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2話 漆黒のプレリュード

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桃タロウ 第二話  漆黒のプレリュード

薄明かりの夜明に桃太郎は床を抜けた。
おばあさんの家を振り返り立派な家だなという感想を抱いてその場を立ち去る。
外は閑散としていて人っ子一人いない。
といってもこんな朝早くから起きている人を見かけないだけで全く人がいないというわけではない。
歩を進め考えることとは。(さて、俺は桃太郎であることを自らわかっているのだが、なにをすべきなのか)
この男、生まれながらにして健康的一般成人の体型をして桃から生まれ
その精悍な顔立ちは見るものを魅了し自信に満ち溢れ気概に充ちたその立ち居振る舞いからは
独特の色気を放ち女性からの羨望を一身に受け爆発寸前辛抱溜まらん、といった感情を引き出すこと
受け合いなセックスアピール全開男だった。

薫るような淫靡な匂いに惹かれて現れたものとは。

歩を進めながら若干肌寒い風の中、砂利道を徒歩で往く男にはまさしく、既に目的に向かって
着実で堅実で踏みとどめがたい決意を以て歩いてゆく姿勢があった。ように見えたのはほんの
数秒だったかもしれない。

「ごめんくださーい。」
1軒の家を訪ねる桃太郎。
「くっ だっ誰だこんな朝早くに」
と、怪訝な顔つきでふすまから顔をだす住人
「はっ  おまえ っていうか・・ 僕につきまとわないでください。」
ピシャリと閉められる戸を素早く一投足に玄関から姿を消して戸を閉められるのを遮る。
「なっ ちょっ なんなんですかやめt  」
有無を言わさず頑固で傍若無人に振る舞う。
「偶然入った家がお前の家だった」
というのはウソで事前に確認済だった。
「だっ だからなんだっていうんですか、ややめっ はいってく、る、n」
桃太郎の強引で躊躇の無い家宅侵入をこの男には止められる術もない。
プロレスラーのリングへの入場よろしくぶっきらぼうにふるまい、その男を部屋の戸棚に蹴散らす。
「ガスッ」と背中から畳へと吹き飛ばされる男。
ピシャリとふすまの戸を閉め腕を組み仁王立ちを決め込む桃太郎には
無慈悲な正義を振りかざすいじめっ子の様相が漂う。
「ふふふ なにもできまい」
とってつけたような悪者じみたセリフを言ってみる。この男ノープランである。
「痛たた  って一体なんなんですか。意味がわk」
彼のセリフはあってないような物。遮って桃太郎は話す。
「俺は見ての通り桃太郎。ククク、貴様を亡き者にする使者だ」
画的に言うと右側の口角を上げ顎を引いた状態で目線は下方から上方へ舐めるように相手を見つめる。
おちょくっているような雰囲気を作るとベストである。
「なっ 何をバカげたことを言ってるんだあんたは。キチガ」
せわしなくパニックな彼は寝起きからの取っ組み合いの末キチガイに平穏を乱されている
現時刻では世界でも1、2を争う不幸な男である。
「おっと おしゃべりはそこまでにしな。お前さんの余命はドンドン短くなる。」
と、唐突に腕組みを解き彼との距離を無造作に詰める桃太郎
「ま、まて ぃ、一体なにをすr」
へたりこんでいる男の口に均整のとれた若々しい右腕が伸びる。
桃太郎は右手で彼の上顎を左手で彼の下顎をワッシと掴み、抵抗する彼の咬合力よりちょっぴり強い力で
徐々に口を開けていく。
「いいか 俺はこのまま一気に上顎と下顎を引き裂き頭蓋と分離させてやるぞ」
彼の言葉に説得力をもたせているものは有無を言わさぬ行動力とその腕力。
万力のごとく固められた握力が精緻に引かれた図面の如く一分の狂いもなく
男の上顎と下顎を離していく。
「んばぁでぇええ ばがっだぁあぁ」
掴みかかられた男は半狂乱で桃太郎の両の腕をそれぞれ掴み、両足をジタバタとさせることにより
雀の涙ほどの抵抗を試みる。恐怖におののき半べそ状態の男には(こいつには「やると言ったらやる」
そんな凄味があるッ)と思考する程の余裕があったのかどうかは疑わしい。
ちなみに男は「待て わかった。」と言いたかったようだ。
「ん?どうした?」
桃太郎のがんじがらめの万力ギミックが止まる。
「だがらぁ はずせと言って」
パッと弛緩する握力。前屈み気味になって男の口に手を突っ込んでいたのを引っ込める。
人の口に手を突っ込んでいたのを汚いと感じて着ていたウェットスーツに擦りつける桃太郎。
男はドサッと畳にうつ伏せに倒れこみ土下座の姿勢をキープ。
畳に顔をこすり付けながら男が喋りだす。
「わ、分かった、 桃太郎……なんだな その ふ、振る舞い。
というか僕は。ハァ、ハァ  ちょ、ちょっと待て。」
涙目で顎に手をあてがい、上半身を起こす。
「ぼ、僕の名前は げ、激動疾風(ゲキドウハヤテ)。立派な水先案内人だ。。」
こ、こいつの名前は激動疾風だった。冴えないヒョロメガネには似つかわしくない暑苦しい名前だった。
「その水先案内人がこの桃太郎に何の用だ」
もはやどちらがこの家の住人かはわからない。
「ぼ、僕は300年に渡って脈々と続くサンクチュアリの守り手。あなたが第169代桃太郎として
この地に降りたったからにはそれ相応の因果がある。。」
とつぜんのカミングアウト!桃太郎にはこの激動疾風の言動が異国の呪文のように聞こえた。
「ん?ちょっと何いってるかわかんない。」
理解を拒否するように桃太郎は言った。
「だ、だからあなたはこの村にきて、こうして私に暴虐の限りを尽くしている。
早く出ていけぇこの村にあんたはいらない存在なのだよぅそして、その眼で世界を
見てこいよ。あんたはこんなところで燻ってる人間じゃないんだよぉ」
疾風は少し調子に乗ってしまった。
「てめぇ」
疾風は胸倉をつかまれて正座の姿勢から、まるでタオルを手に取るように簡単に持ち上げられてしまう。
彼の着ていたTシャツの首回りはダルダルになってしまい、もう元には戻らないであろうことは
容易に想像がついた。
「ま、待て待て待て。今のはネタだ。正直に話そう。君が現れたのはこの世の変革の予兆なんだ。。」
ワナワナと漲らせた拳の微動を止め桃太郎の頭の中にまたハテナマークが浮かぶ。
「てめぇのその行為が、ただ単に俺の行動を阻害する為に行われているものだとしたら
俺はこの拳を迷わず振りぬかせてもらうぜ。」
何も知らずに人の家に居座りよくも傲慢な所業を繰り返すものである。
「そ、そんなことはない。いうなればプレリュード。桃太郎のお話はここから始まる。。」
桃太郎は激動さんが緊張と動揺で頭がどうにかなって変なスイッチが入ってしまったのかと
本気で思った。
「俺とお前が会ったことにそこまでの必然性はなかったはずだがこいつは何の冗談だ。」
桃太郎は事態が把握できない。それは無理もない。
桃太郎は名前も知らなかったこの激動疾風という男の部屋になにかしら用事があった為に訪れたわけでもなく
ただ老婆から距離を置くという一心で偶然、訪れただけだったのだから。
「冗談も何も私はあなたを導く水先案内人。偶然だろうと必然だろうとそういった運命にある。」
なにか激動疾風には今までとは違った自信が垣間見える。
桃太郎はフワリと落ち着いた気分になり、頭が冴えてくるのを感じた。
この男はこれから先自分の受け入れていくべき運命をすべて知っていて、それを
丁寧に導いてくれる。そんな安心感がある。ヒョロメガネのくせに。
「うん。どうにもこいつは言葉で説明できねぇや。俺は激動さん。あんたを信じるよ。」
と桃太郎は襟を正す思いで言った。
それは激動にも伝わり、彼も同様に身なりを正す。
「それは恐悦至極でございます。」
(そんな改まる必要はねぇよ)と思った桃太郎だったがまぁいいやと思って
フイーと視線を泳がせる。
「さてももたろさん。私はこれより長の家へ出向いて出発の手続きを済ませてきますが」
落ち着き払ってルーチンワークをこなす事務員のような物言いだ。
「なに?手続きってまた、堅苦しいこと言いなさんなぁ。そんなんじゃももたろさんは
息苦しくって務まりませんよーだ」
耳の穴に人差し指を突っ込んで腑抜けた顔で面倒臭そうに桃太郎は言う。
「まぁ手続きと言う程、堅苦しいことではありませんよ。
戦闘服ときび団子をもらうだけですので。」
そんなことを言いつつ、なにか封筒のようなものや紙を用意して机の上に広げている。
「へぇー ならいいか。戦闘服ってどんなのもらえるんだろな。
俺はババアからもらったウェットスーツしかなかったから楽しみだよ。」
机に向かって紙に何か書いていた激動の筆が止まる。と同時にがばっと振り返って
こちらを見る。
「まさか… 既に…」
眼鏡のポジションを手で上下に動かす仕種をしながら、ほほぉ と見入るようにこちらを見る。
「なんだよ。」
「いえ。それが噂に聞く戦闘服なのかと思いまして、感心して見入ってます。」
こちらをジロジロと見ていたのはこのウェットスーツに関心を寄せてみていたようだ。
「は?戦闘服ってもしかしてこれなの?海辺で待機してる人が着てそうなこの服が戦闘服なの?」
「えぇ間違いないです。耐水性耐火性に優れ伸縮性に富んだ素材できてます。そしてこの肌触り。
私も一度は袖を通してみたいものです。」
戦闘服という言葉を聞いて某サイヤ人が着ているような服を期待していた桃太郎はガッカリした。
反面、激動は興味津々で桃太郎の周りでウェットスーツに触ったりしてはしゃいでいた。
「そして、この後ろの腰にあるロゴマーク。」
「あぁ」と言ったまま興味なさげにうなだれる。
「これが最高級品である証。まさかこの目で拝見できるとは。」
桃太郎が、そう言われて腰の方に手を回し目を向けるとそこには猿国SARUKUNIと
刺繍されたロゴマークが見える。
「なにこれ。お猿さんの国で作られたのかい?」
そんなロゴマークの事はどうでもよかった。桃太郎は某サイヤ人が着ている戦闘服への
憧れがまだ尾を引いている。
「察しがいいですね。猿国とは読んで字の如く猿人が住む国で作られた製品に印字してある
ブランドロゴマークでしてね。SARUKUNIとアルファベットで併せて記載されている
製品は、猿国製の中でもさらにグレードの高い製品なのですよ。いやぁー僕の持ってr」
激動のウンチク話を流して聞くつもりだった桃太郎にも聞き捨てならない言葉が聞こえた。
「ちょっと待て。今猿人が住む国と言ったか。」
「えっ」 と思わぬところに食いつかれたと言った表情で弾み出しそうだった会話が途切れる。
「はい。桃太郎さんは えんじん と呼びました彼らは、そう呼ばれることを嫌い
  さるびと と呼ばれることを… えぇーと望んでいるというか。」
「そいつらの呼び方の話はどうでもいいんだ。 そのさる達に嫌われる言い方をすれば、類人猿のような
二足歩行するさるの顔した人間がいるんだな?」
ワクワクを隠せない様子で自らの言葉の使い方に少し気を遣い、途中気難しそうな顔をしながら、
桃太郎は瞳孔を普段よりも開いて激動に詰め寄った。
「はい。います。存在します。ことばを話しますし、文化や産業も息づいています。」
落ち着き払って多少、桃太郎の無邪気な好奇心を煙たがるように答える。
「うぉおおっぉおお  それは まだ見ぬ広いこの世の中を見て回る価値があるぞぉおお」
と桃太郎は吼えた。両手を腰の位置にまで下げ、拳を握りしめ腕を曲げ、顎を上げて吼えた。
「あなたが外の世界に興味を示すのは良い事だとは思いますが、まさしく、その眼で世界を見てこいよ
と言ったことが当たらずとも遠からぬあなたの姿勢として正しい。」
「まぁーたお前はしちめんどくせぇ言い方をするからなー 俺のロマンティックはもう誰にも止められんぞッ
ナハハー!」
楽天的且つ楽観的に桃太郎は古臭ぇ香りのする笑い方をした。
(この人は僕らの知っている世界よりもまだまだ狭い世界の常識の中でしか生きていないんだ。
そういう意味では赤子に等しいのかな。人間性に難があるのはいつの時代も一緒なのか?
それともこの桃太郎さんがちょっと変なのか… 類人猿ぐらいでワーキャーはしゃいでいたら
これから先、あんな生き物を見たりした時はどんな反応をしてくれるのか少し楽しみだけど…
僕はそのときまでは…)
桃太郎のワクワクが100倍になっている状態を遠い目をしながら見つめ、なにやら考えに耽る激動。
「なぁーにしてんの、さっ 行こうぜ激動!」手の甲で肩に触れる桃太郎。
「はっ…  はい!迅速に!」

ひょろひょろとしたメガネ野郎とウェットスーツを着た男の旅が始まる。
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