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荒涼たる大地が広がっている。
死に絶えてしまっているのか、どこかに潜んでいるのか、生物の気配はない。
少なくとも、人間が生存できる気温ではない。とても暑いのだ。
汚染された土壌は、薄い紫や黄緑に染まっている。
見渡す限り、動くものもなく、聞こえる音もない。
静かな、汚染された世界である。
突如として、その静寂に不釣合いな物体が現れた。
動くもののない世界で、その物体だけが、まるで弾丸のように、猛烈な速度で動いていた。
それは鎧を纏った弾丸のようであった。
それは、黒い鎧を纏った二輪車(バイク)なのである。

猛烈な速度で走る鎧を纏ったバイクは、その速度に反して、ほとんど音を立てていなかった。地面から、僅かに浮いているのである。
耳を済ませれば、ヒィィンというハイパーイオンエンジンの駆動音が聞こえるかもしれない。
もしくは、そのバイクが通過した後に巻き上げられた粉塵の、パラパラという落下音が聞こえるかもしれない。ただ、それだけである。
猛烈な速度の割には、恐ろしく静かであった。

正確には、動いているものは他にもあった。
バイクと、粉塵と、雲や、太陽である。
大きな雲は、ゆっくりと流れていく。
大きな太陽は、随分と傾いていて、もうすぐ遠くの海に沈もうとしている。

鎧のバイクは、太陽を追いかけるように走っていく。
しばらくすると、計算し尽くされた完璧な減速ののち、崖っぷちギリギリに、バイクは見事に停車した。
そこは荒涼たる大地の、南の最果てであった。

『到着いたしました』
男性とも女性ともつかない合成音声が流れ、鎧の上部がスライドして、中が見えた。
リクライニングされた椅子は、高級で寝心地の良いベッドのようだ。
その椅子に、少女が横たわっていた。
フワフワとしたピンクの髪に、白いワンピースを身にまとっていた。
透き通るような肌に、大きな瞳は輝く宝石のようだ。
少女は上体を起こして言った。

「降りれるかな?ダプニス」
『残念ですが、それは叶いません。』

少女の問いかけに、ダプニスと呼ばれた合成音声は淡々と答えた。
バイクの上部は開き、外の景色は見えるものの、少女の周りは、ほとんど目に見えない薄く透明な強化ガラスで覆われており、完璧な空調が施されている。

『申し訳ありませんが、景色はここからご観覧ください、ガブリラお姫様』

合成音声の言う通り、空気の汚染が激しく、ガラスの外では、少女は生存できないだろう。

「ここも無理かぁ。そうかと思ったけど。ワンチャン、聞いてみた」

そう少女は答えたのち、再び静寂が訪れた。
少女は膝を抱え、少しななめ前方を見つめている。

太陽が海に沈みそうだ。
真っ黒な海の、太陽に照らされた部分だけが、黄土色に輝いている。
皮肉なことに、汚染された大気は、夕焼けを殊更鮮やかにさせる。
空が狂ったようにピンクに染まる。

太陽がみるみる沈んでいく。少女はじっとそれを眺める。

太陽が沈んだ反対の空から、夜があらわれる。
まるで夜も、太陽を追いかけているようだ。

真っ黒になった世界で、星々が輝き出す。
光るものは星々と、それを見つめる少女の瞳だけだ。
少女はふたたび横たわり、いつまでもいつまでも、輝く夜空をみつめていた。
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