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No.24/七月二十七日/村上 遠

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 七月二十七日。僕の住んでいる町では、祭りがある。
小学生の頃はこの日が来るのが楽しみで、母親からもらったお金と、貯金箱に貯めてあったお金を持って祭りに出かけた。もちろん、小学生の僕が買える物なんて限られていたし、
ただ意味も無く友達と祭りで賑わう神社や公園を歩き回るだけ。それでも、楽しかった。
だけど、高校生になった僕は、楽しくないどころか祭りに行かなくなっている。
なぜだろうか? 今なら小学生の時、買えなかった物を幾らでも買えるのに……
 そんなことをベッドの上で寝転がりながら考えていると、ドアを叩く音がした。
「雄介、犬野郎の散歩に行ってくれない?」乗り気ではなかったが、いいよと返事をした。
 家を出ると、通りには何人か浴衣を着た人が歩いている。僕は川に向かうことにした。
 川に着くと、神社から離れているためか、いつも通り人はほとんどいない。
薄暗い川沿いの道を散歩していると、ピンク色の可愛らしい浴衣を着た女性がいた。
どうやら何かを探しているようだ。そう思っていたら犬野郎が彼女の元へ走り出した。僕は慌てて追いかける。
「可愛らしい犬ですね、なんて言う名前なんですか?」
「犬野郎です」そう答えると彼女は笑った。多分、僕の愛犬の名前が可笑しかったんだろう。
「あの……何かお探しですか?」
「あ……はい。携帯電話を落としてしまって。多分この辺りにあると思うんですけど」
「じゃあ、あなたが僕の携帯であなたの携帯に電話をかければ、着メロが鳴って場所が分かると思うんですが、やってみます?」
「はい、よろしくお願いします」
 電話すると、意外にも僕たちの近くで着メロが鳴り、すぐに彼女の携帯は見つかった。
彼女が携帯を見つけた時は、愛らしい笑顔で喜んで、それを見れただけでも僕は手助けをした甲斐があったと思う。
「ありがとうございました。えっと、神社に待たせている人がいますので私は失礼しますね」そう言って彼女は小さな手を横に振る。
「あ、あの、その、待たせてる人って……男の人ですか?」
「はい」
 僕はその返事を聞いて、一目散に走り出した。なんであんなことを聞いたのだろうか? 
聞いて何の得になったのだろう? そりゃ、可愛い子には彼氏ぐらいいるよな。
 たった二文字の返事が僕を苦しめる。
 気づくと家に着いていて、犬野郎も息を切らしている。そんな無邪気な犬野郎のようになりたい。階段を上って自分の部屋にある勉強机に向かう。
勉強をしようと思った。机の引き出しから世界史の教科書を取り出して開く。
「フィリッポス2世の子であるアレクサンドロス大王は前334年東方遠征に出発した」
 こんなことが分かって何になるんだろうか? 勉強も大事だけど、それよりも……僕は……
教科書を閉じて、ベッドの上に寝転ぶ。窓の外からは心地よい虫たちの音色が聞こえる。
少し離れたら祭りの音に変わるのだろうか? 携帯が鳴った。この着メロは電話だ。
「もしもし」
「あ、あの、さっき携帯を探してた者です。あの時急いでいてお礼が言えなかったから、お礼を言いたくて」
「お礼なんていらないですよ。僕はあなたの笑顔が見れたので、それだけで満足です。」
 僕は何を言ってるのだろう。こんな言葉、僕が言ったら気持ち悪いだけじゃないか。
「……そんなこと言われたら恥ずかしいじゃないですか。あの、今……お暇ですか?」
「今ですか? 暇ですよ」
「じゃあ、今から一緒に祭りに行きませんか? 集合場所はさっきの所で」
「あ、はい。いいですけど……待たせてた彼とは行かなくていいんですか? 」
「ああ、あの人はアキラくん。いとこだから彼氏じゃないですよ。こっちに遊びに来てたから一緒に行っただけで、アキラくんは家に帰ったの」
「なるほどね。分かった。じゃあ今から向かうね。バイバイ」
 七月二十七日。僕の住んでいる町では、祭りがある。
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