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映画通り

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「映画通り」

彼女は映画を観終わると目に涙を溜めながら
僕がすました顔をしていることを咎めた。
感情がないのか、そんなにつまらなかったのか、と。
僕はそんなことなかったよ、と苦笑すると
未だ不満そうな顔をしていたが、こぼれた涙を一拭きして僕を思い切り叩いた。
痛いとこぼして身をよじる。
彼女はそんな僕を抱きしめて、ゆっくりと瞼を閉じた。
僕も腕を背中にまわして、しっかりとつなぎとめる。

しばらくすると彼女はするりと僕の腕の中から消えて
人混みの中へ消えていった。
僕は何も言わない。彼女も何も言わない。
少しだけ曲った背中を見ながら僕は溜息をつく。
すぐに後を追うが、すぐに見失ってしまった。

僕が彼女を見失う時間は以外にも長かった。
手を伸ばせば追いつく筈だと信じてやまなかったが
結局のところそれは叶わなかった。
あの映画を見てから随分の時が経った。
僕はそこそこの会社に、そこそこの働き手として、そこそこ勤めていた。

ある夜、彼女が再び僕の前に現れた。
彼女の左手の薬指には指輪が嵌まっていた。
ああ、なるほど。と僕が彼女に祝いの言葉を述べると
彼女は目を潤ませながら馬鹿、と呟いた。
その通り、僕は昔から馬鹿だった。

彼女はまだこの指輪をくれた人にはOKを出していない、と言った。
何故OKを出していない相手からの指輪を嵌めているのか気になったが
彼女はそんな疑問を口に出すよりも先に踵を返して街中へ消えた。
僕は彼女の背中を必至になって追う。

今度こそは逃さない、彼女の背中に手を伸ばしながらそう思う。
僕は昔より少しだけ背が伸びて、鬚が生えた。
昔より自分をよく知って、彼女を知りたいと望んだ。

だから、彼女を見失ったりしない。

そう、あの日見た、あの映画の通り。
2

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