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エロシーン飛ばせよ

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「なあ、一つ疑問に思ったのだが……お前って、なんでエロシーン飛ばさないの?」

 小寒から大寒に変わろうとしている今日この頃。
 俺の横で堂々と世間で言うキモオタゲーをやっている友人に、俺は堪らず口を開いてしまった。それというのもコイツが客人が居るというのに、まるで見てくれと言わんばかりに――ご丁寧にボイスも最後まで聞かせてくれる――エロシーンを飛ばさないからであるからして。

「エロいゲームだもん。エロゲーだもん。エロシーンぐらいあるもん」
「いやなんか変なキャラの口癖移ってるし。キモイし。そもそもそんなこと見りゃわかるし」
「……君がエロゲーを見たいと言ったことがそもそもの始まりだろう? ええ? まるで俺が君にエロシーンを見せているという一種の羞恥プレイをしているみたいじゃないか」

 自分語りのモノローグを大量に読んでいた所為か、お互い仰々しい芝居のかかった言葉となる。そんなことはどうでもいい。
 そもそもの話をし始めるあたり、コイツは自分に非があると認めているに違いない。しかし、その非を認めてまでもこのエロシーンには見せたい何かがある……と見た。

「お前が見せたいものが何かは知らんが、こんな真昼間から家族在宅中なのにスピーカーでフェラ音をギュンギュンに流しまくってる状況は遊びに来ている俺でさえ恥ずかしいと思える。というか止めろ」
「やだもん」
「その語尾やめようぜ……俺が言うのもなんだけど、ヒゲ面の野郎が言っているかと思うと吐き気がするぜ……。現に目の前で言われているのだから、その被害は甚大なるものだ」
「うるさい黙れ。お前がエロゲーを見たいって言うから、仕方がなく止むを得ず真に遺憾ながらも俺はエロゲーを起動させたんだ」
「遺憾なのかよ。残念なのかよ。……確かに俺が見たいって言ったけどな、いきなり濃厚なエロシーンから始まるってのは少々アレじゃないのか?」
「アレってなんだよ。アレなゲームだろ」
「禅問答をやってるんじゃないんだよ。エロシーン飛ばせっつってんだよ。俺はこのエロゲーにエロシーンは求めてないんだよ。エロいのは自分の部屋のカーテンの裏地に隠してあるAVで十分なんだよ」
「カーテンの裏地……DVDか……? やるな……」
「感心するところそこかよ。いいから飛ばせよ」
「――そもそもだな」

 友人はちょっと長めの喘ぎ声にヤキモキしながら、俺のほうへ振り返る。
 ……やっている事柄に反して、コイツの見た目はヒップホップでも歌い出しそうなヒゲ面スキンヘッドだ。正直反則だと思う。
 世のオタクは既に擬態術を身につけている……っ!

「エロゲーはエロいからこそエロゲーと呼ばれているのだ。例えそれが純愛ハートフルストーリーでも、エロいシーンがあればエロゲーなのだ。わかるか? 全部一まとめで初めて作品なのだ。よく“オレ、エロシーンに興味ねェし。マジうざったいから飛ばすし。やっぱ燃えっすよね(笑) これは文学(笑)”なんて言う輩が居るが、それを聞いた製作者は何を思う。作った側からすれば、そこには分け隔てない一つの作品があるだけだ。エロシーンも含め、それを一つの作品として世に送り出したのだ。それがなんだ、エロシーンという言わばエロゲーメーカー故の部分を真っ先に否定されているのだぞ。“これもうプレツーで出したほうがよくね? マジそのほうが売れるって”なんて言われた日には、枕を濡らす思いだろう。真のエロゲープレイヤーとはエロシーンも飛ばさず見るのだ。もちろんボイスが終わりきっていないのにクリックするなんて以ての外、日常シーンからオートモードで鑑賞する気概でプレイす」
「わかった」
「わかってないだろ。話の腰を折るな」
「わかったから。もうエロシーン飛ばせなんて言わないから。そんなことよりヘイローやろうぜ」

 俺は一向に終わる気配のないエロシーンと友人の御高説にうんざりして、いそいそとXboxの準備をする。ヘイローはいいね。ストーリーモードは全く手を付けてないけど、オンラインだけであと半年は戦える。エロゲーなんてちょっと徹夜すりゃ終わるもんな。

「……なあ、なんでお前エロゲー見たいって言い始めたんだ」
「アニメの進み方が癪だったから自分の思い通りにすすめたいと思った。今では反省している」
「エロゲーつまらん?」
「エロゲーやってる暇があったらヘイローでマッチメイキングしていたほうがよっぽど楽しい」
「実は俺もそう思った」
「……俺ら友人だね」
「……心の友だわ」

 二人で仲良くヘイローやってたけど俺が裏切り始めて喧嘩して帰った。おわり。
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