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最終話

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 あれからしばらくの間、星野光は俺の家に全く来なくなった。
 その間、俺は何度もスランプに陥った。星野光に何度も助言を仰ぎたくなった。しかしそれでも俺は、一心不乱に小説を書き続けた。


 そして遂に、俺は小説を完成させた。
 書き上げた小説を某web小説投稿サイトに投稿してみた。そこそこの人気が出た。
 上々な滑り出しだった。このまま更新数を重ねていけば、もしかしたら書籍化されるかもしれない。
 そうであるならば、この物語の続きの物語を書いてストックしておかなければならない。web小説たるもの更新頻度は何より大事だ。
 俺はすぐさま続きの物語の執筆に取りかかった。
 この物語は設定もちゃんと練ってあるので続きを書くのにさほど苦労はしないだろう。


 ――そう思っていた矢先。
 数日後、やっぱり俺は小説を書けなくなった。
 たくさん書けていたのはやはりたまたまだったらしい……。
 続きの物語を産みだすためには、どうやらまたとんでもないスランプに陥る必要があるらしい。
 あまりにひどいスランプだったので、俺は続きの物語を書くことを諦め、気分転換に新作を書いてみることにした。
 しかしそれでも筆は全く進まなかった。


 するとある日、懐かしい声を聞くことがあった。
 穏やかな言葉遣い、しかしそれとは裏腹に辛辣な言葉を発する人物――俺はそいつのことを、よく知っていたる。
 声の主は――星野光。
「うーん、読ませていただいたんですけどー、やっぱり面白くないですね、先生の新作」
 俺は肩を落として落ち込む素振りをした。
 すると、星野光はすぐさまフォローを入れてくる。
「でもまあ、いいんじゃないかなーって思いますよ」
「星野さん久しぶり……。妙にフォローを入れなくていいからね。それくらいで落ち込む俺じゃないから……」
「あら、そうですかー! 先生、メンタル強くなりましたよね。これもスランプを乗り切ってきた大御所の貫禄ってやつ?」
「やめろ……それ以上は言わないでくれ。悲しくなってくる」
「そーですかー、先生、失礼しましたー!」
 星野光もとい俺の妄想相手にこんな会話をしているだなんて、他人に見られたらどう思われるだろう。確実に頭のおかしい奴だと思われるに違いない。
 しかし、それでも、俺は星野光との久しぶりの再開が嬉しかった。嬉しくてたまらなかった。
「今日はですねー、先生に話しておきたいことがあったので来たんですよー」
「話しておきたいこと?」
「あ、でもやっぱりいいです! 先生を目の前にしたら、なんか恥ずかしくなってきちゃいました。じゃあね、先生! それではまた会いましょうー!」
 そう言うと、次の瞬間、星野光はどこかに消え去ってしまっていた。
 星野光の居たであろう場所には人の気配はおろか誰かが居た痕跡すらなくなってしまっていて、それがとても悲しかった。
「はぁ……そうかい。やっぱり星野さんは小説を完成させると消えてしまうんだな……」
 誰かの返事を期待するかのような、そういう類の独り言だった。


 パソコンの前に座り、テキストエディタに向かい合う。
 書き上げたストーリーの断片を読み返してはみているものの、内容が全く頭に入ってこない。
 次第に意識が遠のいていく。


 しばらくすると、俺は自分自身がうたた寝をしてしまっていたことに気付いた。
 夢と現実の区別もつかないくらいぼんやりしていると、俺の後ろに誰かが佇む音が聞えた。
「先生、私達の物語を完成させてくれてありがとう」
 俺の後ろで、誰かがそう優しく囁いた。
 俺は後ろを振り返った。だけどそこには誰もいなかった。
 しかし、確かにそこに星野光の面影があった……、そんな気がした。


 寂しくなったら、あの物語の続きを書こうと思う。
 俺は心の中でそう小さく決意した。
 その決意を胸に、今日はもう何もせずに眠ることにした。
 さようなら星野光、もとい俺の妄想。君と過ごした日々はずっと忘れないよ。
 幻覚、もう見えなくなりました。でも、これでいいのさ。
 きっとまた会えるはずだから。


<終わり>




11

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