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何時、どんな時代でも、そこには彼のような

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 ツレの拳法家が、何か不可思議芸術のような格好で氷漬けにされたのが、約三十分ほど前の話だ。
 更にその三十分前には、圧倒的な破壊力と反則的な使用頻度を誇る大魔王のゲンコツを連続で打ち付けられたツレの戦士が、糸が切れたパペットのように崩落ちた。
 更にその三十分前には、戦闘開始早々馬鹿みたいに燃え盛る炎の息で炙られたツレの魔法使いが、自慢の髪の毛をたわしのようにされてドミノ倒れした。
 何故かここまでの一連の流れの中、一度も大魔王の怒りの暴挙の牙にかかることが無かった俺、勇者なのだが、既にその理由は、三生ほど前から判明している。
 何故なら今俺は、玉座に座って、必要以上に胸を張ってふんぞり返っている大魔王の目の前で、正座をさせられているからだ。

 解りやすく言えば、それは説教だ。


                  ・


「誰が運んでやってると思ってんだそなた、本当にさ」
 遺体のことだろう。
「確かに我はさ、何度も『そなたらのハラワタを食い尽くして~~』とか言ってっけどさ。やるわけ無いじゃん、実際? そういうのは倫理とかそういうのでヤバいってくらいわかんだろ? 別にそなたらが生き返りやすいからとかそういう理由じゃねーんだからよ」
 氷漬けとか丸こげはアリらしい。
「大体そなた、その鎧とか剣だって我のじゃん。盗んなよ勝手に」
「いや、はい……確かに貴方の城のB2Fにて拝借させていただきました」
「っつかそれ、ダークドラゴンが一緒に入ってたろ? どうしたんだよ、ダークドラゴン?」
「いや、あの……吹いてきたんで、火とかそういうの……んで、やったっていうか……」
「『火とか』じゃねーよそなた、それ強盗じゃねーかよ。泥棒よりタチ悪いよ」
「はい、すんません」
「謝んなら最初っからすんなよ」
「すんません」

 実際、三回目の説教だ。さながら、道具屋への仕入れの量を間違えて怒られている気分になる。
 大魔王が怒るのも、最もである。俺だって同じ境遇になれば、手ぐらいは出るのかもしれない。大魔王のように火とか吹雪とか吹ければ、或いはそれもするかもしれない。
「え、何、何で? 何でそんなことすんの?」
 大魔王が、胸元からショートホープを取り出して、鼻息で火をつけて吹かす。「何で」とは、平たく言えば「何で我を殺そうとしてんの?」ってことだろう。
「いや、何でってか、王様が……」
「え?」
「王様がその、『世界を滅ぼそうとしてるから』とか何かそういうの言ってたんで……」
「聞こえねぇよハッキリ喋れよ」
「はいすんません、王様に命令されたからです」
「命令されたらそなた人殺すのかよ」
「いや、人じゃないかなーって……」
「うるせぇよ」
「すんません」
 生まれたての子馬のようにヘコヘコと謝る俺に向かって、大魔王がショートホープの煙を吹きかけた。臭い。

「大体そなたんとこの、王様? ってのもあれだよ、頭おかしいんじゃねーの?」
「いや、自分も何ていうか、前々から『あれ?』って思ってた部分はあったんすけど……」
「殺すか普通? え、世界? 世界が何だって?」
「滅ぼす、です」
「誰が?」
「えっと……大魔王さんが、です」
「何で?」
「いや、そこまではちょっと……知らんのですけど……」
「そこ考えねーか普通よ? そこ解らんままそなたら、我殺そうとしてたわけ?」
「そうすることで、魔物……さん達が生きれる世界が作れるのかなーって……」
「それ誰が言ったんだよ?」
「えっと、今自分で考えてみました」
「そなたの考え言ってもどうしようもねーだろうがよ」
「すんません」
 交尾中の犬のようにヘコヘコと謝る俺の目の前で、大魔王がショートホープの吸殻をグリグリと踏み躙った。汚い。

「第一そなたらさぁ」
 親指と中指でこめかみを揉みながら、大魔王が心底呆れ返るように呟いた。爪危ない。爪刺さる。爪こめかみに刺さる。
「我はともかくとして、我の配下とかも結構ブッ殺してるよな?」
「はい、すんません」
「謝んなくていーよ、理由言えっつってんの」
「人とか……何か食べてた? らしいんで……」
「どこで?」
「あのーあそこです。魔物の森とか、そこらへんです」
「あーゴブリンとかか。でもそれさ、我らの場所だよな? わざわざ名前に『魔物の』って名詞もつけてやってるよな?」
「いや、そうなんすけど」
「じゃあ何で入るんだよ?」
「……狩りとか、だと思います」
「そなたらもブッ殺して喰うんじゃねーかよ」
「いや、でもやっぱり人とか喰うの、こっちとしては困るんで……」
 まぁな、と大魔王が頷いた。一応、言い分は聞いてくれるのだ。
「え、じゃああれか? 我らもそなたらの町とかに入って狩りとかしていいわけ?」
「いや、それちょっとゲーム的にっつーか……ちょっと困るんで……」
「だってそなたらやってんじゃん。やってっから我ら狩ってんじゃん。それで喰われたら困るからってこっち殺されても、我ら困るんですけど」
「はい、すんません」
「いいんだろ? やってもよ」
「いや……すんません、ちょっと勘弁して下さい。本当勝手ですんません」
「じゃあ入るなよ、魔物の森よー。教えとけちゃんと」
「すんません、ちゃんと言っときます、はい」
 二本目のショートホープを取り出し、今度は世界的に有名な怪盗の三代目の彫り物が入っている、アーマー加工のジッポで火をつけた。地味に趣味が良い。

「っつーかさー」
「はい」
「滅ぼすからとかどうとか言ってたべ? そなた?」
「はい」
「百歩譲ってさ、我が世界滅ぼそうとかそういうの考えてたとするわ」
「はい」
「滅ぼしてから考えろよ。何で事が起きる前に極論で動くんだよ」
「いやそれだと、ちょっと困るかなーとか……」
「何で?」
「ちょっとそれだと……手遅れっていうか……そうなるのかな? とか」
「誰が決めたんだよ」
「それは解らんですけど……」
「解らんじゃねーよそなた、憶測で殺される我としては堪らねーっつー話なんですけど」
「すんません」
「大体滅ぼさねーよ、誰が喜ぶんだよそれ。今でも十分に我ら生きてるし。別に滅ぼす必要ねーし」
「ですよね」
「わかってんなら最初っからすんじゃねーよ」
「はい、すんません」
 それっきり、大魔王……さんは、黙り込んでしまった。俺は俺とて、正座のままその身を不動のものとし、大気中の水素が凍ってしまったのではないかというくらいの静けさの中、そのまま無音空間はだらだらと続いた。
 時折、大魔王さんの口から漏れる「チッ」とか「はぁ……」とかいう舌打ちや溜息、その他諸々が耳をつんざき、俺は居た堪れなくなったことは、言うまでもない。

                   ・


 虫歯の痛みよりも耐え難い沈黙が十分ほど続いた後、濃厚で重い溜息を大魔王さんが吐いた。どうやら、説教は終わりらしい。正直、足の痺れが堪らない。
「で?」
「はい?」
「とりあえず今からそなた殺すけどさ……いつも通りやっときゃいいわけ?」
「あ、すんません、ちょっとセーブ最初の街でして来ちゃったんで……」
「ふざけんなよそなた、超遠いじゃねーかよ」
「すんません、本当すんません、ちょっと上司に『死んだらセーブポイントから再開』って言われちゃってるんで……」
「知らねーよふざっけんなよ本当……手前でやっとけよ、魔村ジャネントでいいじゃねーかよ」
「いや手前でも良かったんすけど、ちょっとそこらへん魔物とか強いから、コイツら生き返らす金稼ぐ前にこっちが死ぬかなーとか……すんません、勝手なこと言ってんのは解ってんすけど」
「今いくら持ってんの?」
「十五ルピーです」
「んだよそれ。我、八ルピーしか貰えねーじゃねーかよ。マジどんだけ割に合わねーんだよ、そなたら結構重いんだぞ」
「いやもう、本当すんませんとしか……」
「……王国アレキサンドルでいいのな?」
「はい、有難う御座います、本当すんません」
「いいよもう謝らなくて、そなたにはそなたの事情あるんだろうしさ。我も悪かったよ、ちょっと言い過ぎたとこもある」
「はい、すんません」
「これからも頑張ってね。でも仕事選んだ方がいいよ、マジで。あんまストレスとか溜め過ぎないようにしろよ?」
「はい、すんません、有難う御座います」

 だいまおう は こごえるふぶき をはいた!
 ゆうしゃ は 150のダメージ をうけた!

 ゆうしゃ は しんでしまった!


                    ・


 おお ゆうしゃ よ しんでしまうとは なさけない!
 ふたたびよみがえって せかいのへいわを まもってくれ!

 ゆうしゃ の つぎのレベルアップまでは ───


「クソ、まるで歯が立たない」
 戦士が、悔しさを味わうように歯を噛んだ。周りを見れば、皆同じ表情で己の爪先を見ている。
「流石は大魔王だ。今まで合間見えたどの魔物よりも、強く、誇らしい」
「しかし、だからと言って諦めるわけには行かない」
 武道家が、己の拳に装着した鉄の爪を鳴らし、弱音を吐きそうになる戦士を叱咤した。
 これまでに、何度も挑んでは破れ、その度に己が肉体に研鑽を重ね、武具を揃え、術を磨き、何度も何度も、大魔王に挑み続けた。
 それは、何故か?
「我々が勝たなければ、世界は大魔王に滅ぼされてしまう」
 その一心だった。
 これまでに魔物達に命を奪われてしまった犠牲者達の為にも、その遺族や子孫達の無念の為にも。或いは、各々の大切に思う者達や、大切な街の為にも。
「諦めて、たまるか」
「……ああ、そうだな!」
 奮起した戦士が、手元の大剣をガチョリと鳴らす。
 再び、自己研鑽の旅が始まる。魔物と戦い、撃ち滅ぼし、自らを鍛えぬき、大魔王を退けるだけの力を身につけるために。
「よし、行くぞみんな!」
「おう!」
 勇者の威勢の良い号令と共に、一行は旅に出る。
 いつか、大魔王を打ち倒し、世界が救われるその日まで。

 勇者は、決して諦めない。例え、何度打ちひしがれようとも、何度挫けそうになっても、決して。
 何故なら、彼は勇者だからだ。
 人々の希望を背負った以上、彼らの希望を裏切るわけには行かない。
 彼らの笑顔や心の平安の為に、今日も大魔王に挑みかかる。
 そして人々は、その背中を見て再認識するのだ。「彼こそが、真の勇者なのだ」と。

 決して「もう止めね?」とは言えないのだ。言ってはいけないのだ。
 何故なら、彼は勇者だからだ。
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六月十七日 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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