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6手目:対局開始

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「じゃあまず9路盤でやってみましょうか」
「9路板って何だ?」
「碁盤の種類にはたくさんあってね、代表的なものが9路盤、13路盤、19路盤があるの」
「どう違うんだ?」
「盤の大きさよ。数字だけの線が縦横に入ってるの」
「ってことは9路盤ってことは、縦横に9本の線。その交点に打つから81ヵ所打つところがあるんだな」
「そうね、正方形の形になるわ。実際81か所全部に打つことはないと思うけど」

そこまで言うと葵は押入れへと行き、何かを探し始めた。
今気づいたんだが、葵の部屋はやっぱり女の子っぽかった。
ぬいぐるみが所々に飾ってあり、カーテンは明るい色で統一されている。
さらには床にはごみ一つ落ちてなく、きれいに畳んだ服などが積まれていた。
ベッドには枕と一緒に大きなクマのぬいぐるみが置いてある。
きっと一緒に寝てるんだろうな。いつもの葵とは違う一面を見た気がした。

「あったあった。子供の頃に買ってもらったんだ」

そう言いながら、古びた板を大事そうに抱えてくる。
9路盤って意外と小さいんだな。
俺の前で着々と準備しているが、俺には全く何をしていいのかわからない。
ただ、石が入っているであろう丸い入れ物を手渡された。

「ハンデは……つけないよね。優斗そういうの嫌いでしょ?」
「もちろん。勝負は正々堂々と!」

葵は苦笑いを浮かべて、初心者なのにね。とつぶやいた。

「じゃあ、互先(たがいせん)ってことでいいの?」
「なんだよ互先って」
「棋力が……んと実力が同じくらいの人が対局すること」
「ちょっと待てよ、俺は初心者だぜ?」
「ハンデいらないって言ったじゃん」
「そういうことか……いいぜやってやる!」

俺は力みながら勢いよく入れ物のふたを外す。中は白い石がいっぱい入っていた。

「俺は白なのか?」
「ううん、互先の時はニギリって行為をするの」
「何を握るんだよ」
「ニギリは先手と後手を決めるためにするの」
「ほう、先手の方が有利なのか?カードゲームとかみたいに」
「先手の方が有利よ、だからコミってものがあるの」
「なんか専門用語のオンパレードだな」
「最終的に白に6目半のハンデを与えるんだよ」
「白にはハンデがあるのか……」
「いや、不公平さを無くすためだよ。黒の方が勝つ確率が高いんだよ」
「なるほどな、コミが無かったら黒にハンデがあるってことか」
「そうだよ。それでねニギリのやり方は、まず白が好きなだけ石を握るの」
「なるほど、それでニギリってことか」

俺は適当な数を握った。なんだかひとつかみ200円というゲームをしているようだ。

「その手を盤上まで持ってきて。あ、まだ開いちゃだめよ」
「なんかひんやりしてて気持ちいいな」
「そして、黒の方が白が奇数個か偶数個かを当てるの」
「同じ数を当てるんじゃないのか」
「当たり前じゃん、そんなの無理だし。でね、黒石1個が偶数で2個が奇数」
「当たれば先手なのか?」
「そう、黒が奇数か偶数か当てれば先手。黒のままね」
「はずすと白の方が黒になるってことか」
「そう、飲み込み早いじゃん。じゃあ、私は黒石2個」

葵は碁盤の上に2個の黒石をそっと並べて置いた。
なんだかわくわくしてきたぜ。

「奇数だな、よし開くぞ」

手を広げると碁石が盤面に音を立てて落ちる。それを右手でわかりやすく並べる。

「5、6、7、8……偶数!」
「なら優斗が黒ね。はい、石の交換よ」

俺と葵は互いの色の石の入った入れ物を交換した。

「さぁ、黒の優斗が先手よ!」

俺、凄くドキドキしてる……。今から俺がこの手でこの盤面に石を置いていく。
陣地取りゲームだというけど、俺はそう思わない。
俺はこの盤上で自分を表現する。そして戦争を起こす!
こそこそ隅っこで戦うなんてありえない。堂々と王として君臨してやる!
俺は石を1つ掴み、勢いよく1手目を打った。

思えば、俺はもうすっかり囲碁の魅力にハマっていたのかもしれない。

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