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黒い歴史

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 ワタルのお見舞いに言った俺は、下らない雑談をして帰ってきた。
 雑談の内容は、尿道に管を通されて痛かったとか、可愛い看護婦は最初に一回来て希望を持たせて以来、来ていないとか、そんな。
 帰りにスーパーに寄り、買い物を済ませ、焼きそばを作って食べ、今は地球防衛軍をやっている。
 どうでもいいけど、クレイモア兵器を使いこなすおじーちゃんはすげーと思った。
 しばらくして、ユウが帰ってきた。
「ただいまんこー」
「お帰り、下品だからそれやめなさい」
 トテトテと俺の傍までやってきて、イキナリ足でぺしぺし叩かれた。
「なんだよ」
「そこアタシの席」
 どこのジャイ○ンだ。
 しかし、これ以上邪魔されては蜘蛛の大群に囲まれかねないので、俺はさっさと席を譲った。
「飯はフライパンの中」
「あー、後でいいや」
「珍しい」
「違うわよ、外で少し食べてきたの」
 そういうことか。納得。
 ユウは本棚から漫画を取り出して読み出した。
 しばらく、銃撃音と蜘蛛のあげる悲鳴だけが、テレビのスピーカーから響いた。
 俺が敵勢力の第二陣を撃退したところで、ユウが話しかけてきた。
「ねぇ、フジョシとかアンカって何?」
 一瞬固まってしまった。
「どこでそんなの聞いてきた」
「いやぁ、まぁいいじゃない。なんなのよ」
 コントローラーを操作する手元がちょっと狂う。
「あー、そうだな。フジョシっていうのは、腐った女子と書いて腐女子と読む」
「酷い言い方ね」
「まぁまぁ、でだ。そういう意味の腐女子なら、俺の知り合いにも一人いるが、その、なんだ」
 なんと説明すればいいのか。
 まぁ、でも腐女子曰く
『ホモの嫌いな女子はいません!』
 って言ってたし、案外普通に言ったら納得してくれるかも知れない。
「あれだ、綺麗な顔した男の子とかの、ホモが好きなんだ」







 何とか言って欲しい。
 黙らないで欲しい。
 なんか俺が悪いみたいじゃないか。
「へぇ」
 余計リアクションに困る返事が来た。
「言っておくが、俺は別に理解しているわけじゃないぞ。ただ、知り合いがそういっていたんだ」
 何故か言い訳のように聞こえるのが悲しい。
「なんだ、一口で腐女子って言っても色々いてだな、ほら、同人誌とかあるだろ?
 ああいうので、男同士のキャラクターを絡ませる漫画を描いている人もいるし。
 俺の知り合いなんかは、結構マイノリティらしいが、生ものがお気に入りらしい」
「ナマモノ?」
 自分で説明しておいてなんだが、あんまり深く突っ込まないほうがいいと思うんだよなぁ・・・・・・
 そう思いながらも、俺は説明を続けた。
「つまり、漫画とかじゃなくって、実際にいる人物・・・・・・芸能人とか、歌手だな。
 そういう人達のホモ漫画やらホモ小説を書いているわけだ。
 その知り合いは特に変わっていてな、9歳の時にその道に目覚めたとか言ってた」
 きっかけはパタ○ロだとか。
「下手すると、男友達で妄想する奴とかもいるからな。危険な人種といえば危険かもな」
 ワタルは強気受けで、俺は総受けだとか、そんなことを言われた気がしないでもない。
 ひょっとしたら、絶対にあけてはいけないと言われていたあの引き出しには、俺たちを題材にした漫画があったかもしれない。
 ゲーム画面から一瞬目を離し、チラっとユウの方を見ると、なんとも説明しづらい複雑な表情をしていた。
「まぁ、どこで仕入れてきたか知らんけど、俺の説明も適当だからあんまり真に受けないよーに」
 再び俺はゲーム画面に目を戻し、適当に誤魔化しておいた。
 
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 忘れてくれ、と言われたのに、ついつい聞いてしまった。
 興味本位で聞いてイイコトと、聞いてはイケナイコトがあることを、今痛感した。
 アタシはますます智恵のことが分からなくなった。
「あー、あと安価ってのはだな」
 今しがた、聞かなければ良かったと思ったのに、やはり気になるものは気になる。
 続けるりょっちを止めることはせず、アタシは黙って聞いた。
「むしろ、こっちのほうが理解しかねるかもな」
 りょっちは器用に話を続けながらゲームも続ける。
「まぁ、掲示板とかで、50番目に発言した内容を実行する、とかそんなだ」
「いや、よく分かんないんだけど」
「そうだなぁ、なんか例えがあれば分かりやすいんだが・・・・・・」
 そういうと、りょっちはコントローラーをぽいっと投げ捨てた。
 瞬く間に蜘蛛の大群が吐き出す糸で、画面は真っ白になってしまった。
「あれ?いいの、それ」
「いいよ。どうせゲームだし。人生と違っていくらでもやり直し可能っす」
 ゲームとテレビの電源を落とし、りょっちはパソコンの電源をつけた。
「そうだなぁ、俺が過去に見た奴で、なかなかに愉快だった奴を見せてやろう」
 そういって、りょっちはパソコンをカチャカチャといじくりだした。
「こいつを見てくれ」
「その・・・・・・すごく「そういうボケはもういいから」
 アタシのボケはまたも遮られたが、画面を見ると、それは掲示板のようだったが
「日付が・・・・・・半年前?」
「そそ。過去ログって奴だ。そんで、コレがこのスレッドのタイトル」
 そこには『愛されてるのかわかんないから、安価で確かめる』と書かれていた。
「まぁ、重要なレスだけ見せていくわ」
 そういうと、りょっちは画面をこちらに向けてくれた。
 最初は、まずこのスレッドを立ち上げた本人のレスだった。
『最近彼氏と喧嘩ばっかっす。
 怒ってこっちが出て行くと、探して迎えに来てくれるのですが、何回も続くとこっちもワケわかんなくなってきました。
 結局、私は彼のなんなのか、よくわかりません。
 彼の愛を確かめるいい方法を>>100』
 と、書かれていた。
「ねぇ、この>>100って何?」
「おう、それが安価だ。つまり、100番目にレスをつけた人が考えた方法を実行するってことだな」
「なにそれ?いい加減過ぎない?」
「まぁそういうな、そういう人種なんだよ」
 正直、理解できない。
 それはアタシだけではないようで、最初のうちはスレ主(というらしい。りょっちが教えてくれた)に対して『調子に乗るな』とか『リア充乙』とか書かれていたが、スレ主が結構深刻に自体を考えていることが分かると、皆親身になって方法を考えているようだった。
「はぁ、まぁそこまで皆ふざけてるわけじゃないみたいだね」
「だろ?まぁしかしここからが安価の恐ろしいところだ」
 そういって、画面をスクロールさせていく。
 いよいよ、問題の100番目のレス付近まで来た。

96 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
    ksk

97 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
    ちゃんと彼氏と話し合い

98 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
    安価とかやめとけって・・・…話し合え

99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
    このスレを見せる








100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
    ksk







101 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
    >>100 バーローwwwwwww

102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
    >>100 空気嫁

103 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
    >>100 ふざけろwwwwwwww

104 :1
    わかったkskする。


「・・・・・・、このkskってなに?」
「加速って意味だ。100番目までなかなか進まない時なんかに、適当にレスを消費するために使ったりするんだが・・・・・・まぁ、この場合ミスだわな」
「どうなんの?これ?」
「まぁまぁ」
 そういって、りょっちは更に続きを見せてくれた。



108 :1
    もうメンドクサイから次
    >>110

109 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
    >>110だったら安価止めて和解





110 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
    彼氏の寝ている横で、仲のいい男友達と野球拳





111 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
    >>110 ちょwwwwwww

112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
    >>110 ここに来て鬼畜wwwwwwwww

113 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
    >>110 何でこの流れで鬼畜wwwww

114 :1
    >>110 腐ってもVIPPER。は あ く し た。

115 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
    >>114 落ち着けwwww

「・・・・・・」
「とまぁ、例え和やかなムードだろうが、流れだろうが、安価を鬼畜にスナイプされたら意味がない、と」
 確かに、流れはスレ主に落ち着けとか、話し合えとか、そういった和やかな雰囲気だった。
 安価付近になると、そんなに実行しても問題なさそうな指示ばかりか、止めさせようとする人すらいた。
 が、実際はどうだろう。
 彼氏の寝ている横で、仲のいい男友達と野球拳。
 実行するといっているスレ主もスレ主‥・・・・
 と、ここでアタシはやはりこの質問もするべきでなかったと思った。
『まぁ正直その突き放し方を安価で指定したのは良くなかったとは思うけど』
 まさか、と思う。
 これは、まさに智恵が実行したという、その安価じゃないのか?
 スレ主が最初に書いていたこと、智恵の言っていたことに限りなく近い。
 だとして、それにりょっちは気付いていたのか?
 もしコレが、智恵の言っていた安価なら、りょっちはそれを実行されたということになる。
 つまり、智恵が安価でこの行為を行ったということに、りょっちは気付いたということになる。
 聞かないほうがいい。
 今度こそ。
 アタシの胸のうちだけ―――いや、さっさと忘れてしまおう。
 アタシはそう決心した。
 だというのに
「実はさ、コレ俺のモトカノ‥・‥・智恵が立てたスレッドなんだよね」
 この男は、さらっと言いやがった。
34, 33

  

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「・・・・・・それで、アンタ、こんなの見て平気だったの?」
 正直、アタシだったらこんなことされて平気な訳ない。
「まぁ、これ見つけたのは別れてからしばらくしてからだから」
「いやいや、そういう問題じゃなくない?」
「まぁ、安価じゃなくても、アイツはこういうこと平気でする奴だったからな」
「・・・・・・理解できないよ」
 アタシがそういうと、りょっちはなんだか少し寂しそうな顔をした。
「そうか。でも、裏を返せば俺がアイツをこれほどまで追い詰めてたってことでもあるんだよ。
 そう考えると、怒るもの、へこむのも筋違いってもんだろ?」
 そんなことない。
 そんなことないはずなのに、なんでコイツはこんな平気な顔でヘラヘラと‥・‥・!
「おい?どうした?」
 どうやら、アタシは凄い顔をしていたらしい。
 りょっちがちょっと引いてる。
 でも仕方のないことだった。
 アタシなんて、姉の事故を利用して茂を手に入れようとしたのだ。
 それが失敗したからって、そんな理由で姉や茂に対して、汚い感情を抱き始めていた。
 だというのに、この男は。
 こんな酷い目に遭わされた経験を笑い話にして。
 自分がどれだけ惨めな人間か、分かってしまう。
 ずるいことをして。
 それでも自分がいい人間だって思えるように偽って。
 上手く立ち回って。
 失敗したら他人のせいにして。
 なんて、汚いんだろう、アタシ。
 とてもじゃないけど、りょっちみたいに笑い話にするなんて出来ない。
 そんなに強い人間じゃない。
 もういっそ、し
 そう思ったとき、頭に手を置かれた。
「・・・・・・え?」
 顔を上げようとしたら、体ごとぐるっと回されて、りょっちに背を預ける形で座らされた。
 そのまま、再び頭にぽんぽんと手を置かれた。
「何よ‥・‥・」
「別に。ただ、今俺からはお前の顔見えないから」
 それだけいって、りょっちは頭をなで続けた。
 なんだって、この男はこういうときだけ察しがいいんだ。
 さっきだって空気読まずに自爆したくせに。
 前だって、聞いてもらいたいだけの話に深く突っ込もうとするし。
 なのに、なのに、なんでこういうときだけ。
「なんでかしんねーけど、泣きたかったら、泣け」
 ガマンしてたのに。
 病院で茂を見てからずっと。
 いつも、泣いていい場所を探してた。
 ゲームを始めたときも、泣き場所にするつもりはなかった。
 なんだか、この男に泣き顔を見られるのが悔しかったから。
 だから、こうやって泣き顔を見られない状況を作られたら。
「我慢‥・‥・しなくて」
「いいんだよ」
 そう言われて、アタシの中にあった何かの壁が崩れていった。
 その壁が塞き止めていたものが何だったのか、それは分からなかったが、その壁の崩壊と共に、アタシの目からボロボロと涙がこぼれだし、声を上げて泣き出してしまった。
 りょっちからしてみれば、なんて急に怒ったり、泣き出したりしたのか分からなかっただろう。
 それでも、りょっちはアタシが泣き止むまでずっと、優しく頭をなでていてくれた。
 
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