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第五話 潜伏

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【7日目:深夜 東第一校舎一階 ボイラー室】

 暁陽日輝と安藤凜々花は、東ブロックにある最寄りの校舎・東第一校舎に移動していた。桜の木を倒した轟音や、凜々花が泣き叫ぶ声は、少なくとも東ブロックの屋外にいた生徒には聞こえていたはずで、一刻も早く避難する必要があったからだ。
 マンモス校でもないくせにやたらと広いこの学校は、中央に『本校舎』と呼ばれるメインで使用される校舎があり、教室や職員室などの主要な部屋はそこにあるが、その本校舎がある場所を『中央ブロック』とし、東西南北にそれぞれ同じ面積のブロックが設定されている。
 そして、東西南北のブロックには、各三棟の校舎とそれに付随する施設があるという充実ぶりだ。
 今より地域人口が多く在籍する生徒の数も多かった頃の名残だというが、そのせいで普段から移動教室には難儀した。一年の頃は校内見取り図を携帯していたくらいだ。
 しかし、二年生の二学期である今では、どの施設がどの棟にあるかは、大体頭に入っている。もっとも、施設数が多いのでほとんど縁のない施設もあるが。
 そのうちの一つであり、陽日輝がこの生徒葬会の中で身を潜めるのにぴったりな場所として目を付けていたのが、今、陽日輝と凜々花がいるボイラー室だ。
 冬場以外は稼働せず、中に入るのも用務員と点検の業者くらい。
 音が外に漏れないよう扉は分厚く頑丈で、その上内側からも鍵を掛けることができるのが都合の良いポイントだった。
 陽日輝はドアノブのつまみを捻って施錠すると、安堵から「はああ」と息を吐きながら、近くにある床から天井へと伸びたパイプにもたれかかる。そのままずるずると背中を滑らせ、冷たい床に尻をつけて座った。
「冬以外はここでよくサボってたよ。掃除当番が職員室担当になってたときに、鍵を拝借して合鍵を作ったんだ」
「……なるほど。でも、それじゃあ元の鍵を持った誰かがここに来る可能性はあるんじゃないですか?」
 凜々花は、きょろきょろとボイラー室内を見回しながら言う。
 ボイラー室内は、教室の半分ほどの面積しかなく、その上でボイラーの機械やパイプによってスペースが取られているため、先客がいたらすぐに分かるようになってはいるが、凜々花が懸念している通り、後から誰かがやって来る可能性は十分にある。
 特別教室を始めとする多くの部屋は施錠されているが、職員室に行けば、大抵の部屋の鍵は手に入れることができるのだから。
「ああ、凜々花ちゃんの言う通りだよ。俺も開会後に職員室に一度行ったけど、鍵は全部なくなってた。誰か一人がまとめて持ってるのか、複数人が思い思いの鍵を持って行ったのか、それはわからないけどな。まあ、それ対策としては、シンプルにこうだな」
 陽日輝は立ち上がり、ドアの横一メートルほどの位置にあった棚を体全体で押して、ドアをぴったりとふさいだ。ボイラーの点検記録表のファイルや、メンテナンス方法が書かれた分厚いマニュアルなどが雑多に置かれたガラス棚だ。
 このドアは外からだと内開きになるので、ドアを開けようとしたなら、このガラス棚が引っかかる。まあ、生徒一人一人に与えられた異能力の中には、この程度のバリケード、ものともしない能力もザラにあるだろうが、何もしないよりマシだ。
 誰かがドアを開けようとしている、ということに気付くことができ、ガラス棚がある分、ほんの少しとはいえ時間を稼げる。それだけで大きなメリットだ。その間に迎撃態勢を整えることができるのだから。ボイラー室には他の出入り口や窓はない。誰かが入ってくるとしたら、このドアしかありえないのだ。
 その点もまた、潜伏場所として優秀といえた。
「外に出るときにも棚をよけなきゃいけないのが面倒だけどな。ま、最悪俺の『夜明光(サンライズ)』なら壁を焼き溶かして脱出できるはずだ。試してはないけどな」
「……桜の大木を倒すくらいですから、多分できると思いますよ。本当に恐ろしい能力ですよ、その『夜明光』っていうのは。分かってたら襲いはしなかったかもしれません」
 凜々花はそう言いながら、陽日輝とはドアを挟んで反対側、椅子代わりに使われていたであろう木箱に腰かける。陽日輝もまた、先ほどのパイプにもたれて座り直した。
 とりあえずは安全地帯に避難できたので、陽日輝は少し気になっていたことを、凜々花に尋ねてみることにした。
「凜々花ちゃんの、カード投げる力を強化するとかって能力には、どんな名前が付いてるんだ?」
「……ああ、言ってませんでしたっけ。『一枚入魂(オーバードライブスロー)』です。オーバードライブとオーバースローを掛けてるんでしょうかね」
 凜々花は言いながら、ブレザーの左胸ポケットから手帳を取り出し、末尾の能力ページを見せてくれた。

能力名:一枚入魂(オーバードライブスロー)
能力内容:カード型の物体を投擲する能力を強化する。
     「投げる」という動作を取れていれば、
     一度に強化できる枚数は無制限。

 陽日輝が読み終わったタイミングで、凜々花はぱちっ、と手帳を閉じ、
「薄々思ってましたけど、『議長』って人のネーミングセンスは、ちょっと酷いですよね」
 と、肩をすくめてみせた。
「……まあな。漢字に英語の当て字なのも、小中学生の妄想ノートみたいだし」
 自分たちをこのような状況に放り込んだ黒幕であるところの『議長』。
 講堂では明らかに加工された声をスピーカー越しに聞いただけで、未だにその正体に繋がるヒントすら得られていない状態だ。
 男なのか女なのか、若いのか年寄りなのか。
 自分たちと関係ある人間なのか、まったくの無関係なのか。
 ……いや、そもそも人間であるかどうかすら怪しい。
 なんせ、『議長』の言葉を信じるなら、自分たちが今、自分の能力として使っている『夜明光』や『一枚入魂』も、元々はヤツの能力なのだから。
 つまり、持っている能力は少なくとも三百、それ以上。
 外界との間に見えない壁を作ったり、外部の人間の記憶に干渉したり、ルール説明後に自分たちを校内のいたるところに転移させたり。
 そんなことができるような存在が、果たして本当に人間だろうか?
 ――今は、考えても分かりようがないことだ。
「……ていうか、凜々花ちゃんって一年生なんだな」
「三年生だとでも思ってましたか?」
 凜々花が持っている手帳の表紙には、『一年B組 安藤凜々花』と書かれているのが見える。
 面識が無い時点で二年生ではなく、一年生か三年生だろうと思ってはいたが。
「いや、多分一年かなとは思ってたけどな。……あとさ、もう一つ確認いいか?」
「内容にもよりますけど……スリーサイズとかはダメですよ」
「…………」
 表情が変わらないので、冗談なのかどうなのかが分かりにくい。
 生徒葬会という極限状況下でなくても、元々少しずれた子なのかもしれなかった。
「……確認っていうのは、凜々花ちゃんが俺に言ってた、他の人の手帳を拾ったって話。それ、マジなのか?」
「……私が、助かりたい一心で嘘を吐いたんじゃないかって、陽日輝さんは疑ってるんですね。……いえ、責めてはいませんよ。実際、殺したのは三人って言いかけて、二人に訂正しましたし。……あはは、一人殺した時点で、そんなのは同じことなのに、浅ましいですよね」
 凜々花は乾いた自嘲の笑みを浮かべる。
 ……なんだかんだ言っても、彼女も高校一年生の少女に過ぎないのだ。
 こんな状況に放り込まれて、同じ立場の生徒たちとの殺し殺されを強いられ、実際にその手を血に染めて、少なからず参っている部分はあるのだろう。
 陽日輝のその思考を察してなのかどうなのか、凜々花は、
「ですので、それで私の罪が軽くなることは断じてありませんが、私が手に入れた五枚の表紙のうち二枚は、本当に死体から拾ったんですよ」
 と言いながら、手帳に挟まれている、破り取った表紙を床に並べて見せた。
 それから、それら表紙に対応させるように、一枚ずつ別の紙を置く。
 それは、手帳末尾の能力が書かれたページだった。
「陽日輝さんは、能力のページは集めてますか?」
「……いや、集めてないな。俺が持ってる表紙の奴の能力は、拳を突き出したらそこから矢が出現して発射される『矢拳(ボウパン)』、「止まれ」の号令で人でも物でも動けなくしてしまう『停止命令(ストップオーダー)』、それに三本まで刃物を作り出せて、死んだ後でも刃物が残るっていう『創刃(クリエイトナイフ)』だな」
 初めて殺した相手。
 自分の能力を完封し得た相手。
 そして、一年の頃からの付き合いの友人。
 それぞれの殺意の表情が、そして死の間際の恐怖の表情が――印象に残っていて、仮眠未満の休息を取るたび、脳裏をチラついてきた。
 これから殺しを続けていった先――果たして自分の精神はもつのだろうか。
 ……そういえば、最初に殺した田ノ中は一年生だ。
 もしかしたら、凜々花とは面識があるかもしれない。
 それをわざわざ口にするほど、陽日輝は浅はかではなかったが。
 しかし――凜々花が並べた、十枚の紙。
五人の名前と、五種類の能力。
 二年生、つまり陽日輝からしても知らない仲ではない同級生の名前があったのもあるし、思いもしなかった種類の能力があったのもある。
 凜々花は陽日輝が能力のページを集めていないことは別に意外でもなんでもないのか、「そうですか。そうですよね」と呟いていた。
「もしかしたら何かの役に立つかもしれないと思っていたんですけど、無駄みたいですね。……ただ、陽日輝さんから聞いた能力も含めて考えると、本当に多種多様な能力があるようです。私と陽日輝さんの組み合わせなら、近距離と遠距離をカバーし合えますが、私たちが知るたった十の能力の中にさえ、二人がかりでも危険な能力はありましたね」
「……ああ。例えばその『大旋風(トルネーダー)』とかいう能力」
 陽日輝は、床に置かれた紙のうちの一枚を指し示す。
 能力の持ち主は、三年D組の崎下士郎(さきした・しろう)というらしかった。
「グルグル回れば回った分だけ、強いつむじ風を自分の周囲に起こせるって能力だけど、シンプルに強いと思うぜ。俺のパンチも凜々花ちゃんのカードも当てれないだろうし。逆に凜々花ちゃんはよくそいつに勝ったな――回転される前に倒したのか?」
「いえ、彼は私が見つけたとき、すでに死体でした――死体から手帳だけ取った二人のうちの一人です。――校舎の近くで、頭が割れた状態で死んでいたんですよ。見上げれば、屋上のフェンスが真上だけ破れていました。……思うに、屋上で誰かに襲われたか、戦っていたか――そこでフェンスを突き破って転落したんだと思います。だから、彼を殺した誰かは、表紙を奪えなかったんじゃないでしょうか」
「……なるほどな。もう一人も、似たような感じか?」
「……。もう一人は、この子です」
 凜々花は、少し寂しげに目を細め、陽日輝が指している隣の紙を指す。
 一年B組・天代怜子(あましろ・れいこ)。
 能力は『創傷移動(スクラッチスライド)』。
 自分の身体に受けた切り傷や擦り傷、打撲や骨折といったありとあらゆる負傷を、任意の位置に移動させることができる能力らしい。
 傷自体を治癒する効果はないようだが、致命的な部位に受けた傷をすぐさま違う場所に移動させることで、何回か分は凌げそうだ。
 殺傷能力こそないものの、かなり有用な能力であるといえる。
 しかし――陽日輝は、気付いていた。
 『創傷移動』の能力者、天代怜子。
 彼女が所属していた、一年B組といえば――
「彼女は――怜子は、私の親友でした。中学の頃から、ずっと一緒で――高校でも同じクラスになれて、嬉しかったのを覚えています」
「……」
 凜々花は、床に並べた紙をひとまとめにして、再び自分の手帳に挟んだ。
 それから、ぎりっ、と歯を噛みしめて、悔しげに言う。
「私は怜子を探しました。生きて帰るためなら誰だって、何人だって殺してみせる。そう早々と誓った私でも、怜子だけは、殺したくなかった。死なせたくなかったんです。そして私は、三日目に怜子と再会しました。でも」
 凜々花の瞳に、暗く、その上で激しい、ドス黒い憎悪の色が宿る。
 それは、自分と殺し合ったときにさえ見せなかったほどの、強い負の感情。
「怜子は強姦されていました。そのときも夜でしたし、距離があったので、やった奴の顔はよく見えませんでしたが――そいつは、とても愉しげに笑ってましたよ。私が見ていたのに気付いても、すぐには離れずに見せつけるように腰を振っていましたとも。――気付いたときには、私はかるたを手当たり次第に投げていました。でも、一枚も当たらなかった。多分、そいつの何かしらの能力による効果でしょうね。――それから、そいつはわざわざ怜子の腹や胸を踏みつけながら、逃げていきました」
「――――っ」
 あまりにも衝撃的で、あまりにも猟奇的な話に、陽日輝は絶句していた。
 自分が出会ったあの倉条という三年生も、未遂ではあるが同じことをしようとしていたが。
 実際に、そんな目に遭わされてしまった生徒がいると思うと、胸が痛くなってくる。すでに殺しを行っている自分に、そいつを非難する資格があるかというと、それは自信を持てないところではあるが――それでも、反吐が出そうな話だった。
 ましてや、その現場を実際に目の当たりにし、しかもその被害を受けていたのが中学時代からの親友であったという凜々花の衝撃たるや、計り知れないものがある。
 実際、凜々花は、噛みしめた唇から、一筋の血を溢れさせていた。
 彼女の顎の先からぽたりと落ちた赤い血は、スカートに落ちて吸い込まれる。
 紺色のスカートの一点のみが、その濃さを増していた。
「……怜子の姿は、見るに堪えない有様でした。制服も下着もびりびりに破られて、あちこち踏まれた痕があって。殴られたのか鼻血が出てましたし、それに、あの男の汚らわしい精液が、溢れ出ていて……私は、思わず戻しました。怜子の体に吐いてしまわないよう、顔を背けるのが精一杯でしたよ。目の前の光景を受け入れたくなかった。これが怜子だと、信じたくなかった。でも、呼ぶんですよ。私の名前を。私のよく知る、怜子の声で」
 凜々花は、そこで大きく息を吐き。
 それで少し落ち着いたのか、それとも、虚しさが込み上げてきたのか。
 力無く、ぽつりぽつりと、呟くように続けた。
「『お願い、凜々花』」
「『私を、殺して』」
「『もう、嫌なの』」
「『痛くて、苦しくて、死にたいの』」
「――怜子はそう言っていましたよ。見ると怜子の手足やお腹に、いくつも刺し傷がありました。きっと『創傷移動』って能力で、傷をずらして凌いでたんでしょうね。全部あの男にやられた傷なのか、それともあの男に襲われるより前にも誰かから攻撃を受けたのか、今となっては分かりませんが――怜子はもう、心身ともに限界でした。私にできるのは、彼女を楽にしてあげることだけ。……でも、できなかったんですよ。私には、それすらも」
 凜々花が力無く微笑んだのと同時に、その目からぽろりと涙が落ちた。
 ――その滴もまた、血と同じく彼女のスカートに吸い込まれる。
 陽日輝は喉がカラカラに渇くのを感じながら、唾ひとつ飲み込めずに、凜々花の話に聞き入っていた。
「助かる見込みはありませんでした。そして、他ならぬ怜子自身が、私に介錯を望んでいました。『お願い、殺して』『楽にして』『助けて』『凜々花』『頼むから』『死なせてよ』そんなことばかり懇願する彼女の名前を、私は呼び続けました。『怜子!』『しっかりして!』『大丈夫だから!』――そんな根拠もない、気休めにもならない言葉を叫んでましたよ。怜子の言葉に被せるように、怜子の言葉をかき消すように――たとえ介錯でも、怜子に手をかけることなんてできなかったから、だから私は、逃げていたんです。親友の最期という場面においてすら。――怜子の懇願が、どんどん必死さを増していって、同時に、少しずつ弱々しくもなっているのに、私は気付いていました。なのに私は、彼女が私を責めているような気がしてならなくて、そのときにはもう、彼女の言葉を、まともに聞いてなどいませんでした」
「凜々花、ちゃん――」
「――きっと、怜子は絶望の中で死んだんでしょうね。私は彼女の最期の願いにすら応えてあげなかったんですから」
 凜々花は、木箱から立ち上がった。
 その目からは、憎しみの色は見えなくなっていたが。
 それは、消えてなくなったわけではなく、再び彼女の心の奥に、隠れただけなのだろう。
 陽日輝が何も言えないまま、凜々花の顔を見上げていると、彼女は言った。
「私に怜子のことで被害者ぶったり、悲劇の主人公を気取る資格はありません。私はすでに三人殺してますし、生きるためにこれからも殺し続けるんですから。ですが――怜子をあんな目に遭わせたあの男だけは、もしまた会うことができたなら、怜子の倍の苦しみを与えた上で殺します」
 ……陽日輝に、『議長』を一発ぶん殴ってやりたいという、内なる願いがあるように。
 凜々花にもまた、親友を辱めた仇敵に対し、引導を渡したいという強い願いがあるのだろう。
 ――陽日輝には友人はいるが、親友とまで呼べる存在はいない。
 だから、この生徒葬会においても、まだ平静を保っていられている。
 しかし――凜々花はすでに、かけがえのない親友を、最悪な形で失っているのだ。
 凜々花自身が言った通り、彼女もまた、その手を血に染めている以上、ただの被害者では断じてないが。
 それでも、彼女の無念や悔しさ、悲しみ、そして復讐心――それらの感情は、彼女にも正当に、抱く資格のあるものだろう。
「……ごめんな、嫌なことを思い出させたみたいで」
「……いいえ。私も、誰かに聞いてもらいたかったのかもしれません。それで楽になりたかったんですから――やっぱり浅ましいんですよ、ほんと」
「――そいつがもし、生きて俺たちの前に現れたら、俺も力になるよ」
「ありがとうございます。……日付、もうすぐ変わりますね」
 凜々花が、陽日輝の左手首に巻かれた腕時計を見下ろして言う。
 つられて視線を向けると、デジタル文字は23:59を示していた。
 ――あと一分足らずで、八日目か。
 生徒葬会が始まって一週間が経つ、ということになるが、今、何人の生徒が生き残っているのだろう。もしや、すでに『投票』にこぎつけた生徒もいるのだろうか。知り合いのうち誰がまだ生きていて、そして誰がもう死んでいるのだろうか――
 様々な疑問が脳裏をよぎる。
 ――――そのときだった。
 デジタル時計の表示が00:00、つまり深夜零時を示し。
 同時に、ボイラー室の天井の端に取り付けられた旧式のスピーカーが、ジジジ、とノイズを吐き出したのは。
「「!?」」
 陽日輝と凜々花は、同時にスピーカーを見上げる。
 ――その直後だった。
 スピーカーから、聞き覚えのある――決して忘れることのない声が響いてきたのは。
『開会から一週間が経ちましたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。眠っている方は、目を覚ますことを推奨しますよ。これから大事な話をいたしますので』
「『議長』……!」
 すでに立ち上がっていた凜々花だけではなく、陽日輝のほうも勢いよく立ち上がり、拳を握り締めてスピーカーを睨みつける。
 諸悪の根源といえる、生徒葬会の主催者。
 顔も名前も正体も一切不明な、『議長』と名乗る超越者。
 その、明らかに肉声ではない耳障りな声は、こう続けた。

『これより第一回目の、生徒葬会経過報告を行います』
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紗灯れずく 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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