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第1章

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そこには絶望しかなかった。
良くあることだ。
大きな幸福(しあわせ)には必ず裏があると。
時は混沌歴10年。
人は「混沌族」と呼ばれる種族に支配されるようになった。
その「混沌族」はいきなり飛来した。
一つの隕石となって。
その隕石は地球には落下せずに、空中に静止した。
そこからどんどん飛来してきた異形の「モノ」。
それが「混沌族」と呼ばれるものだった。
彼らは殺戮を繰り返し、人類を地底へと追いやった。
その結果、人類は地底での生活を余儀なくされたのだ。

しかし人類は一つの希望を見つけた、それが地底に隠されたオーバーテクノロジーだ。
そして、「混沌力」と呼ばれる能力に目覚めるものがあらわれた。
そして時は10年過ぎた、今激闘が始まろうとしている。

それは幸せの代償という名を借りた辻褄合わせだったのかもしれない。
思えば人間というものは発達しすぎた。
この時代が混沌暦に入るまでの時代、人は急激に成長しすぎた。宇宙の法則はそれを許さなかったのかもしれない。
そう…人がすべてを支配する事を因果律は認めなかった。

「それが…あの天井か。」

黒く禍々しい輝きを放つ、月よりも尚巨大な隕石。
それこそが俺たちの敵だった。
そこから現れる黒い影。
刃ともいえる鋭さを持ち合わせた獣。圧倒的な数、それは無量大数なのかもしれない。
相手は…神とも言えるほどの「小惑星」

「神ねぇ…上等だ。ならば俺は、打ち砕く。」

鉄槌、それは裁きではない。
砕く一撃。
彼は黒い大群の中、一人立っている。その手には巨大な鉄槌を携えて。

「てめぇら…覚悟しやがれ。」

闇の夜空が常に浮かぶとしたら、人々は光を求めるだろう。
俺の親は殺された。
そう、あの黒い天井に。
その日から俺は―――強くなりたいと願った。
自分の弱い部分を補う為…何よりも復讐の為。
そうして俺は、戦士を養成するための養成所に入った。
いまや、混沌暦最大の軍隊「メテオ・バスター」。
この軍には一般兵はもちろん、混沌力を持つ「能力者」を中心としたネットワークが築かれている。
「能力者」とは何か?
能力者とは先天的なもので、隕石-メテオ-が落下してから生まれるようになった新人類だ。
新人類と言っても、姿形は人間とまったく変わらず、生殖機能等もまったくの同じだ、だが生まれる子供にその能力は受け継がれない。
生まれながらにして自然の力を扱う能力を持ち、肉体的なポテンシャルも通常の人間とは違う。いわば、隕石から生まれる「隕石獣」の力を持った人間なのである。
しかしそれは諸刃の剣でもある。
この力はいわば敵と同じ力なのだ。力の誘惑に負けたものは、あえなく力に支配される。
ただ「持っている」だけではなく、それを扱うに値する強靭な精神力が必要とされるのだ。

「そんな力が、俺にもあったらなぁ?」
「どうしたの?錬兄ちゃん。」
「お。諷(ふう)か。」

コイツは諷。俺と同じで家族を殺されている。
俺たちのような境遇のヤツは養成所の寮で暮らしていて、こいつとは同室なんだ。
それに昔から兄弟のような付き合いだ。

「そろそろ時間だよぉ。」
「わかったわかった。ちょっと待っててな、着替えるから。」

俺は養成所の制服に袖を通して、カバンを背負う。
今日もまた、1日が始まる。



今現在、地球は「ドーム」と呼ばれる人工的な施設の中で生活している。
敵から身を守る為の施設で、そう簡単には壊れない。
ドームは政府公認のものが6つ存在している。極秘裏に作られたドームもあるらしいが…。
こういったドームが各地に転々としており、公式には6つのドームがあるといわれている。
そしてここは「アインシティ」。それなりに人口が多く、それなりに栄えていて活気もあるみたいだ。
シティには必ずチームが存在する。それが「能力者」の集まり「エージェント」と呼ばれている。このシティを守るのは「黄」の戦士である。
能力には6種類あり、俗に「エレメント」と呼ばれる。
赤、青、黄、緑、白、黒。この色それぞれのエージェントが6つのシティに散らばり、各個を守っているのだ。
もちろん、色の中にも更に分類がある。

「お、よう。」
「弾、早いな。」
「おう、何せ今日は戦闘ランクに応じてクラス分けがあるからな。」

彼は機野 弾。
入学当初からの俺の友人であり、そして最高のライバル。
俺はこいつと切磋琢磨しながらここまで成長してきたといっても過言ではない。

「しかし…なんか今日は嫌な予感がするな。」
「嫌な予感?ハラでも減ってるんじゃないのか?」
「お前は食い物のことばかり考えているのか!」
「腹が減ってはなんとやら、って言うじゃないか。」

弾のツッコミを軽くスルーすると、俺は教室に向かって歩き出す。

「じゃあな、諷。また後でな。」
「うん、頑張ってね兄ちゃん!」
「…。」
「どうした、弾?」

弾珍しく難しい顔をしている。

「いや、腹が…。」
「その話はもういい。何を思った?」
「何度も言うぞ。アイツに戦いは向かない。」


…。それには、言い返せなかった。
諷は、いわば復讐という想いだけで戦っている。それは「死に急ぐ」と言ったほうが良いだろうか。
アイツの戦い方は、ただ敵を「殺す」ための戦い方。そこに戦術や戦略は存在しない。

「それは…。」
「ま、いいわ。俺が口挟む事でもなかった。んじゃ、急げよ。」

俺は無言できびすを返した。
教室に着くとすぐに先生が来て、出席をとり始める。
そんな、とりとめとの無い普段の光景。俺は気だるそうに返事をする。
先生が教卓に立ち、今日の予定を話す
―――その、瞬間だった。
ドゴォォォン、という爆音。
その残響が養成所内に響き渡りガラスを全て割っていく。

「先生!何がおきたんですか?」
「キャアアアアアァァァッ!!!」
「な。なんだ?何が起きた!」
「とりあえず、外にでましょう!」

先生が的確な指示を下す。
廊下は炎上している。退路は塞がれている。
しかしここは幸いにも1階。飛び降りれば外に出られる。
先生に続き、生徒達は次々に窓から飛び降りる。ひたすら待つしかない。
しかし、それすらも「その存在」は許しはしなかった。
窓から降りていく友人達は、一瞬にして死体に早変わりした。飛び散る血しぶきが顔にかかる。

「錬!走れ!」

別クラスの弾が息を切らして転がり込んできた。

「あ・・・。」
「おい!しっかしろ馬鹿ヤロー!死にたくないなら走りやがれ!」

俺は言われるままに走り出した。
それは「絶対的な恐怖」からの逃走だった、あそこにいれば「死ぬ」と思い立った俺の脳細胞全てが体を突き動かす。

「一体、何がどうなっているんだ!」
「俺にもわかんねぇよ、ただ、「何者」かがここを襲ったってことだ!」

俺たちは走り続ける、ひたすら外に向かって。

「見えた、出口だ!」
燃え盛る校舎をあとに、俺たちは光の指す方向へと走った。

「ひでぇ…。」
「うぷっ…。なんだよこの有様は!」

目の前に広がる光景は、たとえるならば地獄絵図。
瓦礫となった校舎はどろどろとした赤いで血染まり、回りには人間だったはずの「もの」が無造作に転がっている。
そして鼻腔をこれでもかと刺激する、人のなかみの「におい」。

「待て、錬。誰かいる…。」
「ああ…まずいな。逃げるか?」
「いーや、無理っぽいぜ。」

皮肉めいた一言、それも無理は無い。目の前にたっているものの「存在」があまりにも圧倒的すぎた。


「まだ、いたのか。」

全身を包み込む悪寒、これ以上は動けない。脳が、体が動くことを許さない。
吐き気さえ催す絶対的な「殺気」。
目の前に立っているのは、細身の男。
忍者のような風貌をしており、背中には直径2mほどの巨大な手裏剣を背負っている。その輝きは、赤く彩られていた。

「2人しか残らないとは…養成所とは名ばかりか?全く。人間とはこの程度か。聞いてあきれるぞ?折角直々にこの俺が出向いてやったのになんの抵抗も見せない。情けないとしか言い様が無いな。」

言い返せない、言い返すこともできない、口を開くことさえも許されない。絶対的な状況の中でも確信できること、それは自分の命を守るという、人間の理念に基づいた行動…!考えるな、何も考えるな、考えるな!
俺は震える脚に渇をいれ、大地を思い切り蹴飛ばした。

「貴様…面白いな。勝てないと知りつつも俺に向かってくるか。それは生きるためかそれとも―――俺を倒すためではあるまいな?」

男はニヤリと不適な笑みを浮かべ、背中の獲物をゆっくりと手に持つ。
がしゃりと。
その時、不意にとんでもないものが通り過ぎた。
それは風。

「なッ…こいつ…「能力者」だと?!」

流石に度肝を抜かれたのか、男は一瞬驚き、そしてまた一遍変わらぬ冷酷な表情をその顔に浮かべる。

「ほう…コイツは。」

そしていきなり落ちてきたそれは一体。
緑色に光っているその姿はまぎれもなく俺たちと同じ人間。
そして…俺にとってはとても見覚えのある顔だった。

「諷…!」
「逃げて!錬兄ちゃん!!!」

そう大きく叫ぶと諷は体中から巨大な風の爪を発生させ、男に次々と投擲する。
数にして14。
一瞬で理解した。諷は、能力者として覚醒していた。
しかし男は四方から迫る爪を自らの身体能力だけで交わしていく、力の差は歴然だ。同じ能力者だとしても、ベースの強さには大きな違いがある。高性能なエンジンには、高性能なフレームも必要ということだ。

「逃げるぞ、錬。」
「でも諷が!!!」
「逃げろっていってんだ、逃げるぞ。」

誰でも直感的にわかる。
このままでは諷は死ぬ、と。ならば俺は…。

「無理だ!お前は行け!俺は、残る…。」
「・・・バカが。」

そういうと弾は何も言わずに走り出した。
これでよかったんだ…。不用意に人が死ぬ必要なんてどこにもないんだから。
目の前で繰り広げられる次元の違う戦い、俺にはそれを見ることしか出来なかった。
俺は恐怖以上に、そこに優雅さを見た。戦いとはこんなに美しく荒々しいものなのか。俺はそこにこそ自分の求めた力を見た。
ぐしゃぁっ!と一際大きな音が響くと、諷の体は宙を舞った。
どしゃり、と俺の目の前に崩れ落ちた。

「諷ッ!!」
「ごめん…兄ちゃん。僕…もうダメだ。必死に戦ったけど…。」
「しゃべるな!お願いだから!」

諷の体はもうボロボロだ。体中に穴が開いている。それに比べ男の体には一つの傷もついていない。これが圧倒的な力の差だ。

「少しは…楽しかったぞ。しかし解せんな…死に往く逝くものを心配するなど。それが愛とやらか?では…二人まとめて仲良く死ね。」
「あ…あ…。」
「うおおおおおおおおお!!!!」

適う筈の無い敵に向かって、全速力で拳をたたきつける。

「虫が。」

俺の拳の数十倍の速さで、奴の拳が鳩尾に叩きつけられる。

「んじゃぁな。」

男は、容赦なく巨大な刃を投げつけた。
細胞全てが「死ぬ」と体に警告している。
ああ、これが「死」か。
がっきぃぃん!

「え?!」
「ナイスファイトだ。坊主。」

いきなり現れた男の手には、手裏剣が握られている。
俺たちを殺す程度に投げられたものだ、威力もそれほどなかったのかもしれない。だが…それを素手でつかむなんて。そして、俺にはわかる。この人も「能力者」。そして相当の力の持ち主だってことも。
その存在感たるや圧倒的だ。
互いに睨み合う両者。

「貴様…エージェントか。まったく、いつも邪魔をしてくれる。」
「それはお互い様だろ?俺はアイアン。覚えておけ!一生忘れられない名前になるからな!」

そう言うと男、アイアンは手裏剣を投げ返した。
腕力だけで投げられた手裏剣は何の変化もなしに一直線に加速し、男を狙う。

それすらも男は軽々と持ち直すと、構えを取る。

「律儀に返してもらってすまんな。しかし俺は卑怯でね、貴様のように正々堂々とはしていないッ!」

4つに増えた手裏剣が宙を舞う。
それぞれが変則的な軌道を描きアイアンを狙う。

「甘ェ。」

そう、言い放つと一瞬で4つの刃を砕く。ただの拳での攻撃、それすらも強靭。

「この程度では通じないか…。ここは一旦引かせてもらうか。」
「待てッ!」

アイアンがそう言う前に、男は煙幕を撒き散らし逃げ出した。

「クソ…逃げ足だけは速いか。」
「大丈夫…ってわけでもなさそうだな。こいつはもう虫の息か。」
「…やっぱりそうですか。」
「お前さんもわかっていたはずだ。こいつが死ぬってことをな。しかし超絶望的状況での覚醒か…。今までに類を見ないタイプだな。って…ん?」
「どうかしましたか?」
「この坊主の力が…全部お前さんに移ってやがる。」
「え?!」

言われてみれば傷も全て癒えている、無意識のうちに自分でやったのだろうか。体に違和感も無い。リバウンドも無い。なんてご都合主義だ…!皮肉にも俺は大切な物の死で、欲した力を手に入れてしまったというのか!

「兄ちゃん…兄ちゃんが僕の代わりに戦って…!僕の分まで生きて…僕は、先にいくから…。」
「諷…。」
「ばいばい…。」

そういい残すと、諷は静かに息を引き取った。あまりにもあっけない最期。これが人の死か。
クソ…クソ!クソクソクソクソ!

「まぁ。仕方ねェ事だ。残酷な物言いをするがな。」
「…。」
「しかしまぁ、稀すぎるケースだな。坊主。体に異常はないか?」
「ええ、全くないです。むしろ…良すぎるくらいです。」
「何にせよ、お前は生きなきゃいけねぇ。こいつの意思を汲み取りたいならな。」

諷は俺に戦ってくれと言った。
しかしこの人は俺に生きろという。

「能力を持ってるからって、戦わなくてもいいんだゼ。おめェさんには戦わないで生き残る道も用意できる。」

その質問は、俺にとっては愚問だ。
なぜなら俺は―――。

「俺、戦います。この力を無駄にしたくないから…。」
「…わかった。お前の決めたことだ、俺は反対しねぇぜ。そんでもってヨ、俺が鍛えてやるよ。おめェさんを。」
「はいっ!」

こうして長すぎる一日は終わった。
そして大きすぎる犠牲を糧に俺は生き残った、一つの力と共に。
俺は…強くなる。

-END-



2, 1

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