おじいさんは山へ芝刈りに。
 おばあさんは川へ洗濯に。
 すると川上から大きなレディー・ガガがどんぶらこどんぶらこと流れてきました。
 おばあさんは驚いて腰を抜かしてしまい、川上から流れてきたレディー・ガガがおばあさんを背負って家まで連れ帰りました。
 先に家に帰っていたおじいさんと、ご飯の用意をしていたレディー・ガガは、おばあさんを背負って来てくれたレディー・ガガの大きさに大変驚きましたが、その後仲良く四人で暮らしました。
 そうして数年が経ち、レディー・ガガは今では大変立派なレディー・ガガに成長しました。その頃、おじいさんとおばあさんとレディー・ガガとレディー・ガガの住む村は、暴れん坊の鬼達に幾度も襲われ、大変困難な状況に陥っておりました。
 レディー・ガガは言いました。
「おじいさん、おばあさん、レディー・ガガ、私は鬼退治に行ってまいります」
 おじいさんはレディー・ガガに一振りの刀を。おばあさんはお手製のきびだんごを。レディー・ガガは四枚のプラチナ・ディスクをそれぞれレディー・ガガに手渡しました。
「それでは行ってまいります」
 レディー・ガガは別れの挨拶だけを言葉にして、「絶対に無事に帰ってきます」とは言いませんでした。自分が二度と戻って来れなかったとしても、自分が割り込む前の、平穏な三人の生活に戻るだけだ、そうレディー・ガガは信じていました。彼女の決意を薄々感じていた残された三人が、レディー・ガガの姿が見えなくなった瞬間に泣き崩れた事を、レディー・ガガはその後一生知る事はありませんでした。

 旅に出て間もなく、レディー・ガガは派手なバイクに乗って疾走するレディー・ガガに出会いました。
「そのプラチナ・ディスクをよこしな」とレディー・ガガは言いました。
「ただではやれません。一緒に鬼退治に行くと言うのなら、プラチナ・ディスクときびだんごをあげましょう」
「断ると言ったなら?」
「刀を振るいましょう。一人の強盗に向けて」
 ライダー・レディー・ガガが鬼退治の仲間に加わりました。
 次に出会ったのはストリッパー姿のレディー・ガガでありました。
「そのプラチナ・ディスクをくれたなら、この肌を覆い隠せるのに」とストリッパー姿のレディー・ガガは言いました。
「私はそのままの姿のあなたが好きよ」とレディー・ガガは言いました。
 二人は抱き合い、仲間が一人増えました。
 最後に空を飛ぶ火の鳥の姿をしたレディー・ガガが空から降り立ちました。
「この炎がかき消えぬ事には死ぬ事も、誰かを愛する事も出来ない」と火の鳥レディー・ガガは嘆きました。
「炎を消す必要はない」とレディー・ガガは言いました。
「燃え盛るのがあなただ。炎に耐えられる相手しか愛せないのがあなただ。溢れ出る物を止めるな。私はそのままのあなたを連れて行こう。共に地獄に付き合ってくれ」
 火の鳥レディー・ガガを加えたレディー・ガガ一行は鬼ヶ島に辿り着き、有象無象の鬼達を蹴散らして島の奥へと突き進みました。
 しかし鬼の親玉はあまりに巨大で、レディー・ガガの太刀も、レディー・ガガのバイク特攻も、レディー・ガガの蠱惑的な踊りも、レディー・ガガの炎の息吹も通用しませんでした。
 このままでは全滅してしまう。
 また鬼達の手が故郷の育ての親達に及んでしまう。
 そこでレディー・ガガは一計を案じました。
 レディー・ガガそれぞれ単体ではなく、レディー・ガガ全員が融合して一人の強力なレディー・ガガを誕生させ、鬼の親玉に立ち向かうのです。
 レディー・ガガとレディー・ガガとレディー(略)は魂を一つにして、たった一人のレディー・ガガとなりました。おじいさんとおばあさんと暮らしていたレディー・ガガも魂を飛ばし、その後おじいさんとおばあさんは末永く二人で暮らしました。

 融合後のレディー・ガガは涙を流しました。
 先程まで共に死線をくぐり抜けてきたレディー・ガガ達はもう周囲にはいません。それどころか、鬼の親玉の姿さえありませんでした。
 そう、鬼もまた、悪を為していたレディー・ガガだったのです。
 レディー・ガガは闘争心も勇気も自己顕示欲も凶暴性も一つの体に抑え切れず、魂がはち切れてしまいそうでした。何かを吐き出してしまわなければとても耐えられない。だけどもう誰も傷付けたくはない。
 その瞬間、レディー・ガガの口から歌が溢れ出しました。

 その後、レディー・ガガは歌いながら世界を放浪し、その全てを故郷としました。彼女の歌は多くの人々により歌い継がれました。幼い者は彼女の歌で言葉を学び、苦しんでいる者は彼女の歌に慰められ、打ちひしがれている者は彼女の歌で勇気を得ました。
 放浪の果てにレディー・ガガはアメリカの大地に降り立ちます。そこで多くのミュージシャンの影響(特にマドンナ)を受け、彼女の歌とファッションと思想は、口頭による自然伝播だけでなく、メディアに乗せて世界に広がる事になったのでした。

 テレビもラジオもネットもないとある山奥の村に、おじいさんとおばあさんは住んでおりました。村は鬼に襲われる事も無くなり、平穏な日々が末永く続いておりました。ある日おじいさんは、村の子供が歌を歌っているのを聞きました。
「素敵な曲だね。どこで覚えたんだい」とおじいさんは子供に訊ねました。
「旅の人が歌っていたんだ。その人も別の旅人に教わったんだって。その人もまた別の人に」
 その歌がレディー・ガガの曲だという事を、おじいさんは知る事はありませんでした。何度も聴いて覚えておじいさんはおばあさんの待つ家に持ち帰りました。
 その歌をおばあさんも大層気に入り、二人の住む家からは毎日歌声が聞こえるようになりました。
 おしまい。

(了)
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