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激昂の事情

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 レッスンが終わり、家に帰ってきてしばらくすると、さっきレッスンで一緒だったダンス仲間のN野さんが電話をかけてきてくれた。
「様子がおかしかったけど、大丈夫?」
みたいなことから始まって、悲しい気持ちや不安な思いを泣きながら話し出すと、親身になって聞いてくれるばかりか、今まで知らなかった彼女自身の家族のことまでも話して慰めてくれたりした。
レッスンの間は心を強く持とうとも思っていたこともあってか、N野さんと腹を割って話しているうちに、その反動のように号泣しながら苦しい心を吐露し続けた。

 N野さんとは五十分ほど電話して、切った後程なくして上の姉から電話があった。
実家のお母さんをどうする?みたいな話だった。
 母には被害妄想型の統合失調症のような言動が10年以上前から出ていたので、父がいなくなっては…という相談みたいだった。
父の生前に、
「お母さんって、もしかして精神分裂病なんじゃないの?」
と訊いてみたことがある。
「お前もそう思うか」
と、亡くなる10年位前の父も言っていた。
いつからなのかをきくと、最初からだと答える。でも、家事や育児ぐらいはできるだろうと思って結婚したと。
 精神医学の啓蒙書によると、精神分裂病(統合失調症)の発症は10代後半が多いという。症状が顕著になりだしてから、家族もやっと気付くということが大半らしい。
父は結婚前から母の精神状態に気付いていて、それでありながら結婚したらしく、母がそんな風になってしまうであろう経緯なり、出来事なりに心当たりがありそうな様子にも見えた。
 どうすればいいんだろう?と言うと、「そっとしておいてやってくれ」と言っていた。
父がいてくれたから安心だった。
 そんなふうに見守っていてくれる父はもういないのだから、お母さんを精神病院に連れて行った方がいいのでは?と、上の姉からの提案であった。
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 私が本や人づてに聞いて知った精神病院とは、牢屋みたいなところに閉じ込められて、人間らしい扱いを受けないみたいな話だった。
もちろんそうではない精神科もあるだろうし、私の知った話も都市伝説かもしれなかったが、この時はお母さんがひどい目に合うようなところに連れて行かれようとしていると思い込み、受話器越しに必死で止めようとした。が・・・・・
どうにもうまく伝えられない…何十分かの押し問答の末に
「まぁ、とにかくお母さんは病院に連れて行くとして・・」
と姉が言った時だった。
「もおおおぉぉーっ!!!!!!!」と私が叫び声を上げていたのは・・・。
続いて爆笑が止まらなくなっていた。

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多治見リョー 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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