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第二話

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〇自宅リビング
 テレビにバラエティ番組が映し出されている。コンビが出ている。
テレビの眼鏡の男「なんやねん、あほか」(相方をつっこむ)
テレビののっぽの男「そんなんちゃいますねん」(少し寂し気に相方を見やる)
テレビ観客「どわははは」

 かなでは父と一緒にテレビを見ている。かなでは父から離れて部屋の隅に座っている。
 父は屁をこく。そして、ポテチをほおばる。ポテチの粉がばらばらと床にこぼれる。そこにゴキブリがたかる。

 薄汚れたかなでのアップ。ハエがたかっている。
 父、後ろを振り返り鼻をひくひくさせる。

 父「おい、お前風呂入ったのいつだ?」
 かなで「え?」
 かなで不思議そうな顔をする。自信なさげに
 かなで「一か月前です」
 父「何?」

 父、般若の形相。こめかみに血管が浮き出る。
 父「くせぇなッ、今すぐ風呂でその垢こすり落としてこい!」
 父、かなでにビールの空き缶を投げつける。かなでの頭に命中する。かなで痛そうに首をすくめ、眼を細める。
 かなで立ち上がる。
 かなでのナレーション「父の了承を得て初めてお風呂に入れるから、たいていいつもボクは臭い」
 
〇風呂場脱衣所
 かなで髪ゴムをとり、ストレートの髪を下ろし、服を脱ぎ、穴だらけのパンツ一枚になる。
 かなでのナレーション「下着なんて一年くらいかえてないや」

〇浴室
 裸のかなでがシャワーを浴びている。シャワーを止める。
 かなで、スポンジに小さな石鹸をこすりつけ泡立たせ、体をごしごしと洗う。
 かなで「久しぶりで気持ちいいな」
 安らかな表情のかなで

 父「おお、お前ももう大人だな」
 驚くかなで、ふりむく
 父が浴室の扉をあけて、にやにやしながらかなでを見ている。血走った目。鼻息荒く。
 かなで「何しているんですか」
 父「いい感じにおっぱいが膨らんでるじゃねぇか」
 かなで、羞恥に顔を赤くする。身の危険を感じ、あとじさる。
 父浴室に足を踏み入れる。父の靴下が浴室の床の水で湿る。
 父、いきなり、かなでの胸をわしづかむ。
 かなで「きゃっ」
 かなで「やめてよぉ、お父さァん」(こわい)泣きながら必死に訴える。
 ニヤニヤ笑って父はかなでを押し倒す。
 かなで「きゃあ」
 
 かなでのナレーション「こわい!」
 かなで父を振り切り浴室の外へ出る。服を持ってそのまま家の外へ出ていく。

〇外
 夕焼け空の住宅街
 かなでのナレーション「この日、初めてボクは家出した。正午のことだ。なぜだが、もう一生家には戻っちゃいけないような気がした」
 夕暮れの街を靴も履かず、ボロの服と、真っ黒な靴下でとぼとぼと歩くかなで。
 かなで「お父さんから離れてたったひとりで生きていくんだ。でもどうすりゃいいんだろう、これから……一人で生きていくってどうやればいいんだろう」

〇公園
 かなでのナレーション「二三日、ボクは公園の水だけで生活をした」
 公園の水飲み場で水を飲むかなで。そこへ雀が二羽舞い降りて、水飲み場にたまった水を飲む。
 かなで雀を見てほほ笑む。
 かなで「やっとなついてくれたね。ボクもお前らと同じ野良だ。遠慮することない。あはは、もっとお飲みよ。おいしいね、お水」
 雀嬉しそうに「ぴぃぴぃ」
 
 かなで、ベンチに腰かけている。腹が鳴る。
 雀はナメクジやミミズをとって食べている。
 かなで、ひもじい目で餌を食う雀を眺めている。
 かなで「うう……おなかすいたよ……。鳥のように虫を食べるわけにはいかないしなぁ」

 かなでの目の前のベンチに親子が座る。
 母親「さあ、たっちゃんお腹すいたろう。甘いパンだよ。お食べ」
 子供「うわあい」
 母と小さな子供が紙袋から出したメロンパンを食べている。
 かなで、ひもじそうに親子を眺める。瞳の中にほんの少し恨みをこめて。
 子供、パンくずをこぼしながら笑いながらパンを食べている。子供がこぼしたパン屑に雀やハトがむらがり、楽しそう。
 かなで「ボクより若いのにボクよりも苦労せずおいしいものが食べられるんだ」
 かなで「なぜボクは好きに物が食べられないのだろう。一度だってお腹いっぱい何かを食べたことがない。ここへきてもう本当にパンくずさえ食べられなくなった。家に戻れば食べかすくらいは食べさせてもらえる。でもそれが欲しいばかりにまた苦しい思いをするのは嫌だな」
 かなで公園んを出る。

〇スーパーマーケット
 お総菜売り場。おにぎりやお弁当がたくさん並べてある。
 かなで、あたりをきょろきょろと見渡す。挙動不審に、誰も見ていない。
 さっと、おにぎりに手を伸ばす。服の下に隠す。
 
〇スーパーマーケットの外
 建物の影。
 さっそく盗んできたおにぎりにかぶりつく。あまりの美味しさに慌ててむさぼりつくかなで。米粒を口の周りにくっつけて。

 かなでのナレーション「いつの間にかボクは盗みに味を占めていた。食べ物を買うお金がないのだ。もはや黙って盗ってくるしかボクにはできなかった」
 かなで「神様ごめんなさい。一日ひとつだけにしますから。ボクを裁かないでください。これがなくてはボクは死んでしまいます。それとも神様はボクの死をお望みでしょうか。ボクなんか死んだほうがいいのでしょうか。神様がボクに死ねと申してもボクは生きたい。生にしがみつくボクを裁くことなく見守っていてください。ボクはただ生きたいだけなんです。他のみんながそうしているように、ボクもみんなと同じように生き続けたいのです」

〇街中商店街
 商店街をふらふらと歩くかなで
 腹が鳴る。
 かなで「今日一日何も食べていないから、また盗りにいかないと」
 かなでのナレーション「こんなことしていいのだろうか。ボクはドロボーだ。お腹なんかすかなければいいのに。どうしてボクの肉体はボクの自尊心を奪い、落ちこぼれにしようとするんだ。いつもだ。ボクが立派だったことなんて一度もない」

〇スーパーマーケット
 総菜売り場から手巻きずしを盗むかなで
 汗だく焦燥ひやひや
 店の出口に向かって走るかなで
 誰かに腕をつかまれる。
 ぎょっとして振り向くかなで
 短い髪の女が、かなでの手をつかみ立っている。
 短い髪の女「ねえ、ちょっと。君昨日も居たよね」
 かなで怯えたように上目遣いに女をみやる。
 短い髪の女「その手に持っているのお金払った? 払ってないよね」きつく責めるように
 かなで「……払ってません」か細い声
 かなでの心の声「どうして嘘をつかないんだボクめ」
 短い髪の女「貴方、ドロボーさんだ」あざ笑うかのように
 かなでショックで青ざめる。唇が震える。恥ずかしさ、羞恥
 かなで心の声「怒られている。そうだ、許してもらわなきゃ、許してもらって早く逃げなきゃ」
 かなで「ごめんなさい……もうしませんから……」
 短い髪の女真っ黒い目をしている。

 短い髪の女「ちょっと口開けて」
 かなで、なぜだろうと思いながらも小さく口を開ける。
 いきなり口の中に腕を突っ込まれる。喉の奥に何かが落ちていく。ごくん。
 短い髪の女の手がかなでの口の中ら引き抜かれる。唾液でぬらぬらと光っている。

 短い髪の女「もうこんな事しちゃいけないよ」


〇公園
 雀が土をつついている。
 ベンチに座って空を流れる雲を眺めているかなで
 かなでナレーション「この五日、ボクは何も食べなくても平気だった。不思議とお腹がまったく減らないのだ。思えばあの短い髪の女の人に手を口の中に突っ込まれて何かを飲まされてから、妙に胃もたれがして今日まで食べ物を口にしなかった。ボクはいったい何を飲まされたのだろう」
 ぼんやりしているかなで
 目の前にサギに似た白い老いぼれの鳥が立っている。
 鳥が近づいてくる。
 鳥、かなでの直ぐ目の前までくる。
 鳥「ムスメ……」嘴を突き出すように喋る。
 鳥「その腹の中のものをワシに寄こせ」
 かなで「え? 鳥がしゃべった」
 鳥「ワシはただの鳥ではないのだ。いいからその腹の中のものを早く寄こさんか!」
 鳥が翼を広げて威嚇する。
 怯えるかなで
 かなで「腹の中と言われてもボク五日間何も食べていなくてですね……」
 鳥「嘘をつくなワシには見える」
 鳥「その腹の中に神の石が入っておるな」
 かなで「神……?」
 鳥が座っているかなでの足の上に飛び乗る。
 鳥の嘴がかなでの腹部に深々と突き刺さる。激痛
 かなで「うわあああああ」
 かなで鳥を振り落とし逃げる。

〇住宅街
 ふらふらと走るかなで
 かなで「痛い、痛い……助けて」
 腹部から血が流れている。血が走ってきた道に点々と落ちている。
 倒れるかなで
 男「大丈夫かい」
 男がかなでの肩に手を置く。
 意識を失うかなで

〇謎の男の家
 布団の中で目覚めるかなで
 目の前に見知らぬ眼鏡の男が立っている。髪型は銀髪セミロング。彼はにこやかに微笑んでいる。
 その笑顔はどこか薄ら寒い。
 男「お腹から血が出ていたから応急処置はしたよ。……痛いかい?」さわやかな高めの声である。気遣うような優しい声である。
 布団の下の自分は上半身裸であると気づくかなで。腹部には包帯がまかれている。
 かなでの心の声「上の服がない」
 かなで「あのボクの服……」
 男「服?」
 男「今はそんなもの必要ないでしょ」怒ったように
 かなで「ごめんなさい」
 かなで男の顔をみつめる。目が異様にぎらぎらしている。尚を見つめづつけるかなで
 なんでこのひとはこんなに目がぎらぎらしているんだろう。
 
 急に目の前が真っ暗になる。耳の裏から笑い声が聞こえてくる。
 謎の人「あははは」
 何かが見える。かなでと同い年くらいの少年。かなでを助けて手当てをしてくれた男も少年の傍に居る。
 少年の手にはトランプ
 少年「早く取ってよ、おじさん」
 男「わかったわかった」
 男「これにしようかな」
 トランプを少年の手から一枚とる男
 少年「トランプはもうやめだよ。漫画を読もう。おじさんこの本読んでもいい?」
 少年本棚から漫画を一冊とる。四つん這いで振り返り、
 男「いいよ」
 男、目を見開く。冷たい目。
 男「うわー、飽きたなァ」
 男「全然面白くないや」
 少年「ん、どうしたのおじさん。何て言ったの」
 男、いきなり少年に殴りかかる。
 少年「わっ、やめてよ、おじさん!」
 少年の顔ぼこぼこに腫れ上がる鼻と口からは血が出ている。目は腫れ過ぎてほとんど開かない。びくびく動いている
 少年「ひゃ…ん……ひゃ…ん」
 男「あはっははは」
 男は少年の体をのこぎりでばらばらに解体する。

 かなでの視界が元どうりになる。
 男がいる。
 男「何か飲むかい?」
 にこにこしている。
 かなで心の声「この人子供を……! 殺したんだ!」
 かなで「うわああああ」
 かなで布団から飛び出して窓に手をかける。窓を開ける。男に取り押さえられる。
 男「どうしたんだい、なぜ逃げようとするんだい?」
 かなで「うわああ」

 ゴキッ

 首の骨が折れた男が倒れている。薄目を開けている。死んでいるようだ。
 
 かなで「……死んだ」
 全身に鳥肌がたつ。
 かなで「なんで?」

 ゴミ箱の傍にかなでの服が落ちている。
 かなで「あ、ボクの服」
 かなで服を着る。

 かなでのナレーション「何が起こったんだろう。ボクにはわからない。でも、一つ言えるのは、死ぬべき人が勝手に死んだ。ボクは何もしていない。ボクは悪くない」
 かなで家の外に出る。マンションのようだ。マンションの廊下を歩き、エレベーターの下の階を押す。エレベーターが開く。
 一階を押す。
 エレベーターが動く。
 五階で止まる。
 犬を連れた太ったおばさんが入ってくる。
 犬は小刻みに震えている。何かに怯えたようにつぶらな瞳でかなでに訴えかけてくる。
 おばさんと目が合う。
 かなでの視界が真っ暗になる。
 耳の後ろで犬の鳴き声が聞こえる。
 映像がみえる。
 犬が玄関の扉をひっかきながら鳴いている。
 太ったおばさん「うるさい! 近所迷惑だろ!」
 犬を殴る太ったおばさん
 犬「ぎゃん」
 犬怯えたように尻尾をお尻にくっつけ、おばさんを恨めしそうに見上げる。

 元の視界になるかなで。
 かなでの心の声「このおばさん、犬を虐待してる……」
 かなでの心の声「ひどい!」

 ゴキッ

 太ったおばさん首の骨折れて倒れる。

 かなでの心の声「あ?」

 倒れたおばさんの手を犬がぺろぺろと健気に舐めている。
 かなでのナレーション「ボクはその時気付いた。ボクには何らかの力があって、その力のために人を殺せる」
 かなでのナレーション「気に食わない奴みんな殺せる」

〇マンションの外
 かなで「急に便意が」

〇公園の公衆トイレ
 和式便所でうんこする
 うんこの中に光る石が入っているのを見つける。
 かなで「なんだこの石」
 鳥に言われたこと、髪の短い女に何かを飲まされてずっと食欲がなかったことを思い出す。
 かなで「これは、神の石……?」
 かなで、トイレットペーパーで石をくるみとる。
 手洗い場で石を洗う。
 かなで「どうしようこれ。また飲もうか」
 口に近づける。
 かなで「うっ、くさい! おげぇ!」
 膝の裏を嘴でひざかっくんされる。
 石を取り落とすかなで。
 その石を鳥が嘴を開けてごくり。
 かなで「あっ」
 鳥は飛びさる。
 
〇パトカーの中
 警察「家出なんて馬鹿な事ダメだよ。お父さん一人で君を育てたんだろう。どれだけ大事な娘か。君を心配しているよ。さあ、着いたよ。お父さんに謝るんだよ。一緒に謝ってあげるから。できるね?」
 かなで「はい」
 かなでの心の声「神の石は無くなったけど、もしかしたら、ボクにはまだ力があるかもしれない。今度はお父さんを殺そう」


 おわり
 
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