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<第一章 悲しい神>
満月は常は光っている。それに続いて、街灯もうち光り、周辺をぼんやりと照らしていた。灰黒いアスファルトの道を照らす。
 天気は雨。それも多くの雨粒が生き生きとしている日だ。雨粒が灰黒い道にグチャグチャと打ち付ける。それに続いてサーッサーッと静かに雨水は声を出していた。雨水ますに予定通り雨水が入り、ぽちゃぽちゃと音を鳴らす。音と音が組み合わさって心地良い環境音を作り、鳴り続けている。溜まった雨水にも雨が入り、円を作り出していた。雨水が道全体を侵食し、街灯が照らして白く光っている。道路の真ん中には、大きな水たまりがあった。道路がアスファルトのせいで、水が抜けないからだろう。黒い水面が夜空を映し出して鏡面のような美しい光景を作り上げている。その水たまりには、雨粒の波紋が絶え間なく生まれていた。
水溜まりに満月が写り込んでいる。満月は常は光っている。それに続いて街灯もうち光り、周辺をぼんやりと照らしていた。灰黒いアスファルトの道を照らす。
天気は雨。それも多くの雨粒が生き生きとしている。
星々は何百年という命を持ち、輝いていた。
黒い靴、黒いハット、黒いマントをきた男が、泥々とした道を闊歩している。その前にも男がいる。
悲しみは絶えない。この命というものがある次第、ずっと悲しみは開いたままだ。この美しい景色は悲しみと命にしがみつく生き物たちによって生まれる。男は淡々と歩き続けている。
男の後ろには、人ではないものが歩いている。それは黒いマントを羽織り、黒く長い帽子を被ったもの。顔はなく、目がある場所にはただ黒い穴だけが空いている。四本の腕を持ち、それぞれに手を黒々しいなにかを持っている。
彼は後ろを振り向かずに言った。
強い怒りを抑えた声で言った。
雨音よりもか細い声で言う。
雨の日に降る雨粒の一滴のような声だった。
その声からは悲しみと怒りが感じられた
「おい。お前は悲神だろう」
「やさしさは時に邪魔だ」
人でないものは黒々しいなにかを振り下ろした...
「お前は俺の友達だろ」
「俺は人間だ」
悲しみと怒りに震えながら、男は言う。
雨音よりもか細い声で言う。
その声からは悲しみと怒りが感じられた。
雨の日に降る雨粒の一滴のような声だった。
「やさしさは時に邪魔だ」
男は、黒いマントを羽織り黒いハットを被ったものに向かって言った。
「俺は人間だぞ」
人ではないものは黒々しいなにかを振り下ろした……
「お前は俺の本質なのだ。」
黒いマントを羽織り黒いハットを被ったものは黒々しい何かを振りかぶった。
と、同時男は倒れた。男の目に映ったのは、雨に濡れるコンクリートの地面。赤い血が染み込んだ灰色のアスファルト。雨水と混ざり灰色になる赤い血。
男は自分が死ぬのだと悟った。悲しみと怒りが混じり合った雨の中で自分は死ぬのだと悟った。そして、死んでいくのだと悟った。
男が最後に見たものは満月だった。満月は常は光っている。それに続いて街灯もうち光り、周辺をぼんやりと照らしていた。灰黒いアスファルトの道を照らす。
「今、悲しいだろう。これがお前の本質だ。やさしさという濁った感情は捨てろ」
街灯が打つ光る。星々もまた光っている。夜は輝きに、闇に、悲しみに満ちている。この世界の半分は悲しみだ。
黒くなる赤い血から、黒いマントを羽織り黒いハットを被ったもの(悲神)は黒い煙のようなものを抜き取っていた。黒い煙を悲神は吸引し、輝く星々へと
消えていった。男の顔は目玉が抜き取られていた。悲神という存在は、人が死んでから生まれる存在。人は死ぬと何も成し得ていないと嘆き悲しみ、また悲しむ。
その感情こそが悲神を生みだすエネルギーとなり、天へと消えていく。天に昇った悲神は雨となり地に降り注ぐのだ……
男は目を瞑る。雨が顔にあたる。
雨粒が自分を洗い流していくのを感じる。
男は目を瞑る。雨が顔にあたる。
雨粒が自分を洗い流していくのを感じる。
男は「ふっ」と鼻で笑い、魂が消えていった。
<第二章 対面>
悲しみは昼になると、ほかの感情に混ざり合う。
男が死んでいることを聞いた親友のアンド・レイクはすぐさま現場に行った。
雨粒は昼になると消えていた。水たまりだけだ。
アンド・レイクは走り、走り。茶色のスーツが汚れようと走った。水溜まりの光景は昼にはなく、夜には現れ、悲しみを生む。
アンド・レイクは着いた。
そこに男の姿はなかった。
ただ、血の跡と水たまりがあるだけだった。
アンド・レイクは言った。
悲しみがまたひとつ増えた……と。黒く固まった血の跡には、固く固まった紙があった。
そこにはこう記されていた。
「悲神が現れるとき。牛が三つ。」
死に際に書いた彼なりのジョークだろう。丑三つ刻、丑三つ刻だ。アンド・レイクは、笑いながらその紙を握りしめて泣いた。もう、彼に会えないことに悲しみながら泣くのだった。そして、彼は誓った。悲神を憎み続けることを……
この世界には人間が生きている限り悲しみが生まれるだろう。だから、アンドレイクは悲神を憎むのだ。
男は目を瞑る。雨が顔にあたるのを感じる。小雨だ。雨粒が自分を洗い流していくのを感じる。男は目を瞑る。雨が顔にあたるのを感じる。雨粒が自分を洗い流していく。
おい。待つんだアンド・レイク。これが悲神が望んだことでは?...そんなことは知らず、重力に重く引っ張られる感覚を鈍らせながらこの黒く重い地面を闊歩した。
二階建ての家。アンド・レイクの家だ。鏡を見て、ひどく困窮した顔に自分であざけ笑い、コーヒーをたしなむことにした。地球に引っ張られる顔たち。
コーヒーは無情にもこのアンド・レイクの顔を映していた。アンド・レイクは、コーヒーを飲む。
鏡を見て、ひどく困窮した顔が歪んでいることに気づいた。そして理解したのだ。この無情に映し出す黒い世界は悲神によって作られたことを……
だからまた顔をゆがめた顔たちにあざけ笑った。それを面白がるかのように鏡は黒く深い闇の表情を移していた…
1932年7月25日月曜日夜6時24分半の夕立ちを見たものがいたという。その夕方見たものによるとそれは...
鮮やかなグラデーションを作った後、海は薄ら、薄らと黒い波が泳いできた。闇が空を塗りつぶしていく。笑いながら、笑いながら...
なぜだかわからないが、この現場にいた人は、血の跡だけ。死体は何も残されなかった。アンド・レイクは泣いた。7月25日。夕立ちが降ったその日。夕立ちの後には、清々しさと無情さが残る夜が来たのだった……
1932年7月25日月曜日夜9時24分半。アンド・レイクはこの時ほど不安感じる1時間はなかった。
これが死への恐怖だということを知った。この恐ろしさに耐えられなくなったとき、人は叫びだすのだ。
それは真夜中の2時半頃のことだ……
アンド・レイクは起きた。目の前に牛が三匹いた。玄関にその牛は佇んでいた。牛は、目玉が出てきて、不快な音を出しながら大粒の雨は暗闇をぽつりぽつりと濡らしていた……そして、家は無音だった……いや無音が支配していたと言ったほうが良いだろう。静寂が家を支配しているのだから。アンド・レイクはその静寂に耐えきれず叫んだ!しかし。
これが丑三つ刻だ。ここでこの静寂に耐えられずにいたら殺されてしまうかもしれない。そこに気が付いたアンド・レイクは黙りながら茶色のスーツを着、男が死んだ現場へと向かった...夜中。この町は闇と静寂に帆織り込まれている。何もないじゃないか。悲神は彼の幻想か?アンド・レイクは胸を撫でおろし、帰路に行こうとした...
が、彼は肩に相当な違和感を感じた。その違和感は少しずつ重くなり、フッと見ると、黒い何かがいる...アンド・レイクは悟った。これは悲神であると……そして、逃げた!黒く得体の知れないものから彼の目は鋭かったが恐怖に満ちていた……それは海の波のように夜を支配した悲しみの色だ。彼は逃げるのだ。目を瞑りながら、汗を流しながら走るのだ……海の上を走るように、しかし、その海には黒い何かがいたのだった……悲神は彼を追い続けるだろう。
家に着いたアンド・レイクはすぐさま玄関に駆け込みドアをロックし鍵を締めた...
しかし、悲神はいたんだ...
<第三章 優しさと...>
「おい。悲神よ。」
恐怖に怯えながらアンド・レイクは喋った。
「なんだ。お前も見えているのか。だから不自然な動きを...」
「ああ。見えてるよ!お前を殺らなくちゃいけないんだ!!」
アンド・レイクは目を瞑り、悲神に噛みつくように喋った。
「そうか。」
「しかしよ!」
アンド・レイクが喋り出したときには悲神は消えていた……いや移動したのだろう。彼は気づいてないだけだったのだ。おそらくリビングに移動しただけだろう……そして、その移動の速さは音速をも超える速さだったことを彼は知らないのだった……
アンド・レイクは玄関から入りリビングに入った。
「っう!」
ひどい悪臭。悲神の影響か?よく見るとリビングは黒く染まっている...
「お前...はぁ!!」
悲神は驚愕する顔をして、怯えていた。悲神の目線にはアンド・レイクが立っていたのだった。
アンド・レイクは目を開いた。そこにいるのは血塗れの人間が立っているはずだと……しかし、そこにいたのは牛だった。目は出ており、顔は黒ずんでいる。悲神は語り出した。
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「私はただ、彼の中に居ただけなんだ……悲しくて辛くて一人ぼっちの彼を慰める、それだけだったんだ。なんであんなことになってしまったんだろう。悲しいよ。
悲しみを分けあって慰めあったのに……どうしてはががががががぁ!!」
「うるさい!言い訳をするな!お前の独りよがりの行動で何人死んだか!」
悲神は床に倒れこみ、眩い光に包まれた牛に吸収させた。その牛は黒い煙となり...
「神は死んだ。友よ。これがお前の臨んだ道か。」
<第四章 悲神よ>
35年後。
アンド・レイクは精神病院にいた。アンド・レイクは、悲神を憎み続けた。
そして、35年が経ち、彼は精神病院にいた。
彼の前に現れたものは、黒いマントを羽織り、黒いハットを被ったもの。人ではないもの。それは牛だ。
アンド・レイクは目を瞑った。
すると、牛の目玉がアンド・レイクに吸い込まれた……
アンド・レイクは目を開けた。その目は赤く充血していた……そして、彼は言った。
「あぁ。行かなければ」
牛は眩い光に包まれ、アンド・レイクは黒し煙となり、光に包まれて消えた...その黒し煙は、哀愁と復讐の色を含んでいた……

以後、彼の姿、存在はなくなり、ベッドには血の跡しか残っていなかったという...
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