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最終話 ほんとの気もち

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最終話 ほんとの気もち

 月がきれい——そう素直に思えるのは、今この瞬間わたしが幸せな心地だから。わたしはいつかちゃんの太ももを枕にしてベンチに寝転んでいる。まるで恋人同士みたい。恋人ではないけれど。“みたい“。
 恋人じゃない。わたしは女で、いつかちゃんも女。いつかちゃんには付き合ってる男の子がいる。わたしにはいない。わたしはいつかちゃんが好きだと思う。だけど、女の子が好きではないと思う。いつかちゃんだけが好い。出来るだろうか、わたしにも“いつか“。
「気になってること」
「……え?」
「この際だからきいていい?」
「……いいけど」
「いつかちゃん、今もあの子と付き合ってるの?」
「……あの子?」
「あの、し、小六の時、同じクラスの男の子。いっしょに歩いてたよね」
「……男の子? 七夕の委員で、一緒に地主さんに竹をもらいに行ったりしたかな」
「た、竹?」
「そう、竹」
「竹、かあ」
「……へいき?」
「うん。ううん。平気、かなぁ」
「そう……竹、重かったな」
「重いよね、あれは」
「重い……長いし」
「長いよね」
「うん」
「長いと言えば!」
「……ん?」
「わたしたちの付き合いも意外と長いかも」
「……かも、っていうか……長いよ」
「え、だ、断定して、いい?」
「いいよね」
「そう——そうか。うん。長いよね。もう、二年以上だもんね」
「……二年?」
「ち、違う?」
「……私の中では違う。私はすずねちゃんのこと、もっと昔から知ってた」
「マジ?」
「小学一年の時も同じクラスだった。鈴の音ですずねちゃん。可愛い名前だなって……思ってた。羨ましかった。感情が動いたことは忘れない」
「わ、わたしは……小一の記憶が、ない」
「私も、すずねちゃんのことしか覚えてない」
「そう、なんだ」
「……暑いの?」
「た、体内が東南アジアになってる」
「?」
「あ、ご、ごめん。あ、汗かいてきた。気持ち悪くない?」
「……何にも感じない」
「後頭部が汗かいてる気がして——気のせい、か?」
「気のせいだよ、きっと」
「気のせいだね」
「すずねちゃんは、たくさんいろいろ考える人だよね。だけど、きっと大丈夫」
「ダイジョウブ?」
「かなえちゃんは、一年生なのにサッカー部のレギュラーだよ。心配ないよ」
「……か、かなえちゃんのこと、知ってるの?」
「中学になってから怖くなったよね。何人かですずねちゃんを囲んでるところ、見たことあるよ。助けられなくてごめん」
「……ああいう人たちは、助けようとした人まで潰そうとするから。よかったよ、ヘタに助けなくて」
「かなえちゃんも、今、毎日泣いてるって聞いた。練習が辛いんだって。人は、人を辛い目にも遭わせるけど、同時に自分が辛い目に遭うこともあるんだね」
「いつかちゃんが無事で、よかった」
「……そう考えると、人生ってある程度は平等なのかもしれないね」
「そうかな……あ」
「……どうしたの?」
「今日、発表だったの。自由律俳句コンテストの結果」
「応募したの?」
「そう。内心、入賞してるんじゃないかって……期待してるんだけど……」
「……どう? 名前、ある?」
「……ううん、人生は、やっぱり不平等なんじゃないかな?」
「……それでも、続けてみたら?」
「……いつか、報われるかなぁ」
「分からないけど、続けてみたら」
「…………うん…………」
「続けて欲しい。すずねちゃんの笑顔が見たいから。続けて欲しい——すずねちゃん? 寝ちゃった? あのね、すずねちゃん……私はね、すずねちゃんが大好き。本当の友達。あなたがいてくれたから。あなたが私の心を救ってくれたから、今こうしていられるの。色々あるよね。大変だよね……私が、あなたを同じように助けられるか、自信はないけど……でも、あなたを助けたいと、思ってる。この気持ちだけは、きっと本当。すずねちゃんは、恥ずかしそうに、でも、真正面から、私のことを好きって言ってくれた。それが、本当に嬉しかったんだよ。すずねちゃん……私も好きだよ。だけど、あなたの目が開いているときには言えないの。情けないね。だけど、いつか……この言葉は好きじゃないけど……いつか、偽りのない本当の気持ちを……諦めないでね、すずねちゃん。その時が、来るまで」


あとがき


今村夏子先生の『星の子』という小説を読んで、パクりたい気持ちがムクムクと頭をもたげまして、この小説を衝動的に立ち上げました。ですが、図書館で借りて読んだゆえに、常に本が手元にあるわけでもなく、記憶は日々薄れていくので、結局別物になったと思います。そもそも同じになるわけもないのですが……。少女が特殊な環境で生きているところくらいでしょうか。共通点は。純文学なら普通の設定か……。
色々忙しかったりテンションが落ちたりでここ数か月は『土の中』も含めて何も書けなかったのでこの有様です。波がありますね。ないに越したことはありませんが、あるからこそ勢いで書けたりするので良し悪しだなと思います。もっとも1:9くらいのバランスかもしれませんが。
自由律俳句の企画はこの小説を書いている途中にラジオを聴いていて思いつきました。また新しいテーマを考えて例文を書きたいです。もちろん『川崎麻世子~』の原作も書きたいです。あと、最近増えてきている漫画原作のコンテストにも出したいですし、小説もまた新作を書きたいです。
断定しないのは、時間も体力も余裕があまりないからです。

令和4年10月8日 藤沢
15

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