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記憶に残る 記憶の脱落

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 フッと意識が宿り戻ると、まず時計を見る。
9時とか、2時だったりすると外の明るさ、暗さで午前か午後か区別できたし、ショックも少なくて済むが、5時代だったとき、朝の5時なのか、夕方の5時なのかが分からず、混乱し不安でたまらなくなったことがあった。
「パッと見てわからないからAM/PM表示じゃなくて24時間表示になるように設定して」
不安にかられながら旦那にこのことを話して懇願するも、「何ワケのわからんことを・・・」という感じで取り合ってもらえなかった。
記憶の欠落が起こると何してたんだかって、不安で怖くて たまらなくなるのに・・・
 いつから失っていたのか解らない意識が戻り、自宅カウンターの下に座り込んでいたことがあった。
普段こんなところに座ることはないので、気がついた瞬間にここが自宅だということもすぐには解らなかった。このアングルから部屋を見たことは初めてだった。
手には半透明のピンクのクリアファイルを持っていた。
  ーーーーなんで私はこんなところに座って…こんな物を持っているのだろう・・・

こんなことが外出先で起きたらどうしよう…記憶が飛んで、知らない場所で戻ったら・・・・
そう考えて出かけるときは必ず今日の日付、行き先、行く目的、待ち合わせ時間や会う予定の人を書いたメモをかばんの内側に貼って外出していた。
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「一応、画像撮りますねー」の声で意識が戻った。
知らない人がそう言いながら顔を覗きこんでいた。
私は、壁際のベンチに座っていた。
知らない景色だったが、内装でここは病院で、服装でこの知らない人は看護師だとすぐ分かった。
「画像」としか言われなかったが、それが脳のことだとすぐに察した。
もう、記憶の欠落が度々起こっていることは確実だった。
この日は特に意識のスキップが激しい。画像撮りますね に「はい」と返事をした直後からもう失っている。
次に気がつくのは仰向けになった私の額に布がかぶさってくる感触、直後また飛んで、別の待合室に座っている。隣に旦那も座っている。(この時初めて旦那の存在に気づく)

同じ日であろう、診察室に呼ばれると、脳の輪切りの連続写真がライトアップされてあった。
 医者:「脳は異常ないね。やっぱり家族の急死によるショックのものだと思いますよ」
診察室へ呼ばれた後からは記憶が継続している。
会計を済ませ、薬を受け取り、旦那の車で帰った。連れてこられた記憶はないが、旦那と帰ったので旦那が連れて来てたんだと思う。
初めて来る病院だったが、診察券か薬の袋でそこは I医療センター という病院だと分かった。
今後、私は2週間おきにここに通院することになった。
 父が亡くなったあの日からは 季節が移り変わろうとしていた。
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多治見リョー 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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