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偶発的超人行事〜半ば〜

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無垢で可憐な幼女達が我先にとまるで競争でもするかの様に路地を数分歩いてた。
肉体とは欠くも儚い物である。数分歩いていた彼女達の後を追うに、我輩の体は疲れきっていた。
心の鼓動はまるで老いた時の流れの様に、反して両足にはまるで幼い子供がしがみつくように。
だが仕方が無いのだ、我輩にとっては頭脳こそが素晴らしい故に、肉体は切り捨てるしかない。
勿論、両者を追い求め、両者を極めようとする者も居る。我輩もその様な者は何人か知っている。
しかし、簡易なことわざの一つにもある様に、二頭を追うものは一頭を得ないのだ。
超人たる我輩が一端の修練を考えれば、頭脳か肉体かどちらかに絞る事は、
至極当然の事であり、そして我輩は頭脳を選らんだという訳である。
責任を何処に押し付ける訳でも無い、我輩自身は、非常にそれを気に入っていた。
だから決して卑屈にもならぬし、この極度の疲労も、むしろ心地よい痛みだ。
そう考えてると、先の幼女達が何か黒い物体に塞き止められる様が見える。
それは堅牢な要塞の如く彼女達の進行を止めていたが、決して壁では有らず、
良く見ると頭部から生えた首で体を繋げている、我々と同じ人間であった。
なぜ我輩がその人を要塞の様に思えたのは、その異様かつ悪辣な風貌と雰囲気であった。

「おじさん、どいてよう」
「………」

幼女達の切実な祈りを全く意に受け止めない始末に悪辣を覚えながら、
私には別の種の悪寒が走った。私はこの様な輩の事を良く知っているからだ。
我輩は改めて自身の目を開かせ、奴の服装を上から確認していった。

『赤いバンダナ』
『黒ブチ眼鏡』
『白いシャツ』
『青いGパン』
『スニーカー』
『黒いグローブ』

やはりそうであった。我輩は愕然としながら、己の容易な考え方に恥じた。
さらに奴は脂肪分に覆われた肉体と、一目で気分の悪い顔を持っている。
これは太陽の昇る場が東であるほどに決定的だった。
ここにきてやっと、我輩は奴を同類と認識したのだ。

「幼女はスクール水着………そう思うだろ、お前」
「!」

我輩はさらに狼狽を覚える。ここに来て、さらに気配まで悟られているとは。
かなりの度合い、恐らくは幼少の頃から二次元へと導かれた実力者だろう。
常人であればここでうろたえ、角の奥へと逃走劇の如く逃れるのだろうが、
超人である我輩は体を表に出し、まるで勇みを見せ付ける様な如しに行く。

「お前の様な輩と出会えるとは、今日の俺はツイてない。しかし何時だってそうだった。
 バレンタインの時も、クリスマスの時も、どんな行事の時だって。
 一人はぶられていた俺達は自身で道を切り開いてきた」

そう述べた奴、もう一人の『超人』は両腕を天へと貫く様な勢いで差し伸ばした。
まるで教徒が自身の肉体を捧げる様に愛に満ちた、威厳すら感じさせる『攻撃姿勢』。
我輩もそれに呼応する如く両腕を天へと向ける。
久しく稼動していなかった角度に両肩が乾いた音を鳴らした。
「この幼子に導かれるのは貴様では無い、解ったなら消えて貰おうか」
「『天仰の構え』、我輩以外にも使える者が居るとは思わなかったがな。
 しかしだからどうしたと言うのだ、勝者が導かれるのであれば、それは我輩となる」
「落ち言葉を述べるとは、臆したか老人」
「童子がほざく」

両腕の姿勢をまるでミケランジェロの彫刻の如く維持固定、しかし両足は前進。
両者の距離は確実に縮まり、幼児を挟んで異様な空間が二人の間に広げられている。
既に戦いは始まっている。その歪んだ空間が、ワキの香りだった事は言うまでも無い。


そう、大戦で英雄達が空戦を繰り広げた如くに、両者のワキガが制空権を争っているのだ。
我輩の香りが童子の右鼻へと上空から急襲を繰り広げる。その数およそ全体の二十パーセント。
通常、鼻への急襲は地表スレスレから行うのが、鼻が下を向いてる事からも常識だった。
上空から行うこの奇襲は、精鋭部隊、技術に自身のある者にしか行えない、言わば荒業。
まさに常識外の、誰もが予測しない攻撃だった。その筈だった。童子以外はそう信じていた。
奇襲精鋭ワキガ部隊が現地に到着して見た物、それはおよそ全軍とも言える敵部隊。
既にそこには防衛任務を告げられていたワキガ臭が待ち伏せしていたのだ。

「くっ………この数は………!」
「ふん、千早の真似か?」

両軍のワキガ臭はおよそほぼ互角、しかし先に仕掛けた我輩がここで部隊を失えば、
それによって生まれた兵力差から我輩の負けは必然………ここで負ける事は、全てにおいて負ける。
撤退伝令、老人が地面スレスレに残存していた、四十パーセントの攻撃部隊に迅速に伝わる。
攻撃部隊の隊長である、ヘリウム三世はその報せを受け、激怒した。

『馬鹿な!奇襲部隊の回収を待たずに撤退ですか!』
『これは総司令の命令である、従わぬ訳にはいくまい』

三世の激怒には、身内への感情も含まれていた。精鋭部隊の隊長は彼の息子である。
勿論、激戦を生き抜いてきた生粋の軍人である三世に、その様な感情は許されない。
それ故に、彼は何処にもぶつけられない、当て様の無い怒りを放っていた。

『解ってくれヘリウム君………我々は、君達をここで失う訳にはいかないのだよ』
『しかし!彼等を見捨てれば同様に訳にはいかぬはずです!』
『苦渋の選択なのだよ』
『ならば………ならば私は死にます!
 精鋭部隊を失うのであれば、我が空軍は死んだも同然!
 私が生きている意味はありません』
『ヘリウム君………』


『全機体に告げる、ここで死ぬ訳にはいかない。撤退せよ』
『アナル隊長!俺たちも戦います!』
『ダメだ!お前達が生き残らなければ、国は死ぬ!』

既に精鋭部隊は残存戦力六十パーセント………濃厚な敗北に撤退は必然だった。
いや、そもそもこの戦力差を考えれば、出会い頭に撤退すべきだったのだが。
しかしそれが出来なかったのは、弧を描いた敵部隊に、
絶対全滅という選択肢を課せられた事だった。その違いは過程のみ。
逃げた果てか、突撃の果てか、そして精鋭部隊であれば、選ぶ物は必然だった。
またそれを諭すのも、隊長でありヘリウム三世の息子であるアナルの任務だった。

『ようアナル、会いたかったぜ!』
『貴様はティンコ!』
『アナル、貴様は今日で死ぬんだろぅ!俺が殺してやってやる!』
『誰がお前なんかに!』

敵軍のエースパイロットであるティンコが、精鋭部隊隊長アナルの後方をしつこくつきまとう。
それを精鋭部隊の一隊員が助けようとして無理に機体の速度を落とした。
その瞬間、ミサイルが彼の体ごと機体の胴を吹っ飛ばした。
そして爆発した炎は、機体ごと彼の体をさらに細かくしていく。

『………っ!』
『お前も仲間に入れてやるってんだよ!』
『だまれええええええええ!』

アナルが速度を急速に落としながら、機体を下降させていく。
勿論これはレーダーから送られてくる膨大な情報量を処理し、
他の敵機体に標準にされない隙を突いた機体制御。
しかしティンコはその『松葉落とし』と呼ばれるアナルの妙技を、
意図も簡単に察知した。既に二度も受けた技だ。対処法も発案している。
ティンコはアナルの機体と同時に速度を落とし、高度を維持した。

『頂くぜ!お前の命!』

しかしその視界に、それどころかレーダーにすら、アナルの機体は写らない。

『ど、何処だ!何処に消えた!』
『こおおおこおおおだあああああ!』
『にいいいいいいいいいいい!』

まるでティンコの機体を突き上げる様に放たれた機銃は下から。
しかしそれはアナルの機体が、ティンコの機体と接触する事を意味していた。

(父さん………俺、生き残れ無かったよ………。
 それにチクービ、オッパ、クリとリス………ごめんよ)

精鋭部隊と防衛部隊の死闘乱戦の最中、一際大きな爆発がした。
しかしそれは誰の記憶にも焼きつかず、戦闘中のごくありふれた風景として、
簡易に処理された。この後、両軍はエースを失った為かお互いに攻撃に欠け、
さらに精鋭部隊の迅速な撤退の為に、精鋭部隊五十パーセントが残存。
後に言われる『奇跡の撤退』である。
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