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Travel7:忌まわしくもいやらしく描き変わる残酷な過去

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Travel7:忌まわしくもいやらしく描き変わる残酷な過去

朴は少々面食らったらしく、言葉を発しなかった。が、突如凄みのある声を発し、ビクビクしながら歩を進め始めた俺の前に立ちはだかる。
「ほほう、なかなか根性のあるお嬢ちゃんだな。いいだろう、今日の所は大人しく引き下がろうか。こいつと一緒に、な。筧は俺らに付き合ってくれるそうだぜ、なア、そうだろ?」
朴はそれはそれはおっかない表情で俺と郁子の顔を見比べる。同意を求められても困るんだが…。つまりは俺は人質ってこと。もっといえば、俺を盾に取るってことは、無論朴らの標的は郁子に移ったってことだ。が、郁子は表情こそ曇らせたものの、相変わらず優等生口調で諭す様に言う。
「生憎様。晴君はあなた達の遊びにお付き合い出来ないと思うけど。ま、ちょっとHだけど、真面目で優しくて人に迷惑をかけるような人じゃないってことだけは証明できるわ」
と、少々得意そうな郁子。そう、コイツはそういう女の子だった。いつでも友人を信頼し大切にしてくれる娘でもあった。

「ほう、お嬢さん、あんたコイツの何なんだい?」
と、朴が問う。ほう、その答えは俺も気になる。郁子は明快に答える。
「お友達よ、子供のころからの、ね。ま、幼馴染ともいうかな? なので、彼をあなたたちの世界にひっぱりこむのは、私が許しませんから」
郁子は俺の姉貴、いや母親みたいな口調で凛とした態度をとる。が、朴はそれを飲み込む様に底知れないうすら笑いを浮かべ低い声音を絞り出しながら、郁子の前方に回り込み暴挙に出る。郁子は俺を振り返る格好になる。美貌が困惑と、明らかな恐怖に変わる。日頃、優等生として絶対の優位に立つ女の子も、その意向が通用しない相手、世界があるのだということをようやく察した様子だ。
「けけけ、平たく言やあ、お前は筧の保護者かよ、ならお前が代わりに俺らに付き合ってくれよ!」
「なに言ってんの、あぐッ!」
郁子は狼狽した表情を浮かべる間もなく、朴の強烈な正拳が郁子のレオタードに包まれたウエストに打ち込まれた。

が、郁子の受難はここからが本番だった。蹲る郁子のバックに回り込んだ朴は即座にその首筋に極太の腕を巻き付ける。
「はぁうぅッ! う、うぐぅ…く、苦し…いィ…」
藁にもすがるっていう表情で、宙を掻きむしる様に身悶える郁子。
「オーラ、オラ、さっきまでの高ビーな態度はどうしたい、お嬢さん?」
朴はやっぱし残忍だ。頸動脈を締め付けたり、意識が遠のくと微かに緩めたり…郁子をじわじわと弄ぶようにいたぶってゆく。ああ残酷な、なんと憐れな、いたわしや、俺の幼馴染の美少女は唇の端に唾液を滴らせ、時折半分白目を剥きつつ、どこか艶めかしく悶え狂う。GEの連中はこれまた輪をかけてS気が強くて、苦しむ郁子に大喝さい、『お・と・せッ! お・と・せッ!』と、リーダーのさらなる暴挙を煽る始末。

これまでGEにいたぶられた男子の数はいざ知らず、さすがに女子でリンチにかけられた娘は寡聞にして聞いた記憶はない。男子でも震え上がる朴愛信直々の暴行劇。その女子生贄第一号に、なんと我が初恋の郁子が選ばれてしまったという残酷な事実。
「あわ・あわ・あわわわ…あ、ああぁ~~…」
郁子は気の抜けた喘ぎと、美貌を次第に蒼白に変えながら、意識を失いかけている。
「いいぜ、いいぜぇ、第一中のマドンナにして、匂い立つような優等生女、それもレオタード姿の越生郁子に徹底的にヤキを入れるっていうのは…ムヒヒヒヒ、日帝の資本家の娘っていうのがまたそそるねえぇ」
コイツはやはり真正のサドだ。日本人を、殊にこの時は、市内でも有名な美少女をいたぶることができる歓びに満ち満ちた口調だ。
「さあ、苦しめ、苦しめ、どこまで持ち堪えられるのかなぁ、筧に代わって俺と遊んでくれよ」
いよいよ郁子の手がだらりと下がる。完璧に失神させられたようだが違った。朴はケンカのプロであり、人を痛めつける達人でもある。どの程度責めれば、相手がどこまで苦しみ、気を失うかは皮膚感覚で知り尽くしている。そして相手を気絶させるのは好きでない。なぜかといえば、失神すると自分が与える恐怖を感じる時間が無くなるからだ。狙った相手をどこまで心身ともに痛めつけるかを美学としているコイツらしいポリシーとも言えた。

「あうぅ…」
唇から唾液の糸を垂らしたレオタード姿のマドンナ様は、狂犬にして暴漢の魔手から解放されると、どっと膝をついた。が、決して釈放されたわけじゃない。
「よっしゃ、お前らこの女、拉致るぞ!」
「おおっ!!」
メンバーたちの間に危ない遊びに突入するような、卑猥で熱く危険なムードが盛り上がった。悪いことに、朴通う民族学校は、俺たちの市内第一中学の裏手に位置する。雑木林の中、細い道を50メートルほど進めば連中の学校のグラウンドわきの裏門にたどり着く。GEに捕まったウチの学校の連中は、ほぼ全員ある場所に連行される。グランドの端にある古びた用具室。ここは朴拉致のたまり場にして、拉致した相手の『拷問部屋』でもある。
「よっしゃ、おめえら! この郁子を例の部屋へご招待だ!! 連れ運べ!!」
「えっさ、ほいさ、えっさ、ほいさ、えっさ、ほいさ、えっさ、ほいさ、よいよいよいよい!」
メンバーは誰かを拉致した時、恒例の掛け声を上げつつ、力尽きた郁子を担ぎ上げる。力なく4人の男に四肢を持ち上げられ掲げ上げられながらも、美貌をカクンと地面に向けたまま成すがままな郁子がなんとも憐憫で艶めかしかった。
「筧も来るよな、モチロン?」
朴はキャラクターにまるで似合わない微笑を浮かべ尋ねてくる。大好きな女の子が名だたるヤンキーに捕まって拉致されているのに、自分だけ逃げ帰れるわけもない。ましてや、郁子は俺を守ってくれたがために、朴に標的にされたわけだ。お付き合いしないという選択肢は無かった。連行される哀れな郁子と、朴の後をとぼとぼ追いかけつつ、俺は思う。
(俺ってなんのために過去に戻ってきたんだよ? 初恋の女が拉致られる場面を見学に来たわけじゃあるまいし。過去では郁子と朴達GEは何の接点も無かった…。なんで未来が変わったんだ? 達也の奴、過去をやり直せとか言っていたけど…)
俺は達也の真意をいまだ測りかね、郁子もろともGEの魔手に堕ちたわけだ…。
7

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