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第三話「大空のいい女」

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洋上の青空を2つの銀の光が飛んでいく。
光の動きはとても不規則で、急上昇、急降下、急旋回を繰り返し、時に加速し、時に急停止するその動きは全く予測できない。
どちらの光も凄まじい速さ、凄まじい軌道で飛んでいるが、片方の光の方がもう片方の光よりもより複雑な軌道で動いていた。

「アークルシックス、海矢~、また撃墜判定だよ~」

凄まじいGの中、のんびりとした声で煽ってくる対戦相手に、しかしコンバットソーサー内の海矢は返事する余裕はない。
圧倒的な実力差だった。
もしこれが演習ではなく実戦だったなら、海矢は何度も何度も死んでいただろう。

「ほらまた撃墜」

再び撃墜を示すアラートが鳴り響く。
苛立ちと焦り、悔しさが海矢の中に湧き上がる。
必死に相手を捉えようと機体を駆るが、どうしても歯が立たない。
それでも海矢は必死に食らいつく。
今戦っている相手、石野は確かに怪物的な腕前を持っている。
だが、自分達が戦う相手は未知の怪獣や宇宙人だ、石野以上の怪物がいないはずは無い。
時間が続く限り自分の動きを見直し、力を尽くし、少しでも勝とうと努力するべきだ。

しかし、奮闘虚しく海矢のコンバットソーサーはその後も一度も相手から撃墜判定を取る事ができず、演習が終わるまで一方的に撃墜判定をとられてしまった。



火星。
一面に広がる赤い荒野に、ぽつんと岩山の様な巨大な黒い卵があった。
巨大な卵の下部は家よりも巨大な粘液で固定されていて、その周囲には黒いフードを被った一団が機械を手にたむろしている。
集団の着ているフードは宇宙服の類にはとても見えない布製の物で、それは一団が地球人類で無い事を示していた。
と、何かに気が付いた一団の一人が空を見上げ、周囲に手で合図をする。
すると一団は慌ただしく走り回り、それと同時に空の彼方から巨大な何かが一団の下へと飛んできた。
青い甲冑の様な体に金色のプロテクターとマント、少しずんぐりとした体形で両手が鋏状になっているそれは、地球のアメリカで怪獣と戦っている巨人だ。
青い巨人は卵目掛けて両手の鋏を向けると、そこから人間には不可視の破壊光線を発射した。
だが、卵はバリアで覆われていて、光線は激しい爆発を起こす物の効果は見られない。
更に巨人は攻撃を続けようとするが、その周囲の空間に穴が開き、かつて地球を襲ったのと同じ、金属質な黒い人型の怪物達が数体現れる。
黒い金属質な怪物達は青い巨人を包囲し、卵を守る様に手から紫の火球を放ち、巨人を攻撃し始めた。
巨人は背中の金のマントを振るって火球を弾き、鋏から光線や火焔を放って応戦する。
激しい戦いの中、バリアの中の黒い卵にひび割れが起こり、雄たけびと共に中から巨大な怪獣が現れた。
怪獣はペンギンの様な体系をしていて、首がキリンの様に長く、顔は肉食恐竜に似ている。
首長の怪獣は、筒の様になっている両手を下に向けると、そこからロケットの様にエネルギーを噴射し、火星の空へと飛び上がった。
青い巨人がそれを追跡しようとするが、黒い金属質な怪物に阻まれてしまう。
その間に怪獣は空の彼方、宇宙へと飛び去っていった。



セブンベースの中、演習場、食堂、整備スペース、格納庫、あらゆる場所で兵士が、整備士が、基地職員が、同じ話題を口にする。

「やっぱ石野さんだよ、なんせ一人で米軍の精鋭チームをやっつけちまうんだぜ、いっくら和鳥がすごくてもなあ」
「いやいやわからないぞ、和鳥はこれまでのパイロットとは動きが違うんだ、俺は色んなパイロットを見てきたがアレは別格だぜ」

「今まで石野さんとまともに渡り合えたパイロットはいないからなぁ…」
「だけども和鳥は他の隊員よりも抜きんでてるし、マジでわからねえよ」

「経験だけでいうなら石野さんだが機種転換あったから二人ともコンバットソーサーに乗っている時間はそこまで変わらねえんだよなあ」
「もしかしたらもしかするぞ、もし和鳥が勝ったら大金星だ!」

明日に行われる、和鳥と石野の模擬戦、その勝敗についてだ。
石野は地球防衛機構で模擬戦無敗、他の追随を許さない凄腕である。
対し、和鳥は他に類を見ない天才だ、彼も模擬戦負けなしで、新たな戦技すら編み出した。
娯楽に飢えている隊員や職員達は二人の戦いの結果を予想して盛り上がり、影では賭博すら行われている。

「……」

どこからか聞こえてくる声を聞きながら基地の廊下を歩く海矢、その足取りは重い。
和鳥と石野の戦いが基地の注目の的になっているのに対し、自分と石野の演習は何ら話題にもならなかった。
海矢では石野に負けて当然と周囲に思われているのだ。
実際その通りになり、全く歯が立たずに海矢は何度も撃墜判定を奪われ、一矢も報いる事が出来なかった。
それは他のAACR隊員でもそうであり、決して海矢が弱いのではない。
海矢だって他のパイロット達と比べれば、十分にエースパイロットと呼ばれるだけの技量を持っている。
ただ比べる相手の石野が強すぎるのだ。
だが…。

「おっす海矢ー」

女性の声と共に後ろから首筋に冷たい物を当てられ、海矢は驚いて飛び上がった。
基地内とはいえ、簡単に後ろを取られる程気を抜いていた自分に気づき、海矢の心は更にもやつき始める。

「お疲れ……反省会するべ」

そう言って、海矢の首にくっつけたジュースの缶を差し出してくる石野。
顔は笑っているが、その目は笑っていない。

「あぁ、悪いな」
「悪いと思うなら一回位私から撃墜判定とってみー」

海矢は苦笑してジュースを受け取り、石野に続いてパイロット詰め所へと向かう。
詰め所につくと、二人はテーブルに座ってノートを広げ、お互いの問題点を話し合った。

石野は演習後、必ず相手パイロットを誘って反省会を開く。
そして自分と相手の問題点をよく相互に洗い出すのだ。
だが、大抵は石野が一方的に勝利するので、対戦相手が石野の評価とお叱りを受ける事になる。
そうして他の隊員達にアドバイスしつつ、石野は自分で自分の問題点を洗い出し、課題を見つけ、技量を上げていく。
ただ勝つだけでなく、周囲に技術を与え、自分も努力を怠らない、最強のエース。
それが石野 生だ。

…だからこそ、海矢は彼女を越えたい。
今のまま、和鳥や石野に及ばないままの自分であり続けたくはない。
それは勿論、地球の為、というのもあるが、単純に悔しさからくる所が大きい。
石野による細かな自身の欠点と今後のアドバイスを聞きながら、海矢は闘志を燃やした。



太平洋上、地球防衛機構管理下の人工島基地「ベースフォー」。
海上に浮かぶ八角形の超合金でできたその人工島は、その強固な防御力と、海上という立地から、主に海上補給と新技術の実験の場として用いられている。
その日、ベースフォーでは強力な試作反重力エンジンのテストが行われていた。
地球防衛機構の主力であるコンバットソーサーや反重力戦闘機には侵略者の反重力エンジンをコピーした物が使われている。
今回の新型エンジンはそれらの運用データやこれまでの研究を下に新たな改良が施され、より大きな反重力を展開できるのだ。
成功すれば大型宇宙船の開発や、より強力な戦闘円盤の開発が可能になるかもしれない。
是が非でも成功させたいこの強力反重力エンジンを守る為、地球防衛機構の大艦隊がベースフォー周辺海域に展開し、衛星軌道上には要撃衛星が何機も展開していた。
反重力エンジンは作動させれば特殊な重力次元震動を発生させる。
人類がこれまでと違う次元震動を発生させれば、地球を監視しているだろう侵略宇宙人が何らかの動きをしてくる可能性が高いと地球防衛機構科学陣は考えていた。

「次元震動確認!!ベースフォー、直上!!」

そしてその予想は当たった、次元震動…何かが空間転移してくる予兆が検知され、非常事態を示すサイレンが鳴り響く。
ベースフォー周辺の艦隊の有する強力な火器が次元震動が起きている空に向けられ、ベースフォー全体に電磁防壁…バリアーが展開された。
既にベースセブン…日本のAACRを襲った侵略宇宙人の新型怪獣の存在は世界中に知れ渡っている。
だからベースフォーを守る艦隊には万一奪われる事を考慮し核兵器こそ積まれていないが、人類が持つ最上級の強力な兵器が数多く配備されていた。
これで駄目であれば、強力な新型反重力エンジンを作っても侵略者を撃退できないだろう。

「次元震動、増大!敵、出現します!!」

今こそ、人類の力を試す時。
空に穴を開けて現れた巨大な影へ艦隊からミサイルが、ビーム砲が、一斉に発射される。
非常サイレンが鳴り響くセブンタワー。
そのAACR隊作戦室に海矢が駆け込んできた。
既に仁藤をはじめ、太田川、津上、石野、そして和鳥が揃い、モニターを真剣に見つめている。
戦況を詳しく知る為、海矢は近くにいた太田川に戦況を尋ねた。

「戦況は?」
「苦戦しています、我々の基地を襲ったのとは違う怪獣が現れました」

太田川の言葉に、ベースフォーを守っている艦隊の戦力を知っている海矢は息をのむ。
あれだけの大艦隊が苦戦する相手とは、どれほど恐ろしい相手なのだろうか、すぐに画面に目をやる海矢。
画面の向こうでは砲が、ビームが、ミサイルが、雨あられと画面中央にいるらしい何かに殺到している。
何かの姿は煙でほとんど見えないが、煙の中から定期的に強力な熱線が放たれ、地球防衛機構の巡洋艦や駆逐艦を次々と撃沈していた。
更にコンバットソーサーや反重力戦闘機が接近を試みると煙の中から緑色の光を放つ光球が高速で放たれる。
緑の光球は回避しようとする戦闘機やコンバットソーサーをミサイルの様に追尾し、確実に一機、また一機と撃ち落としていく。
緑色の光球が放たれた事で煙が一瞬晴れ、敵の姿が明らかになる、それは、火星に現れたあのペンギン体系の体で首が長い恐竜頭の怪獣だった。
怪獣は艦隊の攻撃を物ともせず、光線と光球で逆に艦隊を追い詰めていく。

「このままじゃ艦隊が…、隊長!救援に行けないんですか?」

一方的に破壊される味方艦隊の様子に、和鳥が仁藤に詰め寄った。
仁藤はそれを聞いて唸る。

「救援要請が出たわけではないし、この日本が襲われないとも限らない。
いつでも出撃できるように待機する事はできても、こちらから積極的に助けに行く事はできない」

それを聞いて、和鳥も歯がゆそうに唸る。
助けに行けるなら、仁藤だってすぐに救援に向かうように指示しただろう。
それはわかっていた、だが、聞かずにはいられない程に目の前の戦いはひっ迫していた。
画面の向こうで光線を受けた巡洋艦がまた一隻炎に包まれ、火だるまになった兵士が海に飛び込んでいく。
それを見た和鳥は思わず作戦室から飛び出そうとして、津上に腕を掴まれた。

「どこへ行く?」
「トイレです!!」
「嘘つけ」

機体を強奪してでも出撃しかねない和鳥の雰囲気に、津上は頑として手を離さない。
と、和鳥が海矢の方を助けを求める様に見てきた。
あぁ、なるほどと海矢は和鳥の意図を察する。
ゴールドオーシャンに変身してベースフォーに向かうつもりなのだ。

「まあ、津上、そうカリカリするな、な?」
「何言ってる、ここで止めなければこいつは行く」
「あーいや、まあ…あーー」

津上に断言され、返す言葉が無い海矢。
確かに、立場が逆で事情がわからなければ、海矢も止めていた。
和鳥とはそういう奴だ、一人でも助けに行くだろう。
どうしたものかと和鳥と海矢があたふたとしていると、画面を見ていた仁藤が声を上げる。

「ああ!!アレはなんだ!」

一同が視線を画面に向けると、画面の向こうでは空の彼方から新たな巨大な影が飛来しようとしていた。
それは黄金のマントを羽織った青い巨人、アメリカを守り、火星で戦っていたあの巨人である。
ウルトラマンと同じく人類に味方している巨人を巻き込むまいと、一旦中断される砲火。
巨人はベースフォーに降り立つと、腕に光の鞭を出現させ、それを怪獣に打ち付けた。
大艦隊の猛攻でもびくともしなかった怪獣が、光の鞭を受けて苦しみ、悲鳴を上げる。
巨人の攻撃の効果を見て、驚く隊員達。

「効いてる!?」
「あの攻撃を解析するんだ!」

仁藤の言葉を待たず、既に通信隊員達は攻撃の解析を始めていた。

「攻撃に測定不能なエネルギーが含まれています」
「測定不能?」
「ダークマターの様な物で構成されている様なんです」

怪獣や宇宙人には未知の構成要素が多く含まれており、その体の構造は既存の法則だけでは説明できない、「魔法」の様な部分が多々存在する。
怪獣の死骸を解剖してその構造を調べると、この構造で生きていくのは不可能、まして光線を出したりミサイルに耐えるなどありえないという結論に必ず至るのだ。
故に、怪獣は生きている間はその体内に独自の物理法則を作り出しており、既存兵器は怪獣のこの部分に弾かれる為うまく効果を発揮しない。
近年は侵略者の残した兵器や法則外の部分への研究が進んだおかげで、トライアタック等その部分に有効な兵器の開発、研究も進んではいる。
だが、眼前の怪獣はこれまでよりも強力な法則外の力に守られていて、青い巨人はそれにすら干渉できる更なる未知の力を行使したらしい。

「人類の力は…まだ侵略者に及ばない、という事ですね」

炎上する艦隊を背景に怪獣と渡り合う青い巨人を見ながら、太田川が悔し気に言った。
と、青い巨人に攻められ怪獣が体からロケット噴射の様に何かを噴射させて飛び上がり、その場から逃走を開始する。
逃がすまいと生き残った艦隊が対空砲火を加えるが怪獣は物ともしない。
青い巨人も追撃しようとするが、がくりと膝を折り、その場に蹲ってしまった。
どうやらエネルギーが切れたらしく、そのまま光の粒子になって消える巨人。
残された怪獣はしかし巨人がいなくなった事に気が付いていないのか、そのまま高速で逃走を続ける。
その後ろを戦闘機とコンバットソーサーが追撃し、攻撃を続けているが効果は見られない。
仁藤はモニターに表示される怪獣の進路と速度を見て、隊員達を振り返った。

「このまま進むと極東支部の管轄下に入る。石野、海矢、和鳥、直ちに出撃、洋上で怪獣を迎撃する」
「待ってました!」
「私もさ!」

即座に格納庫へ走る和鳥と、競うようにそれに続く石野。
そうか、石野も飛び出したかったのかと考えながら、すぐに海矢もそれに続く。



日本のベースセブンから出撃したコンバットソーサーの編隊は、日本へ迫りくる怪獣へ向け一直線に進む。
だが、艦隊の攻撃をもってして撃破できなかった怪獣に如何にして戦うべきか、海矢にはうまい対抗手段が浮かばなかった。

「しかしどう戦う、いくらコンバットソーサーでも火力で対抗できる相手じゃないぞ」
「ロケットの噴射口が弱点に見えるね、そこをトライアタックで叩こう」

高速で飛ぶ怪獣の小さな噴射口部位を狙うと即座に言ってのける石野に、海矢は舌を巻く。
石野以外のパイロットがこんな事を言ったら、海矢は何を馬鹿なと別の手を考えようとしただろう。

「それでいきましょう」

いや、いた、もう一人、石野に匹敵する男、和鳥もまた、石野の意見に躊躇いなく賛同する。

「……じゃあ、そうするか」

3人しかいないチームで、2人が賛成し、できると言っているのなら、海矢も無茶でも無理でもやるしかない。
それに海矢とて多くの積み重ねがあるのだ。
君達にはできますが僕はできません等と、AACR隊員は口にしない。

やがて3人の前に、こちらへ進撃する怪獣が姿を現した。
巨体をロケット噴射で縦横無尽に飛ばし、追従する戦闘機やコンバットソーサーの攻撃をかわし、緑の追尾する光で反撃し翻弄している。
それ目掛け、すかさず突っ込んでいく石野のコンバットソーサー。

「私が仕掛けるよ!トライアタック!」
「わかった、ワン!」

すぐに石野のソーサーへ海矢のソーサーから緑の粒子が放たれ吸収される。
その直後、和鳥のソーサーからも青の粒子が放たれた。

「ツー!」
「トライアタック!」

石野のソーサーはそれを吸収すると、超加速して怪獣に肉薄し、噴射口の中目掛けて赤い粒子を発射する。
ビームは怪獣の噴射口に吸いこまれるように入り、中から怪獣の腕を破壊した。

「ギャアアアアアアアアアアアアアア」

断末魔を上げて海上に墜落する怪獣。
そこに、海矢と和鳥、そして太平洋から追跡している戦闘機隊が一斉射撃を浴びせる。
激しい爆発が怪獣を包み、大きな水柱が上がった。
だが、怪獣は艦隊の猛攻に耐える防御力を持っている、如何にダメージを受けた後とはいえ、この程度では倒しきれてはいないだろうと海矢は考える。

(あれじゃ倒せない。もう発射口は狙えないだろうし、どうすれば…)

と、和鳥のコンバットソーサーが、不用意にその水柱へと接近していった。
あの緑の追従する攻撃を受ければ、このままでは簡単にやられてしまう、そう思った海矢は無線に叫ぶ。

「待て!アークルナイン!戻れ!」

だがふと、海矢は考えた、あの和鳥があんな不用意な事をするだろうか?
否、和鳥は堅実な男だ、チャンスだからといってあんな風に突っ込んで行ったりはしない。
では何故あんな事をしているのか、石野に触発されて弱点を突こうとしているのか?否、撃墜されるのが目的と考えれば辻褄があう。
そうだ、変身するつもりなのだ。
確かにこちらの武器が通じない以上、ウルトラマンゴールドオーシャンの力に頼るより仕方がない。
和鳥の判断は間違ってはいないだろう。
その結論に至った海矢はそれ以上止めず、和鳥を見送ろうとした。
だが、進む和鳥機の横に、石野のコンバットソーサーが現れ、和鳥の進路を妨げる。

「何するつもり?変な無茶はダメよ」
「あ…しかし弱点を狙わなければ」
「もうあいつは飛べない、無理に近づいたらダメダメよ」

危険を冒して自分を助けに来た石野の忠告を聞かないわけにはいかないと思ったのだろう、和鳥は即座にその場から下がり、石野もそれに続く。
しかしこれでは和鳥は変身できない。
ゴールドオーシャンの力を借りなければ、あの怪獣は倒せない、なんとか和鳥を退場させなければ…。

「勝算はある」

そんな海矢の考えを見透かした様に石野が自信ありげな声で提案する。

「開口部が弱点ってわかったんだ、目と口に攻撃を集中する。接近して攻撃するんだ」

結局それしかないのかと思う海矢。
だが、人間の力で精一杯戦う方法はそれだ。
ゴールドオーシャンの力に頼るよりも、人間の力で勝とうと自分はするべきだった。
海矢は自分の考えの甘さを恥じる。

「よし、相互にかく乱攻撃しながら開口部を叩こう」
「了解」

やがて海面から怪獣が姿を現した。
海中を進む能力は低いらしく、少しでも水の抵抗を減らそうと、海面に出てきたのだ。
太平洋支部と艦隊の戦闘機とコンバットソーサーがそこに攻撃を加えるが、やはり真正面から攻撃しても効果は見られない。

「よし、今だ!トライアタック!!」
「ワ…あぁ!!」

石野機が急降下して仕掛けようとしたその時、怪獣の長い首が二つに割れ、そこから薄緑色のごく薄い霧の様な物が広範囲に放出された。
周囲を飛ぶ和鳥や海矢、太平洋支部と艦隊のコンバットソーサーや反重力戦闘機は突然噴射されたその霧になすすべなく接触してしまう。
それでも石野のコンバットソーサーはそれに反応し、即座に超加速してその場から全速後退する、が、結局は霧を浴びてしまった。
霧を浴びたコンバットソーサーや反重力戦闘機は突如として浮力を失い、失速して墜落し始める。

「なんで!?」
「は…反重力だ!反重力が何かで無効化されてるんだ!」

無線機から響いた和鳥の悲鳴の様な問いに、即座に石野から返答があった。
彼女はこんな状況でも計器から送られてくる情報を正確に読み取ったのである。
だが、そうした所で絶望的な状況は覆らない。
反重力戦闘機やコンバットソーサーから次々パイロットが脱出する。
人類の持てる火力も、宇宙から取り入れた反重力技術も、侵略者の手先の怪獣には通用しなかった。
人類の力では侵略者には勝てない。
だから、ウルトラマンがいるのだ!
和鳥はゴルドオーシャンパスを起動させ、黄金の揺らめきの中に飛び込む。
空に黄金の海の様な異空間の揺らめきが現れ、中から光の巨人、ウルトラマンゴールドオーシャンが現れる。

「シュワッチ!!」

空中に浮いて現れたゴールドオーシャンはその場で体を高速で回転させ、周囲の薄緑色の霧を上空高く吹き飛ばした。
既にパイロットが脱出したコンバットソーサーや反重力戦闘機はそのまま海面に落ちるが、何機かの機体が浮力を取り戻した事で再び上昇していく。
ゴールドオーシャンはそれを見て頷くと、割れた首を元に戻し、悔し気に唸っている怪獣目掛けて急降下キックを放った。
防御姿勢を取るも、重いキックの一撃を受け、水しぶきを上げて海面に倒れる怪獣。
間髪入れず殴り掛かるゴールドオーシャンだが、巨大な腕の一撃を受けて逆に体制を崩される。

「ゼアッ!」

後ろにのけ反らされながらもなんとか反撃しようとするゴールドオーシャンに、長い首を丸太の様にぶち当ててくる怪獣、吹き飛ばされるゴールドオーシャン。
海面に巨大な水柱があがり、そこに更に怪獣の口から艦隊を吹き飛ばした光線が浴びせられる。

「グアァ」

苦しむゴールドオーシャンに更に腕から緑色の光球を連射する怪獣。
しかし、ゴールドオーシャンの肩のプロテクターが迫る光球に反応し、光線を放ってそれを撃墜する。
体制を立て直したゴールドオーシャンは肩の飾りを外し、怪獣目掛けて投げつけた。
強力なカッターとなって怪獣を切り刻まんと突き進むカッター、しかし怪獣は口からの強力な光線でそれを弾き飛ばす。
力なくゴールドオーシャンの肩に戻るカッター。
ならばとゴールドオーシャンは胸の前で腕をクロスさせ、肩のプロテクターから先ほどの光線を怪獣目掛けて発射した。
爆発が起き、怪獣は苦しむが、すぐに体制を立て直し、緑色の光球と口からの光線を同時発射して応戦する。
激しい反撃に今度は肩のプロテクターの光線も迎撃しきれず、光線を浴びて苦しむゴールドオーシャン、胸の水晶体が赤に変わって点滅し始めた。
そこに接近し、首を叩きつけて追い打ちをかけてくる怪獣。
防御するも何度も打ち込まれる首の打撃に苦しめられるゴールドオーシャン。
それでも何とかその首を掴み、攻撃を封じようとするが、怪獣の力が強く、締め上げる事も投げ飛ばす事もできず、振りほどかれるのも時間の問題である。
気合を入れてゴールドオーシャンを振りほどこうと吠える怪獣、と、その口の中に急接近したコンバットソーサーがビームを打ち込んだ。

「ウルトラマン、こいつはサービスよん♪」

陽気な言葉と共に更に攻撃を続ける石野、苦しむ怪獣。
海矢機もすぐにそれに続いて肉薄し、怪獣の頭部、目を攻撃する。
予想外の攻撃を受け、焦り、苦しむ怪獣。
ゴールドオーシャンは石野達のコンバットソーサーに力強く頷くと、怪獣の首に強力な膝蹴りを見舞った。

「グゲッ」

強烈な一撃を受け、首が歪み、怪獣がグロッキーになる。
その隙を逃さず、ゴールドオーシャンは肩の飾りをナイフの様に手に持ち、それで怪獣の体を十字に切りつけた。

「グゲエエエエエアアアアアアアアア」


断末魔を上げ、両手と腕を振り回し、暴れる怪獣。
ゴールドオーシャンはそこから飛びのいて離れると、両手にエネルギーを溜め、怪獣目掛けて一気に放出する。
必殺のゴルドインパクトだ。
苦しみもがいていた怪獣にそれを回避する事はできず、黄金の光の奔流を受け、体中の細胞が輝いた後爆発四散した。

「やった!」
「流石」

勝利を喜び、ゴールドオーシャンを称える海矢と石野。
その後すぐに海面に接近して怪獣復活の兆候を調べるが、幸いにしてその兆候は全く見られない。
石野は無線機を取ると、本部へと通信を開始する。

「こちらアークルフォー、怪獣殲滅完了、繰り返します、殲滅完了」

報告してすぐ、待機していた地球防衛機構の高速救助艇が脱出したパイロット達の救助の為水平線の彼方に現れた。

「シュワッチ!」

それを見届けたゴールドオーシャンは飛び上がり、空の彼方へと消えていく。


やがてパイロット達は救助艇によって全員無事に救出され、和鳥もまた墜落したコンバットソーサー内から助け出された。
事態が終息したものの、関係者達の顔は暗い。
新型反重力エンジンは守られはした、だが、怪獣に有効打を与えられる火力は無く、ようやく敵の技術に追いついたと思われた反重力技術も敵は無力化する術を知っていた。
しかも過去の反省を活かしたのか、侵略者は怪獣…鹵獲して技術流用ができない生態兵器を用いて人類を攻撃する方法に移っている。
このままでは人類はじわじわと怪獣によってすり減っていく…そんな不安が地球防衛機構内に広がった。


―――――――


「やっぱり石野さんの方が腕前は上だったな」
「そりゃあそうだよ、和鳥隊員は幾ら操縦技術が高くても経験値が違うんだ」

基地の廊下を歩く海矢の耳に、職員達の会話が聞こえてきた。
前回の戦いで石野は無事だったが、和鳥は無謀な突撃をかけたり、敵の反撃になすすべなく墜落している。
その結果を見て、やはり石野の方が和鳥よりも技術が上だったのだと皆言っているのだ。
不動のエースを上回る逸材が現れ、極東の守りが更に盤石になるのではないかとどこかで期待していた職員達は結局和鳥が石野に及ばなかったと落胆しているのである。
勝手な物だと海矢は思った。
和鳥が石野に勝てない事なんてわかりきった事だ。
才能なんて物があるとすればそれは体格や脳の感覚器発達の差の事を指すのだろうから、それは両者互角に見える。
ならば、単純な努力の量が勝負を左右する、運が多少絡んでも、そんな物は僅かな差だ。
石野ほど努力し、石野ほど準備を怠らず、石野ほど油断なく戦う人間はいないと海矢は思っている。
和鳥が石野に追いつくのは、石野が退役した後に…。

「海矢隊員」

横から和鳥の声がかかり、海矢は一瞬ぎょっとする。
タイムリーだ、そしてまぁた周囲に注意がいっていなかった。
どうにも最近ダメだなと少し頭を抱える海矢。
そんな海矢を和鳥が少し心配そうに覗き込む。

「大丈夫ですか?」
「ああ、いや、なんでもない。どうしたんだ?」
「あ、そうそう、石野さんが呼んでたんですよ」

和鳥の導きで、海矢が石野が待っていると言うパイロット待機所へ赴くと、そこには太田川と津上、他にも何人かの航空隊員の姿があった。
一同の前では、石野がホワイトボードを前に立っている。

「おお、来たね」
「石野?どうしたんだこれ」
「どうしたって決まってるでしょ?前回の反省会と今後の対策会議よ、すぐにでもしなきゃ」

余程悔しかったのだろう、石野の傍らのテーブルには、彼女が書いたらしいレポートが山積みになっていた。
もう彼女なりに敵の反重力封じに対抗する策を考えているらしい。
そう来なくっちゃ!やっぱり石野はいい女だ!海矢はそう思った。

「そうだな!」

会心の笑みを浮かべて、椅子に座る海矢、和鳥も席に着き、石野を主導とした反重力封じへの対策会議が始まる。
9, 8

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