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コイニオチル

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ーーー?

気が付いた、
気が付いた、
気が付いた。
「気が付いた」

私は気が付いたのだ
私が気が付いたとき

私は気が付くと鏡の上に立っていた
それはとてつもなく大きな鏡

真っ平らだ
ーーーいや。
水滴が流れ落ちて行くのだ

僅かに傾いた斜面だ
斜めになった鏡面が空を反射している

眩しい、
眩しい??

私はずっと目を開けていた
しかし、眩しい…
まるでさっき瞼を開いたかのようだ

「気が付く前」まで
私は、ただ
ぽーっと俯いていた

思考をとめて俯いていた
無意識であった

「気が付いた」
私は其処にいた
ーー其処?
この鏡面を私は知らない
私は何処にいた?

周りを見渡す
スルーっとクルーっと
私の両足は回転した
中華料理屋のテーブルのように
回転した…

「気が付いた」
回転した、
わたしの重心は360度滑っている

「気が付いた」
見渡す限り鏡面は続いてた
視界にはビルや山や木々はなく
地平線がハッキリとわかる
光を反射した鏡の地平線が
どこまでも地平線が
鏡の地平線が
ーーー鏡の?


空を映し出し光る地
斜面を流れる水滴
滑ってしまう足元 
「気が付いた」

ー鏡ではなくて氷だ
私は巨大な氷の上に立っている
斜めになった氷の板の上
水滴の落ちていく方から
緩やかな風を感じる

「気が付いた」
私は落ちている
この氷の板で
水滴より僅かに遅い速度で
ゆっくりと滑り落ちている

ゆっくりと
ゆっくりと
ゆっくりと
そしてゆっくりと

地面に指で触れた、
氷なので冷たい
氷だからあたりまえだ
指が寒さで痛くなるので
私は触れるのをやめた

「私は気が付いた」
私のスカートは風になびいている
私はスカートを履いている
私は女性だと思われる

気温はあたたかい
氷の上なのになぜか暖かい
きっと太陽のおかげだ

水滴は落ちて行く
きっと太陽が溶かした地面だ
私は水滴と共に落ちていく
滑り落ちて行っているのだろう

これくらいの斜面なら抗える
落ちることから抗える
抗うこともできるだろう 

「私は気が付いた」
私の意識のなかで唯一だった
視界で唯一の動いてる水滴
ただ斜面を流れ落ちる水滴

ーその水滴が恋しかった
その殺風景の中で
つまらない風景中で
唯一私が興味を持った水滴
私はその水滴の行く末を知りたい
私は水滴に恋をした
だから私は水滴と共に落ちた

ーー時間が経った 
私は水滴と共に落ちていく

ーー時間が経った
水滴は少しずつ他の水滴を飲み込み大きくなった

ーー時間が経った
私は水滴が大きく育っていくのが
なぜか嬉しかった

ーー時間が経った
太陽はまだ私達を見守ってくれる

「気が付いた」
ーー私は気が付いた
この世界で唯一動くのは水滴
太陽は動かなかった
いや、動くのかもしれない
しかし意識の中では動いては
いなかったのだ
長い時間、太陽は位置を変えない

「気が付いた」
ー時間が経った
しかし、それほど時間は経っていないのかもしれない…

それを確かめる術はないのだ
太陽は動かないものなのかもしれないし動くものだとしたら日が沈むまで私はそれを知ることはできない…

「気が付いた」
永遠に続く銀の地平線
斜面を滑りおちる水滴 
日が沈むのを待つ私
すべてが無抵抗だ
無意識以降すべてが
意識した世界すべてが
無抵抗だった

無抵抗な水滴も大きくなった
大きくなって
大きくなって…
私より駆け足で流れ落ちていく

ー私は追った
ー私は歩いた
ー私はかけた

私をおいていこうとする水滴を
私より大きくなった水滴を

ー私は追いかけた
ー私は追いつくのを諦めた

私を置き去りにした水滴を
私は水滴を目で追いかけた
私は水滴を眺めた

消えた

ー地平線は水滴を隠した
ー水滴は地平線から消えた 

私の視界から水滴が消えた

ー時間が経った
ー時間が経った
ー時間が経った

太陽は結局動かない
私に空腹は来なかった

ー落ちていく
その方角からぽちゃんと音がした

「気が付いた」
平らだと思っていたこの斜面は
少しくぼんでいたのだ
レールのように道になっていた
私はそのくぼみを流れ落ちていた
水滴は私の前を流れ落ちて
その道をはっきりと溶かして
より「道」らしくしていた


「気が付いた」
足もとは水が流れていた
川のように水が流れていた
この旅の途中で一緒に落ちてきた
水滴達が重なって落ちている
氷の斜面の上に薄い水の膜をはり
流れて…落ちて…光を反射させて

その川の遠く先を見てみると
その川は光の道になっていた

ずっと足元の水滴をみていた
無意識の頃からずっと…
けれど遠くを見ると水は光になっていた

「気が付いた」
ずっと先の道
流れ落ちる先をみると
景色が変わっていた

ずっと前に見たときは
地平線だった

ずっと進んできた
ずっと落ちてきた

ずっと先を見てみた
すると光の道が続いてる筈だった
地平線の先まで続いてる筈だった
川は大きくなって海の様になって
光っていると思っていた

しかし、
光の道は地平線の手前で途切れていた

なぜ途切れているか分からない
遠くて見えなくて分からなない

だから私は流れ落ちる
知りたくて流れ落ちる
この道と一緒に流れ落ちれば
近くまで流れ落ちれば
きっと見えるから
ハッキリと見えるだろうから
水滴の行く末が知れるなら 

「気が付いた」 
ーー穴だ
ーー大きな穴だ

ちょうど川の幅と同じ直径の
すこし大きな穴だった
水が落ちていく穴だった

この旅の過程で川は広くなった 
広くなったが
この氷の板はとても広い

穴はとても深い 
穴の底を覗くと深い
穴の底は見えない
ずっと先から、深くから
穴の奥に水が跳ねる音がする
覗いた

ーーじょぼじょぼ?
バケツに水をためるような音
底には水がたまっていくのだろう

川が溶かした氷の道は
川の流れで深くなっていく

靴底くらいの深さの薄い道は
いつの間にか膝くらいの深さに
しっかりと川になっていた

「気が付いた」
穴の先にも斜面は
続いてる…
斜面の先は地平線だ

膝ほどの川を私は流れて落ちているのだ
川の先には深い穴だ

旅の過程で広がった川の横幅は
十数メートルほど

「気が付いた」
流れに逆らい
落ちる方向から横にずれれば
川からあがれる
川からあがれば
穴から逃れられる
とても簡単だ

穴から逃れると
また斜面は続いてる
まだ流れ落ちれる

「気が付いた」
時間が経つにつれて
川は道を溶かし深くなっていく

しかし私は流された
無抵抗だ

「気が付いた」
川は深くなって私の体を浮かせた
私は川に流されるしかない

「気が付いた」
川の流れは緩やかだったので
いまから泳げばまだ
穴から逃げる事はできる

しかし泳げなかった
無抵抗だ

「気が付いた」
穴の直前まで来て
川の流れは早くなってきた
無力だ

「気が付いた」
この水は不思議と冷たくない





「気が付いた」
私は水滴を追っていたのだ 
「気が付いた」
水滴はこの穴の底にいる
「気が付いた」
私は落ちている
「気が付いた」
流れ落ちているのではなく
穴を落ちている 
「気が付いた」
体は宙だ
「気が付いた」
穴の円周を流れ落ちる水とは別れ
私は円の中心を一人で落ちている

「気が付いた」
私はこの穴の底で
あの水滴とひとつになりたい

「気が付いた」   
私には無意識前の記憶がない


バジャリ

水面に打ち付けられた
水面は氷の様に硬く感じた
水面は私を拒絶した

ぽちゃん

私は沈んだ
私は氷の様に冷たくなった
私は水に包まれた

この井戸の様な穴の底は
暗くて前が見えない
暗くて前が見えない

私の意識は消えた
そして沈んだ

ゆっくりと
ゆっくりと
ゆっくりと
「沈んだ」

この水中を無意識のまま沈んだ


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