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【前編】

 ホイップ=ルーデントという人物をどう説明したらよいのだか…。
 彼女はデブでガサツでいい加減で、細かい事は気にしない、私と同じエルフ族でありながら、一般的なエルフ族のイメージとは全く異なる女性であった。普通、エルフという物は私の様に可愛く、すらっとしていて、神秘的なものだ。だが、前述のとおり、ホイップにはそんな特徴は一切ない。

 デブフという別の種族なのかもしれない。(上手い!!座布団一枚!!)

 ホイップの事をここまでひどく言うのは、私が彼女の事を嫌っているわけではない、ただ、ホイップはおおらかな女性なのでこんな事を言われても気にしないから、つい、遠慮せずに書いてしまうだけなのだ。

 もちろん、私が友達を悪く言うような性格クズというわけでも断じてない。私は町では面倒見がいい女の子として、人気者で通っている、多分。ちょっと前も迷子の世話とかしたし…。

 私の事はどうでもいいか…。 

 この物語は途中までは、ホイップから酒の席で聞いたものであるから、若干嘘や、私の主観も入るかもしれない。だがまぁ、おおむね事実に即した内容だ。そして後半からは私が自分で見聞きした内容になる。

 というわけで、後半はデブフではない、可愛いエルフである私もでてくるので是非最後まで読んでほしい。

 まず、ホイップは野原を歩いていた、野原でないかもしれない、山道かもしれない、街中だったかもしれない、歩いてなかったかもしれない。眠っていたかもしれない、もしかしたら野グソをしていたかもしれない。街中で野グソをしていたかもしれない。

 格好は…まあ知らないが、いつもの格好だろう、いつものグレイのダサいタンクトップに緑の半ズボン、丈夫なだけが取り柄の、叔母さんくらいしかしない、ダサい長手袋、(一見すると臭そうだが、実は以外にもホイップは清潔好きで、石鹸のにおいがする)

 使い古したリュックには、私は見たことは無いのでわからないが、多分ガラクタが入ってる、そこら辺の綺麗な石とか、瓶のフタでも入ってるんじゃないかな?

 ショートカットにアンパンの様な顔が付いており、大福の様な胴体が付いている、といっても、ただのデブではない、脂肪もかなり多いが、かなりの筋肉質でちょっと武術を習っている人間なら、ホイップが並みのデブではない事がわかる。
 頬っぺたには、よくハチミツがついている、ホイップはハチミツが大好物なのだが、食べ方が汚いので、口の周りに食べ残しのハチミツが固まってついていることが多い、
「こうすると、いつでもハチミツが舐められるのでごんす、おいどんの発明でごわす」
 だから、今回もおそらく、べったりついていたんじゃないだろうか?

 とにかく、ホイップは街中か、野原か、山道で野グソをしていた。そして、悲鳴を聞いた。

「きゃー、助けてー」
「な、なんでごんすか、これは大変でごわす、いくでごわす」

 ホイップは悲鳴をした方にかけていった。たぶんお尻はふいたとおもう。
 そして…まあテンプレではあるが…小さな人間の村が襲われているのを見た。人間の村を襲っていたのはオークという人間より一回り大きな種族で、人間たちはなすすべなく食料を奪われ、あるものは殴られ気絶し、あるものは捕まっていた。

 オークの盗賊どもをのボスはナキシ=オークトーン、ナノコ=オークトーンという二人のオーク姉妹で、主に姉のナキシがオークの盗賊共を指揮し、妹のナノコはいかにも姉の太鼓持ちという感じであった。二人ともよく見ればそこそこ美人ではあるが、私ほどではない。

「ぐふふ…イケメンだぁ、あと、食料もよこせぇー!!」
「よ!!私の姉ちゃんは世界一!!!」

 ナキシ=オークトーンという名を聞いた事もある人もいると思うが、この人はいま、甲皇国、ミシュガルド兵団の部隊長をしている結構偉くて有名な人だ。でも、この時はグレてたんだかなんだか知らないけど、まあろくでもないクズだった。妹のナノコ=オークトーンについては知らん、出世できなくて今は雑用でもしてるのかな?

「や、やめるでごわす」

 ホイップは次々にオークの軍団を倒していった。つっぱり、上手投げ、下手投げ、小手投げ、すくい投げ、猫騙し…。とにかくばっさ。ばっさと倒していった。

「ほう、やるじゃあねえか、何もんだオメェー、どの村のオークだ?」
「テメェ!!私の姉ちゃんが誰だかわかってんのか?あの天下の虐殺王と恐れられた、ナキシ=オークトーンだぞぉ!!強いんだぞう!!どうだ参ったか!!」
「あの、ごめん、ナノコちゃん、ちょっと黙ってて、虐殺王なんて呼ばれてないし…あんまり誇張されると、ちょっと困る」
「ご…ごめん姉ちゃん」

 三人は向かい合った、ホイップは堂々と胸を張り、ナキシは並みの男だったらブルってしまう様な眼力でホイップをにらみつけた。ナノコはナキシの背中に隠れて、隙間からそっとホイップをみて「ば~か、ばーか、お前なんか怖くないぞ~」と小声で言った。

「おいどんはオークじゃないでごわす、エルフでごわす。村を襲うのはやめるでごわす」
「ふん!!バカ言っちゃあいけねえ、私らはこいつら人間から土地を取り返しているのさ、こっちが正しいんだ!!関係ねぇ奴は引っ込んでいな」
「むむ!!それはどういう意味でごわすか?」

「それは…、私からお話ししましょう」
 オークに襲われ、ボロボロになった人間の一人が立ち上がって言った。

「無事でよかったでごわす、あんた、お名前は?」
「すいません、名前はないのです、登録所に都合のいいキャラがいればよかったんですが…」
「登録所?なんの話でごんすか?」
「いえ…こっちの話です、仮に、私の名前は、ムラビートとしておきましょう」

 ムラビートの話をかいつまんで話すとこういう事になる。ここはかつてオークの地であったのだが、作物も育たず枯れた土地であったので、オークたちは別の土地に移住してしまった。といっても、完全な移住をしたわけではなく、彼らの中では一年の何日かを過ごす別宅という扱いという事で建物はそのままに残していた。それを知らぬ人間が移住し、建物をそのまま使うようになった。結果オークたちは土地を奪われた形になったが、新しく住んだ土地が居心地がよかったことと、その時のオークの酋長が比較人間に友好的だったため、そのまま黙認する形になった。
 それから百年の時が過ぎた…、その間に枯れた土地は人間に開拓され、作物もなるようになった。それを見て、今の酋長の娘であるナキシが。今になって取り返そうとたくらんだのだ。さらに恐ろしい事に、土地そのものはもちろん、その土地でできたもの、作物やその土地で生まれた人間さえも自分たちオークの物であると主張してきたのだ。

「そんな!!納得いかないでごわす、だったらちゃんとオークの酋長と相談するべきでごわす」
「それが…ダメなのです」ムラビートは力なく答えた…。
「オークの酋長は謎に包まれている…というか…うましゃく先生が考えてくれてないので下手に出すわけにはいかないのです」
「さっきからなんの話をしているのでごわすか?」

 優勢と見えて、姉のナキシはニヤニヤ笑った。妹のナノコも調子に乗って姉の後ろから出てきた。
「どうやら、私達の主張が正当な物であることがわかって貰えたようだね、関係ない奴はとっとと失せな、私達は今からここの人間共をとっ捕まえて、男は性奴隷に、女は食肉加工にするつもりなんだから」
「そーだそーだ!!どうだ!!お姉ちゃんは天下一!!!」

「ムムム、だったら…」ホイップはにやりと笑った。
「なんだぁ?まだなんかあるのか?」
「お、お前なんかこわくないぞ」ナノコはナキシの後ろに引っ込んだ。
「相撲で白黒つけるでごわす」
「相撲…だと…」

 この小説の舞台になっている世界…ミシュガルド…、多くの小説が出版されており、ミシュガルドの世界を知っている人々には言うまでもない常識ではあるが。ミシュガルドで相撲は超人気格闘技であり、さらに相撲は神聖な儀式として崇拝されている。

【ミシュガルドの常識】あらゆる争いは相撲で決着をつける事ができ。その結果は絶対である。

 もちろん、ナキシが相撲の申し出を断る事もできる。だが、エルフのホイップに怖気づいて断ったと思われてなんて、ナキシのプライドが許さない。
 それに…ナキシも相当の相撲好きである…血が騒いでしまう、いや…ミシュガルドに相撲が嫌いなものなどいない。人間、異種族問わず、相撲は大人気だ。

【ミシュガルドの常識】ミシュガルドでは相撲は大人気!!!!

「いいだろう、テメェと相撲をとってやる、だがなぁ、私とやるからには四股名ぐらいあるんだろうなぁ、ちなみに私の四股名は爆王(ばくおう)だ」
「当然、あるでごわす、おいどんの四股名は麻青龍(まさしょうりゅう)」
 こうして、二人のエルフとオークは睨みあった…いや…そこにいるのは二人の力士であった。

【後編】

 大都会のそれなりに良い建物、まあ賃貸ではあるが、賃貸の方ではまずまずの一室、そこで一人のエルフの美少女が眠っていた。もちろん、いうまでもない、私の事だ。部屋は当然片付いていて、女の子らしい、女子力の高い小物なんかも置いてある。生活に余裕があるのはわかるが、成金趣味ではない。そんなセンスのいい部屋。まあ私だから当然ね。

 小鳥のさえずりが聞こえる、もう朝か、いい天気。その日も最高の一日が始まるはずだった。起きて鏡の前で身支度を整える。鏡には当然美少女が映っている。

 エルフは基本的に美男美女が多いといわれているが、その中でも私はかなりランクが高い方だと思う。ちょっと焼けて褐色ぎみの肌を「エルフらしくない、エルフの神聖さが薄れる」なんて馬鹿にする奴もいるけど、そんなのは古い価値観だと思う。

 髪をとかし、髪紐でツインテールを作る、これが私のチャームポイント、街をあるけば誰もが振り返る美少女の出来上がり。

 私の事を貧乳ってバカにするひともいるけど、そんな事はないと思う、最近は少しづつ大きくなってるし…むしろ、見方によってはあるほうだし…いや…。見方によっては…考え方次第では…巨乳と言えなくもないのでは…。

「たいへん!!!!たいへん!!!!」

 けたたましい音と共に部屋の扉が開かれ、一人の見知った少女が入ってきた。かなり焦っていて、走ってきたようで。息も絶え絶えになっている。彼女はトレジャーハンターのショーコ、私の友人であり、仕事仲間でもある。

「どうしたの、ショーコ、そんなに慌てて」
 私はショーコに駆け寄った。

「電報でーす」

「実は…トレジャーハント仲間のメン=ボゥがローパーに捕まってしまって…このままじゃ…メン=ボゥが…」
 ショーコの目は涙目になっている。

「電報でーす」

 ローパー…それは恐ろしい触手の化物であり、なによりも恐ろしいのが人間やエルフの女性の胎内にその卵を植え付け、孕ませるエロモンスターなのだ。

「このままじゃ…メン=ボゥが…お嫁にいけなくなっちゃう、助けて」
「なんですって、わかったわ、私がローパーをやっつけてあげる」
 仲間のピンチ、ここは私が助けてあげなくちゃ、大丈夫。私はかなり強い。

「電報でーす」

「あ、でもその前に、電報受け取っちゃうね、郵便屋さんさっきから待たせて悪いし」
 私はすぐに外に出て、郵便屋さんから封筒を受け取った。そして、中身を見た。


【把留都(ばると)殿 この度、オークの爆王(ばくおう)殿と相撲をとる事になったので、あんたに行司をしてほしいでごわす。    麻青龍(まさしょうりゅう)】


「ごめん、ショーコ、私…メン=ボゥを助けにいけなくなった」
「え?なんで…」
「行司の依頼が来た」
 ミシュガルドにおいて、相撲の審判である行司を依頼された場合、それを最優先にしなければならない。

【ミシュガルドの常識】行司はローパーより優先される。

「そっか…大丈夫、だったらしょうがないね、メン=ボゥもわかってくれるよ」
 ショーコは笑った。
「うん、行ってくる」
 こうして、私はホイップのところに向かう事にした。きっとメン=ボゥはローパーの子を孕ませられるだろう、だがしょうがない、行司より大事な事なんてありはしないのだ。
私は神棚の中にしまってある行司の衣装を取り出すと、すぐさまそれに着替えた。普段は露出の高い水着みたいな恰好をしてるものだから、久しぶりにちゃんとした服を着たような気がする。おっと、鳥帽子と軍配団扇も忘れないようにしないと。

 私は馬にまたがり、ホイップのところに向かった。

「く…戦争は終わったはずじゃなかったの?」
 70年続いた、アルフヘイムと甲皇国の戦争、それは3年前に集結した。だが、その火種は消えていない、両国の国境では、くだらないドンパチが今も繰り広げられている。私の目の前には、人間と亜人の醜い争いが、いままさにおこっていた。
 戦争のど真ん中を通るなんて、命がいくつあっても足りない、だが、いまは行司をするために遠回りをするわけにはいかない。

「つっきるか…」
 私は戦火の中に突っ込んでいった。大丈夫、私が行司だと気が付いてもらえれば…。

 幸運にも、私の読み通りに事は進んだ。アルフヘイム、甲皇国の二つの国の司令官が私の存在に気が付いてくれたのだ。
「行司が通るぞ!!!!」
「いったん、戦争をやめるぞ!!!軍をひけ」
 こうして、二つの国の戦争はぴったりと止まり、私はモーセのように二つに割れた両軍の間をつっきった。しかし…そこにあったのは大量の両軍の死体…。
「まいったな、いまから行司をやるのに…穢れを入れては…遠回りするべきだっただろうか…」
 私はできるだけ死体を踏まないように進んだ。それにしても、戦争というのは愚かだ…なんだろうあの鉄の車は…私の時には無かった。ああでも、小説で読んだ事はあったな…なんて言ったかなあの小説は…。

「ああそうだ、【大量殺戮の完成】だ、思い出した」
 私は戦地を通り抜けた。そして、しばらくして、また兵士たちの怒号が響き渡った。

「もっと長く、あそこにとどまっていればよかったかな?そうすれば、戦争を一秒でもとめられたのかな…」

【ミシュガルドの常識】行司は戦争より優先される。

こうして、三日三晩馬を走らせ、ホイップの待つ村に到着した。そのころには馬もすっかり疲れ果てていた。

「ごめんね、あとでたんまり豚の脂肪を食べさせてあげるからね」
「グギグゲェー」
 馬は本当にかわいいなぁ、私は馬の頭のウロコをなでてあげた。

 村の広場では、オークと人間が和気あいあいと土俵をつくっていた。どんなにいがみ合っている種族同士でも、土俵をつくっている時は仲良くなる。なぜなら全ての種族が相撲に敬意を払っているからである。

【ミシュガルドの常識】土俵を作るときは皆仲良く。

「わざわざ来てくれてありがとうでごわす把留都(ばると)殿、あいかわらず行司姿が似合ってるでごわす」
「あらホイップ、久しぶりね、あなたもまわしがよく似合ってるわ、でも、トップレスなのはどうなの?」
「おいどんの乳首は、見せていい乳首でごわす」
 見せていい乳首ってなんだ?
「駄目よ、大昔ならともかく、今は女力士はニップレスをつける時代よ、私のをつけなさい」
「おお、ありがとうごわす」
 私は普段水着みたいな服を着ているため、常にニップレスをつけていた。だが今は行司の姿なのでニップレスはいらない。私は自分の胸からニップレスをはがすと、ホイップにつけてあげた。ニップレスは星型で、【ラルクアンシエル】と書かれていた。意味はない。

「くっくっく、あんたが今回の行司の把留都(ばると)さんかい、まさかこんな小娘がくるとはねぇ…」
 私の目の前に、ナキシ、ナノコのオーク姉妹が現れた、ナキシもすでにまわし姿で、月形のニップレスをつけていた、ニップレスには【ネオユニヴァース】と書かれていた。時系列上、私はこの時はじめてナキシ…もとい爆王のすがたを見た訳だが、なるほど、これはかなりの名勝負になりそうだ。今まで行司として、多くの試合を見てきたが、これほどの力士はそうそういないだろう。
「お姉ちゃんは私の普段使いのニップレスをつけているんだ、負けるもんか」
「おお、ナノコちゃんのニップレスは最高だ、お姉ちゃん絶対勝つからな」

 会場は既に満員になっていた。観客席にすわるオークと村人たちは、この世紀の相撲の試合を楽しみに待っていた。

 この勝負で、もし麻青龍が勝てば、村人はこれまでの生活を維持できるが。もし爆王が勝てば村人たちはオークの奴隷になってしまう。だが、そんなことはすっかり忘れ、相撲の熱気に溺れていた。これこそが相撲の魔力である。明日の運命より、目の前の相撲なのだ。

「あれ?」
 私は観客の中に、三日前に見た顔を思い出した。確か…あれは…両軍の戦争の司令官…戦争ほっぽりだして見に来たのか。よく見たら、ボロボロの兵士が何人も見える。そうか…。

【ミシュガルドの常識】相撲の名勝負は戦争をほっぽりだしても見に行く価値がある。

「いい試合にしないとね」

「西―爆王」
「東―麻青龍」
「はっけよーい」
「のこった」

 観客のあふれんばかりの歓声と共に、二人の力士はぶつかった、まずは両者ともにつっぱりの応酬が続く、共にまわしをとりに行けない。バチンバチンと激しい音が鳴り、そして、両者の【ラルクアンシエル】【ネオユニヴァース】が両者の汗と共に飛び散る。

ホイップの乳首があらわになった、だがナキシの乳首はあらわにはならない。なぜかナキシの乳首付近を薄い靄がおおい、しっかりと見えない。ミシュガルドではこういう事がよく起きる。そういうもんである。そういうものであるとしかいいようがない。
「ナキシ=オークトーンはエログロ厳禁」←これは神の声である。

つっぱりを潜り抜け、先にまわしをつかんだのはホイップの方だった。そのまま上手投げの姿勢に入る。

「アホォ、かかったな」
 ホイップが持ち上げた瞬間、それに合わせてナキシもジャンプする、体勢を崩し、投げは不発、ナキシはそのまま着地、体勢を崩したままのホイップにナキシが張り手をかます。

ドゴォン…。鈍い音が会場全体に響き渡る。それは張り手というよりは掌底にちかい、一発の張り手にナキシの全体重を乗せたものであった。それが、ホイップの右肩に突き刺さった。

「右肩を壊されたら、もう何もできまい!!このまま土俵際まで追いつめてやるぜぇ!!」

 ホイップの右肩は真っ赤に腫れあがった。そして、じりじりと押されていく…。このままでは…、ホイップは負ける…、それは誰の目にも間違いないことであった。ただ一人、私を除いては…。

 私は知っていた…ホイップ…麻青龍は、相撲では、どんなときでもあきらめない。あきらめる事をしらない。だって、相撲がだれよりも好きだから…。

「燃えるでごわすなぁ…この…土俵際のぎりぎりの…いいでごわすなぁ」
「オメェがいい力士だってのは認める。だけど、勝負あったなぁ」

 そのとき、私は見過ごさなかった。ホイップの、ボロボロになった右腕がナキシのまわしをつかんだ。
 ナキシは両腕でホイップのまわしを握り、土俵の外に投げた、と…同時にホイップは自身の右腕を左腕でつかんだ、そして、両手の力を…いや…渾身の力を、まわしをつかんでいる右腕に込めた。

 両者ともに、土俵の外に落ちた。ただし、ホイップはナキシの上に落ちていた。

 オークも…人間も…軍人も…兵隊も…村人も…すべての観客が二人にあふれんばかりの歓声を贈った。
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