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第十話『三木さん』

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「はぁ・・・。」

横を歩いてた女が俺の顔をチラリと見たかと思えば溜息をつく。

「何だよ、殺人未遂犯」

「いやね。 確かにあんたの顔を見て溜息はついたけど
私が主に落ち込んでる理由は、違うわ。
四割が、『三木』さんで、六割ぐらいがあんただわ。」

どっちにしろ俺が、『主』じゃねぇか。

「へー、そーですか。」

というか、四割が『三木』さんという事は
『三木』さんなる人物はもしかするとコイツが
溜息を吐くレベルだからもしかしないで
またおかしな人間なのだろうか?

段々と、嫌な予感がしてきまくりんぐな俺は

「あぁ。 もう、『三木』君には言ってあるから
行き先は、彼に聞くと良い。
彼なら、地下駐車場で君達を待ってると思うよ。」

と、我らの雇い主甲斐谷さんが言っていたので

鈴音と共に、地下の駐車場まで再び歩を進める。


やがて、ひんやりとした冷気が漂ってる駐車場に出る。

地下駐車場への扉を開けたと同時に声が響いて投げかけられた。

「よく臆せずに来たな、鈴音。」

俺達を出迎えたのは、奇妙な男だった。

眼鏡をかけていて、上下柔道着のような格好に、黒のライダーブーツ。

頭にウェスタンハットと誰が見てもアンバランス過ぎる格好をしていた。

歳は、俺とそこまで離れてないように見える。

五か六歳程度上って所だ。

「えぇ、流石にもう慣れたわ。慣れても嫌な物は嫌だけど。」

「そう言うな、臆せずに来た御前にオプーナを買う権利書をやる」

「いりません。」

いかん、もうこの時点で奇人の匂いがプンプンしてきた!

いやまぁ、とりあえず挨拶だけはしておかないといけないか。

俺は、ツカツカと『三木』さんの元へと歩いていき右手を突き出して

「ど、どうも! 一緒に仕事する事になった新人です!
よ、よろしくっす!!」

どもりながら軽くお辞儀をして挨拶した。

「おう!よろしくな!!仲良くやろうぜ!」

―――――――お、おぉ!?

『三木』さんは、スカっとするような気持ちの良い返事をして
突き出した右手にしっかりと握手をしてきてくれた。

そしてちょっと近づいてきたかと思えば、『三木』さんは、

背中をぽん、と叩いて俺だけに聞こえるように小声で、

「どうせ、あいつ 何かもう既に御前にやらかしちゃってるんだろ?
鈴音と仕事をやるのは、大変だと思うけど一緒に頑張ろうな!」

とニッコリ顔で囁いてきた。

「ですよね。あいつ、頭おかしいですよね。」

同じ悩みを持つ同士が増えたと思ったのか、俺はそれに
軽快に小声で返した。

「にしし、まぁな。」

互いに顔を見合わせて笑い合う。


―――――――俺、
この人となら仲良くやってける気がする!!


出会って数分も経たない内に、早くも男だけの友情が此処に生まれた!!

奇人じゃないかと心配してたちょっと前の自分を恥ずかしく思う。

そうだ、世の中そんなおかしい人が一杯いてたまるか。

「ちょっと、そこ! こそこそ何話してんのよ。
さっさと、その依頼者の所に行きましょうよ。」

「あぁ、悪かったな。 それじゃあ、行くとするか。」

『三木』さんが、踵を返して俺達に背を向けて歩き出す。

そして、右手で奥にある大型車を指差した。


「さぁ、乗れぃ!

―――――――俺のワゴンに!!」


「はいはい。・・・・・はぁ。」

まともな人と出会えて嬉しい俺は、ウキウキ気分で
『三木』さんが乗り込んだ『ワゴン車』の後部座席に乗り込む。

それに続いて、ゆっくりとだるそうに鈴音が横に乗り込んできて
シートベルトをしっかりと閉めた。

「はぁあああ。」

何度も何度も溜息をつく鈴音。

さっきからなんなんだよ、こいつ。

職場の雰囲気が悪くなるだろうが!

これだから、頭のおかしい女は嫌いなんだ!

口に出したら、“マジで殺り合う数秒前”に発展する事
間違い無しなので頭の中で罵倒する。


「そんじゃ、出発すんぞー。」

運転席から後部座席に振り向いて言う『三木』さん。

「うぃーっす・・・・・ん?」

後部座席に振り向いた『三木』さんをふと見て何故か
俺は、違和感を感じた。

―――――何だろう、この感覚? デジャヴュっていうのかな。
俺は、どこかでこの光景を見た事があるような・・・・。


・・・・・・・・・・・・・・!!


「ちょ!あんた、何してんすかwwおろせ!俺は、降りるぞ!!!」

「・・・・・・もう遅いわ。」

ブオオオン、とエンジンが豪音をあげたのが聞こえる。

ドアを開けようとするが、ロックがかかっていて開かない

というか、逃げれない。

「やめろ! おろしてくれ!!つか、おい きいてんのか!!
此処に居たら、このままでは俺の寿命がストレスでマッh・・・」

言い終わらないうちに、僕らを乗せてワゴンは出発する。

同時に、強烈なグラビティが俺達を襲い座席に圧しつけられる。

「ハッハッハ、照れてんじゃねぇよ」

笑いながら運転席に居る前のアホが軽快に車を飛ばしていく。

この人の良さそうな『三木』さん。

いや、確かに良い人ではあるんだ。

事実 さっきまで、好印象しか俺にはなかった。

だが、運転席から後部座席を見る『三木』さんを見て

俺はこの人とは初対面じゃない事を突如、思い出した。

というか、どうして忘れてた! 俺!!!

―――――――こいつ、



俺をヘリから突き落としやがったもう一人の殺人未遂犯じゃねぇか!!!



「一つだけ言いたい事がある。」

「なによ!」 「なんだ!?」


「俺は、御前らが大きっらいだあああぁぁああああ!!!」

「そのまま、お返しするわ!」

「これが、御前、その ツンデレって奴なんだろ? ハッハッハ。」


ワゴンは、何処までも加速する。

―――――――何処までも、何処までも、法定速度を無視していった。
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塩田悦也 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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