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第三掘「宣戦布告」

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かつて堀ススムの通っていた、私立菊門高校。
その屋上に、四人のDQNが集っていた。
バンド「スカトロ」のベーシスト、江川。
空手の黒帯持ちの巨漢、久坂。
金持ちのボンボンであり、グループの参報役の村井。
そして、グループのトップであり、菊門高校のDQNのトップである松野。
事実上、菊門高校のDQNを牛耳る四人が一同に介した事になる。
いや、これが三日前までは五人だったのだ。
もう一人、この輪の中には、ヤリチンで知られたギャル男の尾藤がいた。
だが、その姿は今はもう無い。

「尾藤のやつ、転校するそうだ」
松野が言った。
三日前の真夜中の事だ。
尾藤エイジのケータイから、四人に写メールが送られてきた。
写メには、尾藤の、男の逸物を咥えさえられた姿と、ザーメンまみれで尻を掘られる姿が写っていた。
メールの送信先のアドレスを確認すると、その写メは四人だけでなく、尾藤の女全員にも転送されていた。
こうなってはもう尾藤はこの街には居られないだろう。
長年の付き合いである四人にさえ、それを思い留まらせる言葉が浮かばなかった。
セカンド・レイプ。
レイプの被害者が、事件後、社会において好奇の目で見られる事による精神的レイプをそう呼ぶ。
結局、尾藤はそれ以来、誰とも顔を会わせる事無く、街から姿を消したのだ。
この事件は、『下北ヤンキー掘りボクサー事件』として、瞬く間に街に拡がった。

しかし、本題はそこではない。
問題は、
何 故 こ の 写 メ ー ル が こ の 四  人 を 選 ん で 送 ら れ て き た か と い う 事 だ。

「宣戦布告のつもりか? これから、俺達四人を狩るっていう?」
村井が言った。
「ふざけた野郎だな。 犯人に心当たりはあんのか、松野?」
江川が煙草をふかして聞く。
「あり過ぎて困らぁ。 この学校だけでも、十人は掘ったからな。 街のヤツも合わせりゃ、もっとか」
悪びれる事も無く、松野が言う。
この男にとって、他人を掘るという行為はオナニーと一緒だ。
性欲の処理以外の何者でもない。
ゆえに、松野には他人を掘る事に罪悪感は無かった。
「なら簡単だ」
久坂が言った。
「松野が掘ったヤツを、片っ端から狩ってけばいい。 いつかは『ヤンキー掘り』に辿り着く」
「それいいじゃん!」
久坂の提案に、村井が賛同した。
久坂は空手の有段者だけあり、その戦闘能力は松野にも匹敵する。
己の腕力のみに矜持を持っている類の人種なのだ。
「そいつはまず、俺に先陣切らしてくれねぇか」
江川が挙手した。
三人の視線が、一斉に江川に集まる。
「『ヤンキー掘り』のせいで、尾藤はこの街に居られなくなった――――――」
「――――――――――」
「尾藤とは、小学校の頃からの腐れ縁だ……あいつの事は誰よりも俺が一番よく知ってる…! その尾藤を、掘りやがった、掘りやがった! 『ヤンキー掘り』……許せねぇ! 必ず見つけ出して、肛門に鉄パイプ突っ込んで、俺の糞を食わせてやる……!」
「江川………」


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駅ビルの屋上から、『ヤンキー掘り』は夜の街を見下ろしていた。
まず一人目は社会的に葬った。
だが、標的はまだあと四人も残っている。
今日もあの外灯の何処かで、あの四人は闊歩しているのだろうか。
トランクスの中が、じくじくと疼いた。
勃起している。
ああ――――――――
掘りたい。 掘りたい。 掘りたい。
いまや、ススムの中に、そういった欲望が芽生え始めていた。
最初は、演技だった。
男同士のセックスなんて、生理的に考えられなかった。
だが、尾藤を掘った事によって、ススムの嗜好が新たな境地に辿り着きつつあった。
掘る事への開眼。
あれ以来、普通のオナニーでは満足出来なくなっていた。
完全に尻の味の虜になってしまっていた。
いや、それは正確ではない。
かつて自分を蔑んだ奴らが、自分に対し恐怖と畏怖の念を抱いて赦しを乞う中で、無慈悲に掘ってやる事こそが快感なのだ。
あのヤリチン野郎の男としてのプライドをズタズタにしてやった。
その事実がもたらす、サディステックな快感。
そいつがたまらない。
「大丈夫だ、上手くやれば、まだあと四回もそれを経験出来る――――――」
ススムは、湧き上がる性衝動を抑えられなかった。
早く掘りたい。
奴らにあの恥辱を味わわせてやりたい。
しかし、それは一歩間違えれば自分も掘られるリスクを孕んでいる。
そして、今度捕まれば、今度こそ奴らは容赦をしないだろう。
何しろ、すでに奴らの内の一人を社会的に抹殺しているのだ。
奴らもそれ相応の……いや、それ以上の報復に出るに違いない。
社会的に殺されるか、それとも本当に殺されるか。
どちらにしろ、『次』は無い。
この復讐劇は、崖の上に張られたロープの上を歩くようなものなのだ。
すでに足は地を離れて、ロープの上を歩いている。
もう後戻りはきかない。
この狂気の道を、最後まで渡りきるしかないのだ。


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