ある百姓がほら穴の中のヘビから声をかけられました。
「お百姓さん、助けてください。
ほら穴の入り口を蓋している岩をどけてくれませんか」
ヘビは小さいころにほら穴の中に閉じ込められて大きくなったので、脱け出せないというのです。
「お前を助けたら食われそうだからいやだ」
「絶対にそのようなことはいたしません」
百姓はほら穴の岩をどけました。
するととぐろを巻いていたヘビは少しずつ体を伸ばしながらほら穴を出て言いました。
「ああ、腹が減ったなあ。おい百姓、ひとつお前を食ってやろう」
「それは約束が違う。このことを誰かに裁いてもらおう」
「承知した」へびは言いました。
***
2人は道中、やせこけて死にそうな犬に会いました。
2人の言い分を聞いたあと、犬が言いました。
「わしは忠犬じゃった。
じゃが、老いて使い物にならぬとみるや、主人はわしを捨てよった。
人間というものは自分勝手なものじゃ。へびよ、お前が百姓を食おうと罪にはならんわい」
2人は犬に別れを告げて、また歩き出しました。
今度はやせこけて死にそうな馬に会いました。
2人の言い分を聞いたあと、馬がこう言いました。
「わしは忠馬じゃった。
じゃが、老いて使い物にならぬとみるや、主人はわしを捨てよった。
人間というものは自分勝手なものじゃ。へびよ、お前が百姓を食おうと罪にはならんわい」
***
「オイラの負けだ」と百姓は言いました。
と、そのとき遠くの岩の上できつねが座っているのを見つけました。
「きつねさん、こっちへ来ておくれ。
オイラの命がかかっているほど大事な問題なんだ」
「どうぞおっしゃってください。
ここで充分聞こえますから」
百姓はヘビとの間に起きた出来事と、犬と馬の裁きのことを話しました。
「それは獣の裁きにすぎませんよ」
「ある事件を裁くには、きちんと実地で調査をしなくては。
2人とも、そのほら穴とやらを調べに行きましょう」
きつねはヘビに言いました。
「さあ、あなたのいた場所に入ってごらん。
あなたが百姓に助けを求めた時の状態をこの目で見たいのです」
ヘビがほら穴に入っていきますと、百姓にもとどおり岩で蓋をするように言いました。
そうして再びヘビがほら穴に閉じ込められてしまったあと、きつねはこう言いました。
「さあ、もう構わないで。
助けてあげさえしなければ危険な目には遭わなかったのですよ。
あなたも、わたしが助けてあげたからよかったものの……」
***
百姓は言いました。
「きつねさん、ありがとう、感謝いたします。
村へいらっしゃってください。
一番太った鶏を差し上げます」
「さあね……
あなたと一緒であってもなくても、村へ行く気はありませんよ。
犬どもに追いかけられたくはないのでね」
「それでは、ここでお待ちになってください。
肉を持ってまいりますから」
少し経って百姓は袋を持って戻ってきました。
きつねは、
「何を持ってきたんですか」
「あなた様のための鶏一羽とひよこ2羽でございます」
「まさかだますつもりじゃないでしょうね」
「絶対にそのようなことはいたしません」
きつねは袋を背にして走り出しました。
袋から猟犬が飛び出し、きつねを追いかけ回しました。
きつねは一目散に逃げながら歌いました。
かみ手へ逃げろ
この偽りの世の中にゃ
本当にわなしかありゃしない