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家出

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自分の家の裏庭をゆったりと散歩していたエリスは気配を感じ身を潜めた。
中庭に背の高い黒髪の男性が自分のことを呼んでいる。
「お嬢様ー! 隠れているのは分かっています早く出てきてください!」
エリスは金髪に碧眼という姿だが、彼は黒髪に漆黒の瞳。
要は日本人なのだ。
彼は日本人だがナトリー家令嬢エリスの執事(バトラー)である。
腹が減って倒れていたところをエリスが拾い、執事として傍におかせているのだ。
「お嬢様! もう時間です急いでくださらないとお父様がお嘆きになられますよ」
リョウタロウはどんどんエリスが隠れているところに近づいてくる。
エリスが何故隠れているか。それは今日がエリスの結婚お披露目パーティーだからだ。
「エリス様早く行きましょう。皆さんがお待ちです」
エリスの相手は名門のウィルソン家のエドモンドである。
エドモンドはスポーツ万能で成績優秀。容姿も最高で性格も良い。
「嫌よ。絶対いや! 誰があんな奴に嫁ぐもんですか!」
「お嬢様! そんなこといってはいけません!」
ぴしゃりと言われエリスはそっぽを向く。
何故エリスはそんな最高な相手と結婚するのが嫌なのか。
答えは明白である、執事のリョウタロウのことが好きなのだ。
エリスはずっとリョウタロウのことが好きで幾度もアピールしたがそっちの方面はてんで鈍い。
鈍すぎる。余りにも鈍感なので頭にくるくらいだ。
「私はあんな奴と結婚するくらいならリョウタロウと結婚した方がマシよ」
正直に気持ちを告げられないのが苦しい。
まぁ、正直に伝えれば 「恐れながら俺もお嬢様のことを家族のように想っていますよ」と、にっこり微笑んで言われるだけなのだが。
「何が不服なんです? 素晴らしいお方ではありませんか」
貴方が好きだからよ! 
等とは勿論言えず黙って噴水の方へ顔を向ける。
するとリョウタロウも一緒に動く。
右に左に後ろに前に。
「お嬢様、人の話を聞くときは目を見て聞くものですよ」
「私に説教たれるなんて貴方くらいなものよ」
はぁ、と溜息をついて空を仰ぐ。
雲はいいなぁ。自由なんですもの……。
「お嬢様考え事をしているようですけれど時間がありません」
「ねぇ、貴方の夢って何」
リョウタロウは、はぁ? という顔をしたがすぐに真面目な顔に戻した。
「夢ですか。俺にはそんなものはありませんね。まぁ、強いて言うのならお嬢様の役に立ちたいと言うとこでしょうか」
「強いて言うとなのね」
苦笑しながらそう言ったエリスはリョウタロウに顔を向けた。
その顔にはどこか力強い意志が垣間見える。
リョウタロウはこのとき物凄く嫌な予感がした。
「婚約破棄ってどうしても駄目?」
「駄目ですね。お父様が許してくださらないでしょう」
そう……と呟くとエリスは何故か喜色満面になった。
リョウタロウはこのとき物凄く逃げたしたくなった。
「私、家出するわ!」
嫌な予感が当たった。
リョウタロウは痛くなった頭を抑えた。
「お嬢様。それはどう考えても――」
リョウタロウがそういいかけた瞬間明るい声が聞こえた。
「お嬢様ー準備できましたぁー」
振り向くと専属のメイドであるレティーシャが門の前で手を振っている。
その先には同じく専属メイドであるジャスティンが車の前で如何にもすまなさそうに立っている。
「ほら。準備は万端よ」
「お嬢様の行動力と決断力には度々驚かされますが……これほど頭痛が酷くなったのは久しぶりでございます」
リョウタロウが妙に丁寧な言葉遣いで話すときは大抵怒りを抑えているときだが、エリスはそんなこと気にしない。
「リョウタロウこれは命令よ! 私を無事に家出させる事とお供する事よ!」
「命令ですか?」
心底うんざりした様子できくリョウタロウにエリスは元気いっぱいの返事をする。
「ええ!」
「はぁ………わかりました」
さっきから何度もこめかみをほぐしているが一向に頭痛が治らない頭を抑え命令に従う。
一緒に門に向っていると門から一人の男性がやって来た。
エドモンドである。
「やぁエリスご機嫌よろしいようで何よりだよ。わざわざのお出迎え感謝痛み入る」
「こんにちはウィルソンさん。けれど別に貴方に会うためにここまできたわけじゃなくてよ」
少々不機嫌になったものの笑顔を崩さず語りかけるエドワード。
「まぁまぁそんなに邪険に扱わないでくれ。今日は僕たちの結婚お披露目パーティーじゃないか」
「あら、そんなものあったの? 忘れていたわ。けれどどっちにしろ意味ないわね」
怪訝な顔をした後嫌な予測でもしたのか渋い顔になるエドモンド。
「どういう意味だい?」
「あんたとの婚約はなしって事よ。じゃあねぇ~♪」
車に乗り込もうとするエリスに急いで近寄るエドモンド。
「ま、待ってくれエリス! 僕のどこが不服なんだい!?」
「んー全部」
エリスを引きとめようとするエドモンドの前にリョウタロウが立ちはだかる。
「すみません。お嬢様のこと諦めてもらえませんかね?」
「ふ、ふざけるなよ。そこをどけ執事如きがっ―――!?」
リョウタロウの肩に手をかけた瞬間体が地面に叩きつけられていたエドモンドは何が起こったのかわからないと言う表情だった。
「えっあっ?」
「すみません。俺柔道七段でして」
地面に倒れているエドモンドを放って置いてリョウタロウは車に乗り込む。
「じ、ジュードー?」
残されたのは今だ起き上がれないエドモンドだけだった。

2, 1

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