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開戦 〜ミサイル・斬撃・人海戦術〜

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 やはり気づかれたか……。こちらに視線を向けている目標に、彼女はそう呟いた。おそらく、あちら側に広範囲レーダーを使用可能な機体が存在しているのだろう。とはいえ、こちらが空間展開マクロを使用しない限り、あちらも手が出せない。その点では、こちらが優勢だ。
「問題はバンガードの動き、か。先走らなければいいが――」
『聞こえていますよ、ロングバレル。私の事がそんなに信用できませんか、貴女は』
無線がONになったままだったらしく、バンガードの不満げな声が返ってきた。ああ、そうだ。彼女は心の中でそう呟いた。私を僚機に指定したのも、他の同志から協力を得られなかったからではないのか。
『……まあ、いいでしょう。時間が来ても、貴女はそこで暢気に観察していればいい。その間に私と『14番目』とで制圧します』
「そうさせて貰おう。お前とは到底理解し合えそうにない」
そう吐き捨てて、彼女は一方的に無線を切った。ああいう輩はどうも苦手だ、と彼女は思う。己を過信し、他を見下すような者が同志だと思うと、虫唾が走る。
 それに比べれば、メルセデスは優秀な同志だ。自らが武に優れぬ存在である事を自覚し、自らが得意とする策略でそれを補おうとしている。まさに「敵を知り、己を知る」者であり、我々の任務遂行を確実なものとしてくれる指揮補佐官。
「あの輩も、彼女の爪垢を煎じて飲めば多少は良くなるか。……否、無理だな」
独り呟きながら、双眼鏡を目標のいる方向に向けた。どうやら、こちらへの関心は失ったらしい。今は、机に置かれた地図を見ながら何かを話しているようだ。椅子に腰掛けている人数を確認し……、彼女は『違和感』に気づいた。
「1人いない、だと?」
もう一度数える。1人、2人、3人……やはり1人いない。もう1人――あまりパッとしない雰囲気の青年はトイレにでも行ったのだろうか。彼女がそう思った瞬間、背後にかすかな気配を感じた。振り返ろうとした瞬間、首筋にバチッと強く痺れるような感覚が走る。
「っ……!?」
しまった、スタンガ……。一瞬白く染まった視界の中で誰かの声が響くが、はっきりとは知覚できない。視界が闇で染められていき、そのまま……彼女は深い眠りへと落ちていった。

 「――い、そんな手荒い方法を使うのは良くないよ!」
そう言って怒る少女の声で、布津葉は目を覚ました。どうやら休憩所らしいが、何故ここで横になっているのだ……?確か背後から襲われ、気を失って……。
「仕方ないだろ。下手に暴れられたりしたら、困るのは俺達だ」
必死に弁解する少年の声で、彼女は全てを思い出した。そうだ、観察中に背後から奇襲された。そして……彼らに捕まったという事か。まだ痺れの残る体で起き上がり、自身の状態を一通り確認する。外傷は特になし、ただし両手が背中の方で縛られているようだ。といっても、きつく縛ってあるわけではないようだから、完全な拘束目的ではないのだろう。
「……お、起きたか。手荒な真似してすまないな」
彼女が目を覚ました事に気づき、彼が謝罪の言葉を掛ける。その声は、気を失う直前に聞いたそれと同じだ。
「すまんで済めば警察も軍隊も要らん」
「ホント悪かった、許してくれ」
厳しい目を向ける彼女の前で頭を下げると、彼はそう言った。……反省はしているようだが、相手はこちらを敵として認識している筈だ。ならば、下手に心を許したりなどできない。そう思いながら、彼女は目の前の青年を更に睨みつけた。
 そんな彼女を前にして、もう1人の青年――何となくキザっぽい雰囲気だ――が急に立ち上がった。そして、動揺している青年の肩を軽く叩いて言う。
「オイオイ、彼女怒ってんじゃねーか。だからやめとけって言ったんだよ」
「姫澄、お前さっきまで黙ってた筈だが。――ともかくだ、お前が何者で何を理由に覗きなんてやってたのか、はっきりさせないと」
なるほど、それが聞きたいわけか。彼の言葉を聞いて、彼女は納得した。思わず口に出してしまう辺り、人間らしいといえばそこまでだが……尚更口を利くわけにはいかない。少なくとも――タイムリミットまでは。
「話してくれ、と言ったところで話すわけでもないだろう?ここは一度、私が尋問の手本というものを――」
今度は年長者らしい女性が席を立った。その雰囲気から察するに、逆らうと痛い目に遭わされそうな人物のように思える。と、先ほどのキザな青年が慌てて止めようとした。
「ストップ!姉貴がやったらショック死しかねないぜ」
「心配するな、私も手加減の仕方くらい弁えているさ。……まあ、口を割らないというのなら、徹底的にやらせて貰うしかないがな」
ニヤリ、と女性が不敵の笑みを浮かべる。間違いない、この人間には下手に逆らえない。
「弁えてるのかよ、それ……」
呆れたように突っ込む青年に対し「突っ込むところはそこか」ともう一人の青年がツッコミを入れる。……この人間達、一体何がやりたいのだ。彼女は呆れてため息をついた。
 「ともかく、だ。まずは貴様の名前を訊かせて貰おうか」
仁王立ちになった女性から、凄まじく凶暴なオーラが漂ってくる。名前くらいは適当に誤魔化せるか……。
「セレン、セレン・ヘイズだ」
「そうかそうか。痛い目に遭いたいという事か」
満面の笑みを浮かべながら、女性は右の拳をポキポキと鳴らした。マズい、やられる……!
「ふ……布津葉優乃だ」
彼女が慌てて言い直すと、女性はニッコリと笑い返した。
「それでいい。次に嘘をついたら……わかっているな?」
その言葉を聞いた途端、彼女の額から冷や汗がいくつも伝い落ちた。そして、自分の指先が微かに震えている事に気づくと……彼女はゆっくりと頷いた。それを見て、女性が更に笑みを浮かべる。……くそっ。
「私達を監視していた理由は何だ?」
「上からの命令だ。敵方の動向を観察し、その詳細を報告せよとの事だったので、監視していた」
「敵性NPCなのだな、お前は?」
「その通りだ。作為的に転移マクロを異常動作させ――」
ああ、私は何を言っているんだ。そう思いながらも、返答を止める事ができない。逆らいようのない圧倒的な恐怖……、それが目の前に存在している。たったそれだけの事で、私の決意が揺らぐとは――。彼女は、自分の中で何かが崩れ去っていくような気がした。何を訊かれたのかすら知覚できないまま、自動的に答えを返していく。
「――最後の質問だ。お前達の目的とは何だ」
「我々の目的は――」
 次の瞬間、耳を劈くような高音とともに、空が赤く染まり始めた。そうか……時間が来たのか。極度の緊張に精神が汚染され、半ば朦朧とした意識の中で布津葉は思い出した。目の前に立つ女性が、やけに落ち着いた様子で周りに指示を出す。
「敵襲か。戦闘の用意をしておけ」
「さすが姉貴、緊急時ですら全く動じてないぜ」
「ったく、暢気な事を言っている場合か。スミレ、キキョウ!」
女性の言葉に呼応して、他の3人が各自の機体を呼び出す。瞬く間に4体が周囲に展開した。あとの1体は、簡易アーマー状態のまま休憩所内に残る。なるほど、全員が戦い慣れた人間という事か。納得しつつ、彼女はゆるく縛られた両手を解き始めた。大して苦労もせず、巻きつけられた紐はあっさりと解けてしまった。
「縄は解けたか。まあ、最初からそのつもりで縛っていたのだから当然か」
突然、こちらに背を向けていた筈の女性が言った。
「逃げたいか?」
「逃げたところで裏切者だ。話してしまった以上、もはや生かしてはくれん」
女性の問いかけに答えると、彼女はため息をついた。とはいえ、ここで通常モードに移行したところで袋叩きに遭うだけだ。隙を見て脱出し、味方ごと彼らを討つか。それとも、ここで人質として醜態を晒すか。

 「人質に取られるとは何とも情けないですね。所詮はその程度の戦力ですか……」
視界にロングバレルと目標の姿を捉え、バンガードはため息をついた。彼女の事です、うっかり口を滑らせてしまっているに違いないでしょう。
「まあ、作戦遂行には何ら問題ないでしょう。そちらは大丈夫でしょうか?」
『問題ない。いつでも出られる状態だ』
彼女の問いかけに、無線相手は冷静な口調で応答した。ロングバレルとは異なる冷静さに頼もしさを感じ、彼女はほくそ笑んだ。
「では……。ミサイルカーニバルです、派手にいきましょう」
くれぐれも巻き込まれないよう注意して下さい、と呟きながら――アーマーの各部に格納されたマイクロミサイルを一斉に射出した。

 「ミサイル飛来、上から沢山!」
目を閉じて周囲を探っていたチグリスが、唐突に叫ぶ。慌てて空を見上げれば、言ったとおりのものがこちらへと飛来してくる様子が目に入った。
「セイン!」
「任せとき!!」
セインは、そう答えると同時に機関銃を乱射した。直撃を考慮しない、単なる迎撃の為の弾幕。だが、ひしめき合うようにして飛んでくるミサイルに対しては非常に効果的だった。弾頭部に直撃弾を受けたミサイルが爆発し、付近のミサイルに誘爆。ミサイル弾幕のあちらこちらで爆発が起こり、一気に波及していく。瞬く間に全ミサイルが視界から姿を消した。
「よし!」
姫澄が思わずガッツポーズを決める。
 が、チグリスの表情からは、未だ深刻さが滲み出ていた。これだけのミサイルが飛んできた、それが意味するものは当然――。
「また物量作戦か。しかも量産マッハライダーときた」
俺達の真上をハゲタカのように旋回する無数の機影。戦闘機に似たそのフォルムから、考えられる機体は1つしかない。空戦タイプとは、これまた厄介だ。
 しかし……これだけの頭数を何処で調達したのだろうか。人に近い思考パターンを持つAIならともかく、あれはロボット同然の代物だ。自分から具現化させられるものではない。となると、RPGで精霊を召喚するかのごとく呼び出しているのだろう。そうだとすれば、召喚主が何処かにいる筈だ。
「チグリス、広域レーダースキャンを頼む。おそらく近辺に召喚した奴がいる筈だ」
「了解、今から実行する。……って、ボクは何でマスター以外の指図に従ってるのさ?」
「知らんがな……。ともかく頼んだぞ」
疑問に思いながらも、律儀にスキャンをこなす彼女を見て、俺はため息をついた。これってアレか?口では否定しても体は正直っていう……、って何を考えているんだ。
「スキャン完了。北西方向1キロ遠方にそれらしき機体を発見。マッハライダーの指揮官仕様だね。機動性や細部に違いがある」
「よし……。スミレは敵のリーダーを直接叩け。キキョウは近接攻撃で上空の敵を排除」
「了解しました」「やってみる」
 返事と同時に、2人が飛び上がった。高度を稼ぎつつそれぞれの目標へと接近していくのを確認したところで、姫澄からセインに砲撃による援護の命令が下る。チグリスはこのまま情報収集、今頃になって復活したユーティには、少女の見張りという役割が与えられる事になった。
「ところで、瑛香さんの愛姫はいつ出すんですか」
と、大河が不思議そうな顔で尋ねた。そういえば、姫澄姉の愛機はまだ拝見していない。ユーティや、さっきのキキョウのように寝ているのだろうか。
「ん?……ああ、すっかり忘れていたな」
今になって思い出したらしい。彼女は自分の鞄を開き――インカムを取り出した。それを装着し、さっそく誰かと、――おそらく愛機と話し始める。
「桜花(おうか)、出撃だ。敵の位置はわかるな、……そうだ。敵は容赦なく撃墜、できる限り早く合流しろ」
「うわぁ――っ、なんだかカッコいいです!」
そのやり取りを目の前にして、大河が目を輝かせた。その気持ちは分からんでもないな。俺も、そういう姿を見るとカッコいいと思う性質(タチ)だから。そんな調子で見つめる俺達をよそに、彼女は次々と指示を出していく。さながらオペレーターのようだ。……とはいえ、外見と声のギャップが凄く気になるのだが、そこはあえてスルーすべきか。
 「――敵は劣化しているが数が多い。残弾に注意して行動しろ」
そこまで言い終え、彼女はため息をついた。どうやら、一通り愛機への状況説明が終了したらしい。つい、「お疲れ様です」と労いの声を掛けたくなったが、直後に起きた爆発でそんな考えは吹き飛んでしまった。どうやら、流れ弾が近くに落ちたようだ。いつ休憩所に直撃するか分からない状況だ、のんびり観戦しているわけにもいかない。
「場所を移そう。――チグリス、身を隠すのに最適な場所は何処だ?」
俺が尋ねると、彼女は近くの茂み――つい先ほど布津葉が隠れていた場所だ――を指で示した。
「とりあえずあそこへ。敵の攻撃はキキョウとセインに集中してるから、障害は殆どないと思う」
「よし、行こう」
その言葉を合図に、俺達は茂みへと駆け出した。荷物は置いたままだが、おそらく問題はないだろう。殆ど、というより全く攻撃を受ける事無く、全員が茂みの奥へと辿り着いた。

 「はあっ!!」
掛け声とともに、腕部に装備した長剣が振り下ろされる。まるで紙細工のように機体が両断され、断面から火花を散らしながら落下していくのを横目に、キキョウは次のターゲットへと斬りかかった。これで何体撃墜したのか分からない。少なくとも20は落とした筈だが、未だに無数の敵機が彼女の周囲を飛び回っている。
「何処から湧き出てきたのか知らないけどっ!」
そう言って、片腕の剣を横に凪ぎ払う。視界の端で、敵の破片が火を噴いた。
「いい加減にっ!」
もう片腕の剣を袈裟懸けに斬り下ろして、前方にいた機体を切り裂き。
「目の前からっ!」
その残骸を蹴り飛ばして盾代わりにし。
「消えなさいよっ!!」
そして、ブーストとともに双剣を一閃させた。一瞬の静寂が訪れ――直後、進路上にいた多数の敵機が真っ二つになる。彼女を追跡してきたミサイルの群れがそれらと接触し、派手な爆発を引き起こした。
「これだけやってもまだ……くっ」
間隙を縫って飛来してきたミサイルを回避しつつ、彼女は再び陣形を整えつつある敵を見やった。――本当にキリが無い。
 『ヘタレ!大丈夫かいな?』
ミサイルの誘導が切れたところで、セインからの通信が入った。相変わらずの呼び方とはいえ、本当に心配しているようだ。嬉しさと照れの混じった感情を露にして、彼女が怒鳴り返す。
「ヘタレって言うな!もう、心配してる暇があったら支援しなさいよ!」
『せやかて、ウチも一杯一杯なんや!そっちの敵はそっちで処理して――うおりゃ!』
最後の掛け声と共に、何かがひしゃげるような音が響く。どうやら、あのナックルで敵を殴ったらしい。
『ほな、さっさと終わらせて助けに来てや♪』
「そんな無茶……って勝手に切るな!――ああ、もうっ」
 一方的な要求に苛立ちを募らせる彼女を、敵機が取り囲み始めた。ブースターを噴かして離脱を図るも、待機していた敵機に阻まれ足が止まる。何しろ、敵は戦闘機なのだ。並みの機体が離脱を図ったところで、そう簡単に逃げ切れる筈が無い。おまけに、今は大編隊と対峙しているのだ。この区域から離脱するのはほぼ不可能だろう。
「まったく、厄介な戦法ね……」
そう呟いて、彼女は剣を構え直した。少数先鋭に対しての人海戦術、その強さは武器の損耗と体力の消耗だ。数機ないし一個中隊程度ならまだしも、これだけの大部隊を相手にするとなると、弾も格闘武器もそれ相応の消耗を強いられる。そして、どんな手練であろうといずれ訪れるであろうミスに付け込まれたら最後、その先は悲惨な運命が待ち受けている。
「ロングブレードも悲鳴を上げてる。もう、限界は近いわね」
実際、彼女の双剣も使い過ぎで切れ味が落ちてきている。そろそろ刀身が折れるかもしれない。そうなればダガーとラピッドガンで対抗するしかないが、敵の数に対して弾数が足りないのは明らかだ。適当なところで撤退するしかない、か。でもどうやって――。
 そう思った瞬間、先頭に立つ機体の群れから多数の飛翔弾が放たれた。全方位からの弾幕攻撃など回避し切れる筈もなく、何発かが直撃してリアクティブシールドを減衰させる。ダメージ自体は無効化されても、着弾時の爆風によってバランスを崩してしまい、更にそこへと撃ち込まれ……。気づけば、リアクティブシールドが完全に消滅していた。破片の刺さった脚と脇腹から、潤滑液が染み出している。人間ならば重傷だろう。痛覚が殆ど無いというのが、唯一の救いだった。
「……っ」
ロケット弾を受け止めて折れた右腕の剣をパージ、腰にマウントしていたラピッドガンを右手に握る。そして――突然、敵に斬りかかった。虚を突かれた敵機が、回避行動を取る間もなく両断される。その先にいた敵機が銃弾を翼下の爆弾に受け、誘爆を起こした。更に、その先の機体が胸部から背中までを剣で貫かれる。ここまでの動作は2秒にも満たない。文字通りの早業で血路を切り開き、彼女は背部ブースターを最大出力で噴射した。グンッ、と身体全体に強い抵抗を受けながらも、彼女は敵ですら追随できない程の速度で離脱した。
 追っ手がいない事を確認すると、彼女はブースト出力を通常以下まで落とした。スピードが徐々に落ちていき、それと共に彼女に掛かっていた抵抗がなくなっていく。
「ハア、ハア……。とりあえず成功したわね――」
苦し紛れに呟いた直後、もう1本のブレードが自動的にパージされる。最後の一撃の際、刀身の半分が折れてしまったのだ。どの道この損傷だ。敵が来たとしても、もはや戦えない。今になって傷口の痛みが激しさを増し、彼女の顔が歪む。
「くっ……!い、いっそ死んだ方が良かったかな」
そんな事を言いつつも、生き残りたいが為の行動をとった自分に対して笑う。彼と、彼らと生活するうちに、いつの間にか人間臭くなってしまったようだ。彼女が望んでいたモノ、それがいつの間にか実現してしまった事に気づき、彼女は苦痛交じりの笑みを浮かべた。
「さて、と。私の『マスター』のところまで戻るかな――」
そう言いかけた瞬間、突然頭部のレーダーが警告を告げた。彼女が飛んできた方向とは逆の方角に熱源反応。そして、それよりもっと微弱な熱源が、こちらへと急速に接近している。
「しまった!」
慌てて振り向いた先には、一発の砲弾があった。グレネード弾頭を搭載したそれが、彼女目掛けて飛来してきている。彼女はラピッドガンを構え、撃とうとしたが――不幸にも、指が麻痺してトリガーが引けない。ダガーを投擲している暇は既に無く、彼女はゆっくりと迫る砲弾を呆然とした表情で眺めていた。

 そして――赤い空に、小さな爆発が1つ発生した。
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