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◆11話(2-4)

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「あいつ、何だっただろうね?」

「不思議なスキルを使うみたいですね……」

 事の成り行きを一部始終見ていたラズとセレナは、顔を見合わせてそう言った。
 体がまっぷたつになった時はさすがに恐怖を感じたが、ククルの演出だと分かってホッとしているふたり。
 彼に対しての考察が始まっていた。

「石や砂を操ったりする『スキル・大地』じゃないかな?砂に変わったアレは偽物で、近くで操っていたんだよ」

「でも『スキル・大地』の種族って、ザザさんみたいに体が大きな方たちなのでしょう?」

 ラズの推理にセレナは首をかしげる。


 確かにククルと言う男は背が高いと感じたものの2mを超えているとは到底、思えない。

 ザザの身長は2m半足らずで話によると、それでも彼は種族の中では小柄なほうらしい。
 だから『大地』『植物』のスキル獲得者は、その体格から外見で分かる獲得者の中のひとつのだ。


「しゃべらせているだけの人形だもん、自分に似せる必要はないと思うよ。ね、ミカゲさん」

 ラズはミカゲに同意を求めるように話しかけた。
 しかし返事がない。

 見ると、ミカゲはあくびをしながらザザのリュックへと歩いている最中だった。

 聖興軍が攻めてきたので起きていたとはいえ、今は昼食を終えたばかりの昼下がりの時間帯。
 夜型のミカゲにとってはまだ就寝時間中なのである。
 緊張が解けて急激な眠気がきたらしい。

 ザザもそれに気づいてリュックを開けて待っていた。

「あ、そっか。ミカゲさん、おやすみ~」

 ラズは苦笑いしつつミカゲに手を振った。



 ミカゲがリュックに入り程なくした頃、中から寝息が聞こえてきた。
 そのタイミングでザザは気になっていたことを仲間たちに切り出す。

「これからどうしようか?ククルって人から「しばらく待て」って言われてるんだけど……」

「いやなんで俺らがあいつの言うことを聞かなきゃなんねーの?無視一択だろ」

 ククルの思い通りになるなんて冗談じゃないと、カツマは即答した。
 それに便乗するかのように、なにかと対立するラズも珍しくカツマの意見にうなずいている。

「僕も同意だね。それに「アジトに招待」ってなに?怪し過ぎるんだけど」

「知らない所に連れて行かれるんですよね……怖いです」

 セレナもここで待つのは消極的なようだ。

「……とすると」

 ザザはみんなをじっくりと見回しながら続ける。

「迎えが来る前に、ここから逃げよう!」



     +++++



 その頃、ククルのアジトでは先程の出来事の一部始終をククルは話していた。
 そのうえ彼は、ミカゲのスキルや一緒に旅をしている仲間たちのスキルなど、昨日の夜とは比べ物にならないくらい事細かに説明している。

「アニタが倒された!?」

 ククルの報告を聞いていたフージンは耳を疑った。

 自分たちはそのスキルの高さを買われ、門番のような仕事をしているのだ。
 そこらのちょっと強いスキル獲得者とはわけが違う。

「ああ、まさに一瞬だった。さすが『時間』の獲得者だな」

 あごに手を当ててククッと冷たく笑うククル。

 フージンは、しばし絶句していた。
 確かに意見は対立していて仲が良いとは言えなかったが、倒されたとなるといい気持ちはしない。
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「……10年前までは仲間だったはずなのに、スキル獲得者同士で戦うなんてさ。種族の数だって年々減ってきてるのに。アニタのスキルだって俺の知る限り、彼女ひとりだったんだよ。なんでだよ……」

 ぽつりぽつりとつぶやくように言葉を並べるフージン。
 いくら言葉を並べたところで、アニタが生き返ることはないのだが。

「『テラの精神』は俺も理解しているつもりだ。世界は広い。『芳香』のスキル獲得者もどこかで生きているさ。ただ、あの女だけは無理だった。ミカゲが倒さなかったら、いずれ俺が倒していただろうな」

 ククルの眼の奥が鈍く光る。
 フージンは彼の言葉に不可解な面持ちになった。

「……どういうことだよ?」

「ある幹部からの指令で、俺たちを探っていたからな」

「探っていた?……って、別に探られても問題ないだろ。俺らはちゃんと仕事をこなしてるんだからな」

 ククルの発言をいまいち理解できていない様子のフージン。


 相手を倒すか倒さないかで揉めてはいたものの、聖興軍の領地に入れないという指令を実行していることに変わりはない。
 文句を言われる筋合いはないはずだ。


 見当違いのことを考えているフージンを安心させるかのように、ククルは話を続けた。

「仕事のことではなく、ミヅキ様と俺の事を探っていたんだ。お前には関係がない話だよ」

「ああ、ミヅキ様もお前も秘密が多そうだもんな。……隠れて危ない橋を渡っているんじゃないだろうな?」

 そう言うとフージンは大きなため息をついて心配そうに付け加える。

「命は大切にしろよ」


 実際、ミヅキとククルは謎が多い。
 とりわけククルに関しては一体どんなスキルなのかさえフージンは知らなかった。
 ……もちろん、強力なスキル獲得者であることは確かなようだが。


 彼の忠告にククルは、ただ笑っているだけだった。

「そう言えば、ミヅキ様はどうされたんだ?今日はお見かけしていないな」

 フージンは周囲を見回しながらそう言う。

 この場にいるのは3人。
 フージンとククルと、部屋の隅でじっとしているサラサだけだ。

「今朝早く本部から招集の連絡が来たので、ミヅキ様は戻られた。しばらくは城に滞在されるらしい」


 そのほうがいいのかもしれない。

 ミカゲに会うのは、今のミヅキ様にとってかなり酷な話だろう。
 今のミヅキ様の立場は、国王軍だった者から見れは裏切り者である。
 セレダの村を守るという国王陛下の命令を実行しているミカゲと、どう向き合えば良いか迷われているに違いない。


「ふーん、幹部って言うのも大変だな……」

 フージンは頭をかきながらそうつぶやく。

「それより、ミカゲたちを今からここに連れてきてくれ。大人数を短時間で連れて来れるのは、お前しかいないからな」

 と、そこまで言ったククルは何かに気付いて言葉を続けた。

「……やはりあいつら、動いているようだな。迎えを出すからその場で待てと言ったんだが。フージン、さっき言った場所から南の方へ移動している。頼んだぞ」

「ああ、任せろ。空を散歩がてら丁重に連れてきてやるよ。……ミカゲに会うのも楽しみだな」

 そう言うとフージンは遠い日に思いを馳せるような目をしてフッと笑った。



     +++++



 ククルと対峙したあの場所から逃げるように移動して、しばらく経った頃。
 カツマたちは落ち着きなくしきりに周囲を見回していた。

 ククルは迎えを出すと言っていたのだ。
 迎えに来たのにその場にいないことが知れたら、聖興軍総出で探しに来るかもしれない。
 そう思うと気が気でないのである。

「あの場所から随分離れたと思うんだけど……大丈夫かな」

 やはり心配でたまらないザザは不安そうにカツマに聞いた。

「大丈夫だろ。これだけ離れていれば見つからないさ」

 最悪見つかっても戦うだけだ。
 カツマはそう思い、腰に差している剣のさやをギュッと握りしめた。

「関所を通ろうとしているのがバレてるから、違う道を歩いてるんだけど。……そもそも、どうして僕たちが軍の領地に入ろうとしているのがバレてるの?」

 誰もククルと面識が無いようだし、もちろん聖興軍と関係がある者がいるはずがない。
 ラズが疑問を持つのも当然の話。

 隣にいたセレナもそれを聞いて考えていた。

「ミカゲさんを「要注意人物」と言って詳しそうでしたからね。もしかしたら聖興軍から監視されているのでは?」

「監視かぁ。ククルって人、何だか分からないスキル持っていたし。あり得るね」

 身震いをし不安げにキョロキョロするラズ。
 セレナも先程の砂になって消えたククルの様子を思い出して、急にうすら寒くなる。

「ええ、本当に……不思議なスキルでした」

 彼女がそう言った直後、みんなの背後から聞き慣れない男性の声がした。

「そうなんだよな。不思議というか謎というか……とにかく得体の知れないヤツなんだよ」

 セレナを始めみんなが驚き、いっせいに振り返る。
 見るとそこには腕を組み、首をかしげて考え込む青年が立っていた。

 彼らと目が合った青年は人懐っこく笑う。

「一緒に仕事を始めて随分と経つけどさ。この俺でさえ、あいつのスキルが分からないんだ。君らが悩むのも当然だな」


 ククルの仲間か?
 あんなに警戒していたのに、もう見つかってしまった!


 彼らの中に激しい緊張が走った。

 しかし辺りを見回しても、この青年以外誰も見当たらない。
 聖興軍が総出で追いかけてくるのを覚悟していた彼らは、少し戸惑った。

「……お前、あいつの仲間か?」

 克磨の疑問に青年はうなずく。

「ああ、そうだよ。俺の名はフージン。ククルの頼みで君らを迎えに来たんだ」

 それはそうと、と前置きしてフージンは続ける。

「君らなんであの場所から動いたの?ここ森の中だし、木々に邪魔される空からの捜索は面倒なことになってた。ククルが気付かなかったら探せなかったかも」

「俺たちはお前らのアジトになんか興味ねーんだよ。一刻も早く軍の領地に入って、親父の仇を取るんだ!」

 彼の愚痴にも似た発言に、カツマがかみついた。
 それを聞いてうなずくフージン。

「そうなんだ、お父さんの仇か。……でもさ、君ら通行証を持ってないんだろ?どうやって関所を通るつもりなんだよ?」


 それはみんなが思っていることだった。

 スキル獲得者は軍との契約を交わさないと通行証を発行されない。
 軍との契約を交わすというのはつまり、軍の配下になるということだ。

 関所を通りたいけど契約はしたくない。
 みんなにはこのジレンマがある。


「だから俺らは、そのあたりの事をじっくりと話そうと提案をしているんだよ。悪い話じゃないと思うんだけど?」

「聖興軍と話す必要はねーよ!!お前、しつこいぞ!!」

 聞く耳を持たないカツマはフージンを指し怒鳴りつけた。
 カツマの指の先にいるフージンは困惑の表情を浮かべる。

「快く一緒に来てもらうのがベストなんだけど、そうもいかないか。……じゃあ、ちょっと強引にさせてもらうね」

 そう言うと右手をかざして精神を集中するフージン。

 いきなりつむじ風のような渦状の風が吹き、4人を包み込んだ。
 そしてそのままみんなを持ち上げたのである。

「なんだ?どうなってるんだっ!?」

 自分の体が宙に浮いて一気にパニックになるカツマ。
 その慌てふためく様子を見て、笑いをこらえながらフージンが注意をした。

「きみ、あまり暴れないほうがいいよ!風の外に出たらそのまま落下するからね」

 彼らの体はぐんぐん上昇していき、森の上空に達した。
 眼下に広がるのは今まで歩いていた森。
 その森がまるで鮮やかな緑のじゅうたんのように足元に広がっている。
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 カツマはいまいましそうにフージンをにらみつけた。

「……これが、テメェのスキルか」

「ああ『スキル・風』だよ。よろしく」

 4人とは別の風に乗って並走しているフージンは、手を振りながら笑っている。

「『スキル・風』ですか……」

 そう言うセレナの顔がみるみる青ざめていく。
 そして彼女はフージンを避けるように距離を置いた。
 心なしかザザの陰に隠れて震えているようにも見える。

 彼女のその様子に気付いたザザは声をかけた。

「セレナさん?」

「あっ、……ええと、高いですよね。足がすくんでしまいます」

 セレナは戸惑いながらも笑顔を作った。


 その横でフージンは、じっとザザのリュックを見ていた。
 ククルからミカゲの事を聞かされていたからだ。

 もしかしたら一生会えないかもしれないと思っていた人物が、目の前にいる。
 彼は期待でワクワクしていた。

「そのリュックの中にミカゲがいるんだよね。夕暮れになると起きてくるのかな?会えるのが楽しみだよ」

 フージンの言葉にラズは眉をひそめ不安な表情になる。

「ミカゲさんを知ってるの?……やっぱり「要注意人物」で監視されてるってこと?」

「監視?……ああ、ククルは君らの行動に敏感だね。監視されているのかも」

 ははっと陽気に笑ってフージンは続ける。

「俺は違うよ。子供の頃からずーっと、ミカゲに会いたかったんだ」
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